第12話 入学二日目 放課後 前編
結局、猫垣さんへの説教は先生のかけていたタイマーが鳴ったことによって後回しとなった。高橋さんと高橋さんの二人は渋々怒りの矛を収めていたが、猫垣さんはこれ幸いといった様子で安堵のため息を漏らして一切反省していなかった。これは……ただ単に説教が後からやってくることを忘れていそうだな。
「さて、みんなプリントは書き終わった?……大丈夫そうだね。それじゃあ
「はい。皆さん初めまして、
こうして出席番号順にクラスメイトたち全員の自己紹介を聞いて、今日のLHRは終わった。後でクラスメイトのプロフィールは書き出しておこう。会得した時に思っていたよりも使う機会が無かったけど、確か自分のスキルに記憶視というものがあった気がする。みんなの自己紹介はちゃんと聞いていたから記憶視スキルを使って自分の記憶を見れば正しい記憶がわかるから便利なはず……なんだけど勇者としての出鱈目なステータスのおかげで記憶力が飛躍的に良くなってるから今まで使ってこなかったという不遇スキルだ。
「……さて、今ので今日のSHRに伝えなければいけない連絡事項は以上かな。みんな明日からのテスト頑張って。起立、礼。それじゃあ気をつけて帰ってね」
「「「はーい」」」
こちらの世界だと一ヶ月も経ってないとはいえ、号令なんて何年振りだろう……という感覚に浸りながら配られた親向けのプリント類をカバンにしまっていると、小鳥遊さんが話しかけてくる。
「ねえねえ、私たちこれからパフェ食べに駅前のカフェ行くんだけど名護谷君も一緒にどう?」
「ちょっと待ってね。今日なんかあったかな?」
とりあえず予定がなかったか確認するふりをして自然にスマホのメモ帳を開く。それにしても……あんな人通りの多い駅前のカフェに行けと?しかも中々に容姿の整った女子三人と?しかも男は僕一人?……よし。厄介ごとの匂いしかしないしやめておこう。折角誘ってもらったのに申し訳ないけど、断らさせてもらおうかな。
「……あ!ごめん、今日買いに行かなきゃいけないものがあったの忘れてた。帰りがてら買いに行くから折角誘ってくれたのに悪いけど、また今度誘ってくれたら嬉しいかな」
「そっかー……残念だけどそうだね、また今度行けばいっか。じゃあまた明日だね。バイバイ!」
心底残念そうな顔をした後。美少女にこんな顔をさせてしまうのはとても心が痛むが仕方ない。あと完全に忘れていたけど買わなきゃいけないものが本当にあった。ちょうどこの高校の最寄り駅周辺には大規模なショッピングセンターがあった。帰りがてらそこで買ってみるのも良いかもしれない。鞄を持って席を立った瞬間、背後から肩を叩かれた。
「おーい、良かったのか?あんな美少女三人からのお誘い断っちゃって」
「まあうん。本当に買わなきゃいけないものがあったし、何よりお前らが殺気の籠った視線向けてきやがってただろ?」
「なんだ。気付いてたのかよ」
振り返った僕の目の前には、男子の中でも特に明るい性格でムードメーカー的な存在なんだろうなと思った
「あんだけ睨みつけといてよく言うよ。でも僕の席の近くの三人なら話せば仲良くなれると思うよ?」
「だといいんだけどな〜」
「俺と刻康は中学校からの仲なんだけどさ、女子とは話すんだけどどうにも友人以上の関係にはなれなかったんだよなぁ……」
「それはお前らになんらかの落ち度があったんじゃね?」
「だとしたら早急に改善点を見つけなきゃならねえ!高校生活こそは彼女を作るってのが俺たち二人の野望なんだ!」
「そうなんだよ!」
そう力説する二人の目には炎が宿っているように見えた。まあまだ朝の時間ぐらいしか話してないけれど、一緒にいて楽しい二人だからそのうち彼女もできるだろう。少なくとも僕はそう信じてあげよう。
「二人ならできるだろ。まあ僕にわかるような改善点があれば教えるけどさ、そのままでも良いんじゃない?」
「守……俺はそう言ってくれるだけ嬉しいぜ!」
オーバーなリアクションでガシッとヘッドロックをかましてくる刻康。痛くはないがどうにも騎士団のノリを思い出すな。
「大袈裟だって。というかそろそろ昼飯食いたいし移動させてくれない?」
