第4話 帰ってきてからの初戦闘

 早速なんか仕掛けようか……と思ったけど周囲に被害を出すわけにはいかない。

 そういえば魔法使いは魔力持ちしか見えないって話だったけどこいつらもだっけ?

 もしダークマターズ共が魔力を持たない人にも見えているならその辺も考えて戦わないとだよな……。


「フレア、ダークマターズって魔力を持たない一般人にも見える?」

「いえ、ダークマターズ達は基本魔力の塊なので見えないはずです。ただ、生き物を取り込んで実体を得てしまったり、幹部のように人間が力を与えられたような相手は魔力を持たずとも見えてしまうと聞きました」

「なるほどね」


 そうか、なら少なくともこいつら相手に遠慮はいらないな。


「じゃあまずは小手調べから始めよう」


 そうつぶやき、魔力操作のスキルを発動させる。

 自分の魔力を右手に纏わせ、ブーメランを投げるように手刀を振るう。

 すると魔力が三日月のような形の刃となり飛んで行った。


魔手刃ハンドスラッシュ、派生技、飛斬ひざん

「デュルギャ!?」


 何も気付かず歩いている女性に今にも襲いかかろうとしていたそいつは、魔力の刃を受け苦悶の声を上げながら仰け反った。


「どうやら効いてるみたいだね」

「はい!これならワタシの力は必要無いかと」

「ならとりあえずはこのまま戦ってみるかな。でも、先にあの女性を助けないとね」

「ですね。頑張ってください!」


 フレアの言葉に頷いて、一瞬で化け物と女性の間に割って入る。

 今度は両足に魔力を纏わせ、女性と反対方向に向かって二度蹴りを打ち込む。

 蹴りを食らった化け物は吹っ飛んで宙を舞い、ベチャッという音と共に地に落ちた。


「フッ!」


 更に追撃を入れるため、落下地点に向かって地を蹴る。


「あら?今何か後ろに居たような……?」


 女性が振り返って首を傾げている。見られても問題は無いけど、面倒事になる可能性は極力減らしたい。

 なにはともあれ幸運にも見られてなかったなら良しとしよう。


「クッソォ……!どこのどいつか知らねぇがよくもやってくれ「そいっ!」ウゴッ!?」


 視線を化け物に戻すと起き上がって悪態をついていたのでソフトボールぐらいの火球を生み出し、そいつの顔面に向けて投げつけた。

 起き上がったばかりで碌に襲撃者である僕を見ておらず、避けれなかったようだ。

 よく観察すると、黒くブヨブヨした肉体の化け物の顔面は焦げて固まっていた。

 自分の手でペタペタと火球をくらった顔面を触った化け物は自分の顔が固まっているのに気付き、喚き始めた。


「オ、オレの……オレの顔が!?」


 いくらこれから倒す敵だし自分でやった事とはいえあまりにも情け無い化け物に呆れて呆然としていると、フレアが鞄から顔を出してきた。


「あの、倒さないんですか?」

「あー……うん。倒すよ。あと一応確認だけどアレはダークマターズの中でも弱い方って認識で良いよね?」

「はい!ダークマターズの雑兵、シャドウモンスターの一種です。前に一度だけ幹部級のちゃんとした人型を見た事があるのですが、あんなところどころ人型が崩れてるようなよくわからない存在じゃなくて、もっと人の世界に溶け込んでいても普通の人には分からないような存在でしたよ!なのでアレは正直下級も下級だと思います。少なくとも幹部直属の部下では無いはずです。もし幹部直属の敵があの体たらくなら、とっくに幹部級未満の奴らは殲滅できていてもおかしく無いですよ!」

「な、なるほど……」


 フレアの珍しい熱弁に少し驚きはしたが、やはりこいつは弱い部類らしい。

 ならばもう仕留めてしまうしかないか。

 見つかった相手が悪かったと諦めて貰おう。


「驚いてるとこ悪いけど、トドメを刺させて貰うよ。来い、聖剣アトラクト」


 そう静かに宣言し、右手を前に伸ばし聖剣を召喚する。

 すると、鍔から切先まで純白に輝く刀身に黄金の紋様が柄頭から鍔全体に刻まれている美しい片手剣が現れる。


「これが……聖剣……!」

「うん。聖剣アトラクト。僕がかつて勇者だった証だよ」


 アトラクトを構え、フレアに軽く答える。

 そしてアトラクトに魔力を込め始めると黄金の紋様が更に光り輝き、その刀身の輝きはより一層神聖な雰囲気を増していく。

 聖剣が放つ光にようやく気付いた化け物は慌てて襲いかかって来る。

 

