第13話 入学二日目 放課後 中編
「よし、買うものはこれぐらいかな」
買いそびれていたノートやついでに買った小説・漫画などの本、その他にも色々入った紙袋を抱えたまま書店を出る。これでこれで必要なものも自分で欲しかった物も揃ったから帰ろうかな。一応テスト範囲ぐらいは軽く復習しておかないと。春休みのうちに一通り教科書類は読み終えたから問題無い……とは思うんだけどせっかくならある程度の点数は取っておきたい。成績が良くて損することはないはずだし、異世界に行って苦労した報酬だと思えばちょっとズルいかもしれないけどそれにかまけて努力しないよりマシだと考えておこう。
さて……買い物を終えたは良いけど、なんだかんだ昼食から時間が経って喉が渇いてきたな。そういえば小鳥遊さんたちが駅前のカフェに行くって言ってたっけ。帰る前の休憩に寄ってみようかな。出口に向かって歩きつつ鞄を開けて紙袋をしまう。周りには気付けないように紙袋の中身を亜空間に入れておく。
「えっと……ここで良いのかな?」
ショッピングモールを出て数分歩くと、駅前の広場に辿り着いた。広場には多くの店があり、その中からアンティーク調のテーブルセットの並んだバルコニー席とテラス席がオシャレな喫茶店に入る。店内に入ると、思っていたよりも人が多く一階席がパッと見でも八割ほどが埋まっているようだ。
「いらっしゃいませ〜。現在二階席及びバルコニー席が満席となっておりますので、一階席もしくはテラス席となりますがよろしいでしょうか?」
「はい」
「それでは注文がお決まりになりましたらお伺いしますのでお呼びください」
「ありがとうございます」
テラス席に座ると、にこやかにメニューを置いて一礼した店員さんはキッチンへと戻っていった。
「メニュー思ってたよりも豊富だな。どれも美味しそうだけどもうお昼食べてきちゃったよ……まあそれは今度食べに来れば良いか。飲み物は……ってこのパフェ凄!?」
結局飲み物はメニューにオススメと書かれていたコーヒーを頼む事にした。それにしてもメニューに載っていたパフェは映り込んでいたコーヒーカップと比較してもとんでもない大きさだった。もし小鳥遊さんたちにこの特盛りパフェを猫垣さんが奢らされていたら相当な出費だろうな〜なんて考えつつ注文したコーヒーを待つ。
「そうだ。ちょうどいいしさっき買った本読もう」
そうつぶやいて鞄を開け、紙袋の中に手を入れて亜空間の中にしまった小説を取り出した。そして表紙を捲り読み始めて10ページほど読み終わった頃、コーヒーカップとポットを持った店員さんが来て目の前で注いでくれた。なんだかんだ初めて来たけどオシャレなカフェってすごいな。
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます……あ、美味しい」
正直一人で入る事自体はビビっていたけど、雰囲気も落ち着いてるし特に視線も感じな……かったんだけど今視線を感じてしまった。誰だろう?
「こっちを見てるのは……あれ?」
あの見覚えのある制服はもしかして……と思ったらこっちに歩み寄ってきている。うん。もしかしなくても小鳥遊さん達だよな?えっと……まずいか?