「おっと悪い悪い、なんなら一緒に食いに行こうぜ?ちょうど今日は母さんから買って食ってこいって金渡されてんだ」
「お、それなら行こうぜ!俺が買い食いなのはいつものことだしな」
「ん〜そしたら駅前のショッピングモールで良い?」
「おう。どうせ帰り道だしな」
「あそこまだできてから数週間だろ?行ったことないんだよな〜」
「実は僕もそうなんだよね」
「じゃあ決まりだな!」
「さっさと行こうぜ、そろそろ腹減ってきたわ」
「だね。僕も腹のが聞こえてきそうだよ」
三人で学校を出て、たわいのない会話を大通りを歩いていく。駅が遠目に見えるより早く、巨大なショッピングモールにたどり着いた。まだ新しく綺麗な外壁、オシャレな植木に彩られた建物をぐるっと囲む遊歩道、いかにも休日に人が集まるだろうと言った雰囲気で圧倒されてしまう。
「おー!!ここやっぱ綺麗だな!!」
「そりゃそうだって。できて半年も経ってないって言っただろ?」
「確かに。それに平日なのに結構人いるね」
「だな。これ以上混む前に行こうぜ」
「「おう」」
ショッピングモール内に入ると、中は想像していたよりも混んでいた。それにお昼時だからかスーツ姿の人達や、僕らと同じように制服の人達も大勢いるようだ。三人で歩きながらフードコートに行くと、運良くすぐそこの席が空いたのでとりあえず座ることにした。
「よし、とりあえず座れたね」
「マジでラッキーだったなこれ!」
「それじゃあ……誰が荷物見てるかジャンケンで決めようぜ」
全員が席に座って荷物を置くと、ニヤニヤした表情で荘吉が拳を突き出してきた。
「よし乗った!」
「いいよ」
「じゃあ行くぞ。最初はグー、ジャンケン……」
「「チョキ!」」「パー!」
「よっし!」
「なん……だ……と?」
僕と刻康がチョキを出し、荘吉がパーを出した。そしてその結果を認識した瞬間に荘吉の顔が驚愕に、刻康の顔は笑顔に染まった。
「言い出しっぺの法則ってやつだね。じゃあよろしく」
「……まあ自分で言ったし待ってるか。なるべく早くな〜」
「混んでるからどうしようもない気がするけどね。まあ店とメニューはすぐ決めて買ってくるよ」
「お、守が急いでくれるなら俺はじっくり選べるな。じゃあ行ってくるわ」
僕はふと目に入ったうどん屋にメニューを眺めながら並ぶ。メニューを決めて辺りを見渡すと、遠くで洋食屋とラーメン屋の前でウロウロしている刻康を見つけた。どうやら二択に絞ったは良いが決めきれないみたいだな。
「ありがとうございました!」
注文したうどんを受け取って荘吉の待っている席に戻る。さっきの刻康の方を見るとようやくどっちのメニューにするか決めたようで並び始めていた。
「戻ったよ〜」
「お、来たな。じゃあ行ってくる。荷物頼んだわ」
「了解」
僕が席に着くとスマホをしまった荘吉は刻康の並んだ洋食屋に向かって歩いて行った。
「いただきます」
二人が来るのを待っていると麺が伸びてしまうから仕方ない、と誰にいうわけでもないのに自分に言い聞かせてから食べ始める。そして半分ほど食べ終えたところで二人が戻ってきた。
「なんだ、もう食い始めてたのか〜」
「いやいや、麺類は伸びちまうからしゃーないって」
「いや〜お腹空いちゃって。というか二人も早く食べなよ」
「だな。俺もう限界!いただきまーす」
「俺も!いただきます!」
三人全員が食べ終わった。そして全員でフードコートを出るといつの間にか2時過ぎくらいになっていた。
「そろそろ必要なもの買わなきゃな〜」
「そういえばそうだったな。ん〜どうしよ?」
「俺は流石に帰ってテスト勉強しねえと。春休み課題以外サボっちまったから何もしないと点数が怖えよ」
「うげっ!そうだった……悪い守、俺も帰って勉強するわ」
「それは頑張らなきゃだね。じゃあまた明日」
「じゃあな」
「おう、また明日〜」
二人と別れて、ショッピングモール内を歩き出す。久々に誰かと外食をした気がする。うん……たまにはこういうのも良いな。
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