第3話 試してみる
「ごちそうさまでした」
自分で作った夕飯を片付けていると、フレアがふよふよと飛んで来た。
「どうしたの?」
「あの……さっきワタシは鞄の中にいたじゃないですか。もし華さんが魔法少女になるために力を貸りている精霊が探知に長けていたら、ワタシのことバレてるかもしれません」
「えっ?あ〜そっか。うーん」
確かにそうだ。でもスキル遠視だって少しとはいえ魔力を消費して使用しているわけだし、それに気付いてないなら気付けない……かも?
「フレア、君は探知って得意な方?」
「いえ、ワタシの探知魔法は精霊の中ではせいぜい中の上ぐらいです。でも隠密と防御には自信がありますよ!」
「そっか。じゃあ今から魔力消費するスキルを使ってみせるよ。感知できるかやってみよう。もしかしたら魔法を使う原理が違うと感知できないかもしれないからね」
そう提案すると、フレアはキラキラと純粋な子供のように目を輝かせた。
「ぜひ!お願いします!」
「じゃあいくよ。まずは簡単なのからかな。ホーリーライト!」
本当は無詠唱でも発動できるが今は分かりやすいほうが良いと思って声に出して聖属性の初級魔法を唱える。
すると、上に向けた掌にバスケットボール大の光の球が現れた。
「うわぁ!これが……凄いです!ワタシ達のような精霊には暖かく感じますが、ダークマターズにも間違い無く効く強力な聖なる力を発している光です!それに魔力のブレを微塵も感じません!流石元勇者様です!」
「そう?なら良かった」
この程度であれば異世界の中堅レベルの冒険者なら絶対にできるし、新米でも事前にどこかで魔法を教わっていたなら最初に教えられる魔法だからなー。
あんまり褒められても元勇者の力だと思われるとちょっと複雑……
というかいつの間にか魔法への興味本位で話題が脱線している。
もう少し色々試してから話を戻さないと。
「どうやら僕の魔力でも問題なく感知できそうだね」
「はい!ワタシにも感知できました!」
結局全属性の初級魔法を披露したところ、フレアはどれも感知できるとのことだった。
「それじゃあ話を戻すよ。もし華ちゃんに力を貸している精霊にフレアのことがバレてたらどうする?ってことだけど、正直バレちゃったならそれでもいいかな。わざわざこっちから話すようなことじゃ無いけど別に無理して隠す必要も無いしね。」
確かに僕が魔力持ちで魔法少女の姿の華ちゃんのことが見えると知ってしまったら華ちゃんはしばらく恥ずかしがってしまうと思う。
でもそれ以上に華ちゃんのサポートをコソコソ影でやる必要は無くなるからどちらでも構わないというのが僕的な本音。
そしてそれをフレアに伝えると、納得したように何度も頷いた。
「なるほど。そういうことでしたらワタシの気にしすぎでしたね。すみません」
「謝るようなことじゃないよ。僕も擦り合わせておきたいと思ってた内容話せたからね」
「そういえば守さんはダークマターズとの戦闘は未経験なんですよね。どうやって奴らを見つけましょうか」
「ん〜ダークマターズを探す方法か。うーんどうしよう?遠視スキルは多重発動できるけど視界増えると見づらい。毎日パトロールがてら散歩でもするべきか?うーん、なんか便利なスキルあったかな?」
僕が異世界で身につけたスキルはとても多い。
そのせいでよく使ってたスキル以外は結構忘れてしまっている。
とりあえず確認のために久々にステータスウィンドウを開いてみる。
「お、こっちでも問題なく見れたな」
「え!?なんですかそれ!?」
僕の目の前に突然現れた半透明な板状のものを初めて見てフレアが驚いている。
「これ?これはステータスウィンドウって言って向こうの世界だと自分のステータスを見るために使う魔法みたいなものかな」
「そんなものが異世界にはあるんですね。あ、もしかして身につけたスキル一覧的なのが乗ってたりするんですか?」
「そうだよ。だからいま確認してるとこ」
そして使えそうなスキルを探すこと数分、ようやく使えそうなものが見つかった。
