新たな出会いと生活

第9話 新たなクラス

「さて……行ってきます」


 玄関に鍵をかけて家を出る。桜は流石に散ってしまったが、中々いい天気だ。入学式は交流を深める間もなく終わってしまったから、今日は近くの席の人と話せることを期待しつつ駅へと歩を進める。フレアは流石に外につけるのはどうかと思ったので鞄の内側に魔法で拡張したスペースを作り、そこで待機してもらっている。今日どのような話題で話しかけようかと脳内でぼーっと考えていると、中学に行く途中の華ちゃんが追いかけてきた。


「守兄さーん!」

「おはよう。朝から元気だね、華ちゃん」

「そうかな?あ、でもクラス替えの結果も悪くなかったし確かに浮かれてるかも」

「それは良かったね」

「うん!守兄さんは高校楽しみ?」

「そうだね。折角一人暮らしみたいなもんなんだ。気ままに過ごしてくつもりだよ」

「やっぱり一昨日もうに仕事しに行っちゃったんだ……」

「まあ気にしなくて大丈夫だよ。中学の頃からほぼこんなもんだし」


 一昨日、つまり桐月家でのパーティーの次の日、父さんたちは昼過ぎ頃に「じゃあすまんがまたしばらくは家を開けることになってしまう。だけど彼女とか連れ込んでもいいからな?そのためにも綺麗に保っておけよ!」と言って仕事先に行ってしまったのだった。


 元勇者でステータスとできることの数が異常なこと以外は平凡な僕に彼女なんてできるのだろうか?そんな他愛もないことを考えている間に、駅についた。


「じゃあ僕はこっちだから。またね」

「うん、いってらっしゃーい」


 改札の手前でこっちに手を振ってくれる華ちゃん。嬉しいけど華ちゃんは親譲りの美人だから周囲の人からの視線がちょーっと痛い。早々にホームに停まった電車に乗ってひと息つく。


「はあ。この手の視線は久々だなぁ。あっちに居た頃は聖女様が近くにいるってだけで嫉妬の対象だったもんな……まぁ電車を降りさえすれば大丈夫だろ」


 一瞬口に出してしまったときフラグを立ててしまったような気がしたが、そんなことはなく無事に高校に辿り着いた。入学式の記憶を頼りに自分のクラスに向かい、席につく。窓辺から三列目の後ろから二番目。中学までと大して変わらない悪くない席だ。欲を言うならもう少し左後ろに行きたかったが名簿順で座っていてこの座席は当たりの部類だろう。周りを見回しても、まだ何人かが自分の席に座っているだけで人がいない。


「少し早かったかな?」


 ふと時計を見るとまだSHRショートホームルームが始まるまでは四十分以上ある。電車が遅延するかもしれないからと早く来すぎたようだ。今のうちに誰かに話しかけようかと迷っていると、隣の席に人が座った。


「あの……初めまして!私は小鳥遊たかなし 真和まなって言います。隣の席になったのも何かの縁だしよろしくね!」


 隣の席を見ると、栗のように綺麗な髪をボブカットにしているゆるふわ系の可愛い女子だった。ただ緊張しているのか声が少し上擦っている。


「こちらこそ初めまして。僕は名護谷 守。とりあえず一年間よろしく、小鳥遊さん」

「うん!よろしくね、名護谷君」


 勇者時代の貴族出身のパーティーメンバーに無理矢理鍛えられた咄嗟の笑顔で挨拶を返すと、向こうもほっとしたようでふにゃりとした笑みを浮かべた。


「はぁ~優しそうな人が隣で良かった〜」

「それは僕も同じだよ。気さくに話しかけてくれる人が隣で良かったと思う」

「そういえば名護谷君はどこの中学校出身?」


 おお、高校に上がったばかりでしか話題に挙がらないであろう「どこ中?」だ。聞いても意味ないとは思ってたけど話の種になるならなんでも良いか。


「僕は井瀬中。ここの最寄りから三駅のとこにある地元の公立だよ」

「三駅ってことは石織いしおり駅?だったら私の出身校と近いんだね!」

「そうなの?確かに僕の最寄りは石織駅だけど、小鳥遊さんはどこの中学出身なの?」

「え?私?」


 僕がそう聞くと、急に「しまった!」と言わんばかりの表情になった小鳥遊さん。すぐに取り繕うような笑顔を浮かべたけどもしかして地雷だった?自分から降って来た話題なのに?