「オイ!オレの顔面を焦がした上に何をしようとしていやがる!?」

「アンタにトドメを刺そうとしているだけさ。祈りの斬撃オラシオンスラッシュ!」


 すれ違いざまに聖属性の力を持つ斬撃を打ち込み、すぐさま距離を取る。


「グガァァァアアアァァアア!!!!」


 祈りの斬撃オラシオンスラッシュを打ち込まれた化け物は、己の敗北を嘆くように咆哮を残し青白い光の粒となって消えていった。

 化け物が消える様子を見届けた僕達は月明かりを浴びながら帰路を辿っていた。


「なんとなくで倒せたけど、あのやり方で良かった?」

「はい。あのシャドウモンスターは確かに浄化されていました。なのでこれからもあれでオーケーです!」

「そっか。なら良かったよ」


 全く苦戦はしなかったけど、やはり何度経験しても他の命を奪う感触は心地良いものではないな……。

 まあ……アレを命と呼べるのかは結構疑問だけど。

 それよりも命を奪う事に慣れるなって向こうで教えられたんだっけ。

 奪った命の分は己を大事にして生きる。

 これが勇者として戦っていた間の信念だったな……。

 そう考えないとやってらんなかったし。


「……るさん!守さん!」

「へっ!?」


 勇者としての冒険を思い出していると、フレアに声をかけられていた。


「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」

「そうなんですか?初めてダークマターズを一体浄化したわけですし、思うところがあるのも当然かと思いますよ」


 ウンウンと鞄から出した首を頷かせているフレア。

 ぬいぐるみのような見た目も相まって中々に微笑ましい。


「あ。それとですね、これからもこんな感じでダークマターズと戦い続けると思うんですけど、大丈夫ですか?」

「それに関しては気にしないで良いよ。こうやって戦うことには向こうで慣れたからね。あっちの世界にいた頃は、戦わなかった日の翌日でもメンタルを切り替えれてたんだけど……こっちに帰ってきてどこか平和ボケしていたみたい。魔王倒したくせに僕もまだまだだね……」

「あっ…えっと……その……」


 僕が落ち込んだ様に見えたのかフレアが慌てて両手をパタパタと振っている。


「あーごめんごめん、別に戦いたくないってことじゃないんだよ。自分の変化に驚いてただけだからさ。むしろ華ちゃんが少しでも危険な目に遭わずに済むようにさっさと潰さなきゃなって思ってるから」

「そうだったんですね。ワタシ達、聖魔石の精霊は魔力持ちの方々と力を合わせないとダークマターズに有効な攻撃ができない弱い存在です。つまり力を貸しているからこそ、魔力持ちの人達はワタシ達にとって何よりも守るべき相手なのです」


 なるほど、それで僕のことをこんなに心配しているのか。


「だから、どんなことでもいいのでワタシができることなら頼ってくださいね!」


 鞄から顔まで出していたフレアは上半身まで身を乗り出すと、その小さなぬいぐるみボディーの胸をポンと叩いた。

 胸を叩いた直後、フレアは身体を支えきれずに鞄から滑り落ちた。


「うわぁ!?」


 咄嗟に屈んでフレアをキャッチする。


「おっとっと……大丈夫?」

「はい……頼って欲しいと格好を付けた直後にこんな醜態を晒すなんて……うぅ……」


 再び鞄に潜り込んだフレアは、尻尾で顔を覆い落ち込んでいる。


「あはは……うん。これからは頼りにさせて貰うよ。改めてよろしく、相棒フレア


 僕が微笑みかけながらそう言うと、フレアは鞄の中で目を擦ってから顔を出して笑顔を見せた。


「はい!」


 これからはこの小さな相棒と共に華ちゃんとダークマターズの戦いを見守りつつ僕自身も奴らを倒して、バレるまでは影からサポートしてあげよう。

 改めてそう決意した僕とフレアは、周りに注意しつつ談笑しながら家に帰るのだった。

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