「よし、この検知結界は使えそう。結界の範囲内の情報を好きなように集められるスキル、か。あっちじゃ一定の範囲に留まるなんてことしなかったからな……そりゃ使わねぇわ」
「なるほど、でも一体どの範囲まで結界を張るんですか?この街だけでも大分規模が大きくなると思うんですけど……」
「それなら気にしないで大丈夫。だって元勇者だよ?しかも魔王倒した時の経験値で相当強化されてるからね。だから魔力は有り余ってるんだよ。この結界なら少なくとも関東全域覆うぐらいなら自然回復量が上回るかな」
「ワタシには想像もつかない魔力量を秘めてるんですね」
「伊達に勇者やってたわけじゃないってことだよ。そしたら……そうだな、とりあえず試しにこの街に検知結界を張ってみようかな。入ってくる情報量も絞る必要があるだろうし練習も兼ねてね」
「はい!」
「さて、じゃあ一回やってみますか!」
無意識のうちに制御していた魔力を意識を集中して操作する。
この街全体に魔力を薄く広く延ばし、スキルを発動させる。
「検知結界!」
普通の人からは見えないが、魔力を持っている人なら意識を集中すれば結界を張っている魔力を感じ取れるだろう。
「凄いです!あんなに大量の魔力をこれほどまでに完璧に制御するなんて!」
「もう褒めないでよ。照れくさいから。……ウグッ!」
「どうしたんですか!?」
結界を張り終わってから少しした瞬間、結界内のありとあらゆる変化の情報が頭の中に流れ込んできた。
頭を抑えて頭痛を堪えながら検知結界をいじり、魔力が関わる変化にのみ情報を絞る。
するとようやく滝のように流れ込んできていた情報が減り、大気中を循環する魔力や魔力持ちの人と思われる魔力の塊、普通の人々の行動のみが流れてくるようになった。
「はぁ……びっくりした」
「それはこっちの台詞ですよ!一体どうしたんですか?」
「あ〜初期設定のまんま検知結界張っちゃったから頭ん中に滅茶苦茶な量の情報が流れてきてね……それを絞らないと処理できなくて危うく頭痛に殺されるところだったよ」
「命の危機だったんですか!?」
「まあね。普通はこんな広範囲で使わない魔法スキルだし。今回は勇者としてレベルアップしていくうちに頭のスペックが上がってたおかげで助かったかな。次からは気を付けるとするよ」
「そうして下さい。それでどうです?何かダークマターズっぽい情報はありましたか?」
「えっと……あ、魔力持ちの人の後ろを何かが追っている?これは……あ、これがダークマターズか!」
頭の中に流れてくる街の情報を地図に投影する形に設定してより分かりやすくする。
ダークマターズの特徴は掴んだのでそれに一致する存在をゲームとかの敵MOBと同じように赤ピンで、魔力を持たない人々を黄ピン、魔力持ちを青ピンにして表示する。
「フレア、今この街には1体ダークマターズがいるみたいだね。とりあえず追われてる人の方に行って助けようか」
「はい、行きましょう!」
僕はフレアが鞄に入ったのを確認すると、外に出る前に不可視スキルを発動する。
「これで全力疾走しても見つからないはず。ちょっと跳ぶから鞄から頭出さないでね」
「分かりました!」
フレアの返事を聞いた僕は身体強化の魔法を発動し、地面を抉らないギリギリの力でジャンプする。
飛翔魔法も持ってはいるが不可視スキルを使っている今併用するよりも効率がいいのだからこの方法でいいだろう。
一回に五百メートル程を走り何度か繰り返し家を跳び越え、そいつにたどり着いた。
そいつは黒いぶよぶよとした肉体で鬼のような見た目をした化け物だった。
化け物はゆっくりのそのそと目の前を歩く人を追いかけていた。
「見るからに怪しいけどあれダークマターズだよな?」
「あいつから感じる不快な力……!間違いありません、やつはダークマターズです」
「なら問答無用で排除していいんだな?」
「はい。やっちゃってください!」
さて、日本に帰ってきてから初の戦闘開始といきますか!
……多分歯ごたえないだろうけど。
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