「わ、私の出身校は椿花つばきばな学園だよ。中高一貫の、私立女学校……」

「あーそういえば僕の家と石織駅挟んで反対側にあったな。あそこか〜」


 椿花学園は、華ちゃんも通っているここらじゃ割と有名な女学校だ。華ちゃん経由で知ったことだが、制服は可愛いし校則も緩いらしい。進学実績も高いが所謂お嬢様学校では無いらしい。


「椿花って言ったら割と良いところだって聞いたことあるけど、高校からはこっちに来て良かったの?」

「うん。ここも私立だけど校則もそう変わらないし、メチャクチャ仲のいい友達がいたわけでも無かったからね。あとはこっちの上澄みの方があっちの上澄みより頭いいのもあるかな〜あとは……恋愛がしてみたいから、かな!」

「なるほど」

「キャ~言っちゃった!あ、もうそろそろ人増えてきそうだけど今の内緒ね?」


 お願い!という感じで頭の前で手を合わせる小鳥遊さん。


「分かった」

「絶対だよ?」

「分かってるって。誰にも言わないから安心していいよ」

「良かった〜」


 小鳥遊さんが安心したのか息をつくと、教室の扉が開いて何人かのクラスメイトが入ってきた。それを見た彼女は席を立つと屈んで座ったままの僕の耳元に顔を寄せてくる。


「き、急に何し……!」

「じゃあまたSHR終わったら話そうね」


 そう小さく囁き、ニコッと笑顔を浮かべ。彼女がそのまま先程入って来た女子達と話し始めるのを視界の端に捉えつつ、自分の女子への耐性の無さを再認識する。


「はぁ。もしあれが天然ならアニメやラノベとかフィクションの中にしか居ないと思ってた本物の勘違いさせやすいタイプの美少女だぞ……」


 それにしても小鳥遊さんは容姿が整いすぎている。緩くウェーブのかかった栗色の髪、髪と同じく栗色のぱっちりとした大きな瞳、程よく肌艶があって血色の良い肌は自然と好印象を与えるし、パーツのバランスもアニメの中から飛び出してきたと思うほど。しかも制服が分厚い冬服であるにも関わらずスタイルが良いことがわかる。先程までは相手の目を見ることで誤魔化していたが……小鳥遊さんは胸部の膨らみが凄かったのだ。なんだあれ!?本当に同学年か!?僕が元勇者で各国の綺麗所が集う空間を連れ回されていなければ出会って早々に失礼な視線を送ることになっていただろう。


「下らないこと考えてないで僕も友達作らねば……」


 このまま机に突っ伏しているだけでは友達はできない。頑張って話しかけねばなるまい……元勇者であるこの僕が、命を賭けた戦いに身を置いていた過去を持つ僕が今更何をビビっているのだろうか。よし、早速話しかけに行くぞ!


 僕らのいるここ、私立葉桜高校は葉桜駅から徒歩20分という何とも言えない距離にある。そして今年の葉桜高校は女子の方が割合が多い。何故なら二年の先輩に松崎まつざき雅紘まさひろというモデル兼俳優の今をときめくイケメン芸能人が居るからだ。


 このクラスの男子は僕含め9人。なんと丁度三割である。つまり男子9人に対して女子が21人ととんでもないことになっているのだ。正直男子が少ないのは受験をしたときの人数比で察していたがここまで少ないとは思っていなかった。そして……


「そろそろ先生来るかもな。また後で話すか」

「だな。俺ら男子9人は仲良くしような」

「基本女子の意見が通るのはこの人数比を見れば火を見るよりも明らかだしね〜」

「というわけで今後とも宜しく!解散!」

「「「おう!」」」

 

 僕たち男子組は、謎のノリで結束を固めそれぞれ席に戻るのだった。

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