「名護谷君?何してるの?」
「えっと……買い物が終わったので、せっかくだからと帰る前にコーヒーを楽しんでいます」
僕の前で腰に手を当てて頬を膨らませている小鳥遊さん。開いていた本を机に置いて小鳥遊さんの表情を伺う。あー、うん。明らかに不機嫌そうだ。とりあえず何か返事をしなければと思い、簡潔に現状を説明するとニヤニヤした顔で責めるような口調の高橋さんが問いかけてきた。
「な〜んだ。そんな早く終わるなら私たちと一緒に行けたんじゃないの?」
「ごめん、昼食食べて必要なものを買ってる時間に付き合わせちゃ悪いと思ったから断らせてもらったんだけど……」
「なあ名護谷、ちなみにどこで色々買ってたんだ?」
僕がどう取り繕えば良いのか言い淀んでいると、猫垣さんが小首を傾げながらいきなりそんなことを聞いてきた。
「あ、確かに!うちもそれ気になるかも」
「この辺で色々買うなら昼過ぎにここに来る前今度来ようねって話してたショッピングモールじゃないかな?名護谷君、どうかな?」
「うん。そこであってる。さっきまでショッピングモールにいて、色々買ってきたよ」
「やっぱり!どうだった?」
「え?そうだな〜やっぱできてすぐってのもあるだろうけど綺麗だったよ。それに思っていたよりもお店の種類も多かったかな。あとは……」
なんかよくわからないけど話が変わった。とりあえず思い出せる限りの情報を話しているけど、もしかしてこのままお咎めなしになれるかも?そうなるといいけどそう上手い話はないか。
ふとスマホの時間を見ると四時前だった。小鳥遊さん達って昼前に学校終わってそのままここに来たのかな?もしそうだとしたらかなり長い間ここにいた事になるけど……聞けるか?
「僕の感想としてはこんなところかな」
「うん、これは期待値が上がったね!」
「だね。普段は外に出たがらない私も興味を惹かれるな」
「それ自分で言っちゃうんだ」
「まあ、自覚してるし事実だからな」
「じゃあ絶対行こうね!あ、その時は名護谷君もだよ?」
「そうだそうだ〜うちらの誘いを断ったくせにここにいた罪は重いぞ〜」
「名護谷、逃がさないからな」
「……了解しました」
「よろしい」
う……笑顔で釘を刺されてしまった。でも断る理由も無いか。ただ男一人はなんとかしないとワンチャン刺される。どっかでさっきの二人とか誰でもいいから他の男子も巻き込まないとな。
「そういえば三人は今日の学校が終わってからずっとここにいたの?」
僕がそう聞くと、三人はお互いに顔を見合わせて少し恥ずかしそうな顔をした後に口を開いた。
「うちらさ、まずはお昼食べようって事になってここでお昼食べたんだ」
「そんで食べ終わって、紅茶飲みながらちょっと休憩した後に本命の特盛りパフェを三人分私が買ったんだ」
「あ、学校で言ってたやつか」
……あれ?今特盛りパフェって言わなかった?それも三人分?
「そうそう。で、私達が悪いんだけどパフェが思っていたよりもずっと多くって……ね?」
「さっきまで時間をかけてがんばって最後まで食べ切ったってわけ」
「後からメニュー見返したらコーヒーカップ映ってたし気付けるはずだった。支払うのが私なのはわかってたのに……ちょっと高いなと思った時点でよく見るべきだった。無念」
「そうだったんだ……みんなよく食べ切ったね」
「あはは。半分くらいまでは美味しく……いや、そうじゃないね。食べ切るまでパフェ自体は美味しかったんだけど、半分くらいでお腹いっぱいになっちゃってさ。途中休憩したりして時間かけないと食べきれなかったんだよね」
「こんなことパフェ食べた人に言うのも変かも知れないけど、お疲れ様」
「本当だよ!でも確かに食べるの大変だったけどそれでもめっちゃ美味しかったから良かったよね〜」
「うん。あれは絶品だった」
うっとりしたような表情で思い出している三人。よほど美味しかったんだろうけど、一人であの量は絶対にきつい。今度誰か連れて行ってみるとしよう。
「それじゃあ私たちそろそろ帰る?」
「だね」
「じゃあまた明日。学校でね」
「うん。三人ともまたね」
「じゃ〜な〜」
三人はそう言って僕に軽く手を振ると、仲良く話しながらカフェを出て行った。
「思ったより穏便に済んで良かった。さて、あとこの章だけ読み終わったら僕も帰らないとな」
閉じていた小説を開いて視線を落とす。そして再びコーヒーと読書を堪能し、個人的にはとても有意義な時間を過ごした。
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