第2話 新たな出会いと再開

 幼い頃からよく知ってる華ちゃんが魔法少女になってしまうところを目撃してから数日が経過した。

 監視しているようで罪悪感があるが、僕は遠視スキルを使い続けて華ちゃんと聖魔石の精霊とかいうクマの動向を見守り続けていた。

 昨日あのクマが言っていたが魔力を持っている存在にしか魔法少女の姿は見えないらしい。

 つまり魔法少女になった華ちゃんの姿が見えているということは僕はクマの言うところの魔力を持っているということだろう。

 そしてなんとなく近くにある大きな公園を散歩していると、ふと殺気は無いがこちらを伺うような視線を感じた。

 気配を探ってみると人間にしては小さすぎるのに存在感が人間の子供より大きいことが分かった。

 そういえばつい最近、サイズといい存在感といい似たような特徴を持つ存在を見たような……


「あ、あの!」


 声をかけられたので振り返ると、クマと同じようにふわふわと浮遊しているリスのぬいぐるみがいた。


「どうしたの?」

「え、えっと……わ、ワタシは聖魔石の精霊のフレアです!えっと、い、今、ダークマターズっていう悪い奴らがこの世界を脅かしているのです!だからワタシの力を借りて魔法使いになって奴らと戦って欲しいのです!」


 フレアと名乗ったリスは、プルプルと震えながら語りかけてきた。


「そっか。それで魔法使いってのはどういう存在なのかな?」

「……あれ?もしかして驚いてないんですか?」

「うん。だってこの前偶然魔法使いになる人を見ちゃったからね~」

「そうなんですか!?ってそうじゃなかった!あの、魔法使いになってくれますか?」


 不安そうにこちらを伺うフレア。

 だが、変身には憧れるもののテイストが魔法少女に近い可能性がある以上迂闊に変身したくない。

 まだ僕の魔法が効くかどうか試してないしそれを試してから決めることにしよう。


「そうだな……あ、先に僕について自己紹介しないとだよね」

「お、お願いします!」

「僕は名護谷守。つい昨日まで異世界で勇者やってただけの普通の学生だよ」

「え!?異世界!?勇者!?一体それのどこが普通なんですか!?」


 僕が元勇者ということを明かすと、フレアはつぶらな目を見開いて驚いた。


「まぁまぁ、驚くのも無理はないよね。でも僕からしたらこっちに帰ってきたと思ったら魔法少女だとかダークマターズだっけ?そいつ等みたいな化け物とかがこの世界に存在していることに驚いたよ」

「そうだったんですね……」

「それで魔法使いになって欲しいんだよね?それなんだけど、とりあえず元勇者だから僕結構強いはずなんだ。だからまずは僕の今の力がそいつ達に効くか試して効かなかったらなろうかなって思ってる。でも魔法使いになるにしろならないにしろダークマターズとは戦うつもりだから安心して」


 そう言葉をかけると、フレアはホッとため息をついた。


「戦っていただけるなら良かったです。あ!ワタシのような聖魔石の精霊は変身後の姿と同じく魔力を持たない人々からは見えないというかただのぬいぐるみに見えているらしいです。なのでできればいつでもそばに置いていただけるとありがたいのですが……どうでしょうか?」

「ん〜ぬいぐるみに見える、か。それならゲームセンターのクレーンゲームとかで取ったってことにしておけばなんとかなるかな。うん、いいよ」

「ありがとうございます!」

「それじゃあ、一回僕の家に帰ろうか」

「はい!守さんの家楽しみです!」

「そんなに期待されてもちょっと両親が色んなとこに出張しがちで不在なことが多いだけの普通の一軒家だよ。あ、それじゃあフレア、ぬいぐるみらしく僕の鞄に入っててくれる?」

「分かりました!」


 のんびりとフレアに街を案内しながら自宅へ向かう。

 するとちょうど自宅が見えたところで反対側から華ちゃんが歩いてきているのが見えた。


「お、華ちゃんじゃないか」

「あ、守兄さん!なんか最近会ってなかった気がするけど忙しかったの?」

「まぁそんな感じかな」

「家の電気ついてないね。ってことはまたおじさん達不在なの?」

「そうだね。ま、入学式前日には間に合わせるって言ってたから気にしないで良いよ。そう言うそっちは本屋にでも行ってたの?」

「うん。色々新刊とか欲しいのあったから」

「そっか。じゃあまた今度」


 そう言って自宅の扉を開けて玄関に入ろうとすると、華ちゃんに呼び止められた。


「待って!あの、久しぶりにちょっと守兄さん家お邪魔していい?」

「え?あぁ、良いよ」


 特に断る理由も無いので受け入れてしまったが、フレアとあのクマはずっとこのままぬいぐるみのふりをし続けるんだろうか?


「やった!じゃあ早速おっ邪魔っしまーす!」

「どうぞ」


 語尾に音符でもついてそうなほど上機嫌な声で寄ってくる華ちゃん。

 華ちゃんが僕の家に来るのはいつぶりだろうか。

 正直異世界での生活がそこそこ長いせいで大体の日にちすら思い出せない。

 とりあえず照明をつけて手を洗ってから台所でお茶を用意してると、華ちゃんは勝手知ったるなんとやらといった様子でリビングのソファーに座っていた。


「おー?前来たときとあんま変わってないね。なんだか懐かしいな~」

「そういえば前来たのっていつだっけ?」

「えっと……中1の夏休みに来て以来だから大体半年とちょっとぐらい前かな」

「なるほどね。確かに小学生の頃と比べれば頻度は落ちてるけど華ちゃんも中学生になったんだし学年もちがうならこんなもんじゃない?」

「ん〜そっか。それにしても隣に住んでるのに久しぶりに会うような気がするのはなんだか不思議だね」


 にこにこと笑顔を浮かべてはいるが、華ちゃんは何か話を切り出そうとしてはやめているようにも見える。

 お茶をソファーの前のローテーブルに並べて僕もソファーに腰掛ける。

 そして気になったことを大体察しはつくが問いかけてみる。


「ま、僕もちょっと前まで高校受験でバタバタしてたから仕方ないよ。それで、どうして急に僕の家に上がりたいって思ったの?」

「えーっと、ちょっと相談したいことがあるの。いきなりこんなこと言われても困るかもだけど……守兄さんは魔法ってどう思う?」


 どこか探るように。しかし何かを怖がっているように僕の方を伺いながら聞いてくる。


「また急に突拍子も無いことを聞いてくるね。そうだな〜魔法か。もしそんな力が存在するならできる限り穏便に使ってほしいかな。だってもし魔法が現実に存在してもその力を使ってるところを他人に見られなければ分からないだろ?だからもし仮に魔法って力があるなら使うなとは言わないけど平和な今の日常を壊さないように使ってほしいって僕は思うな」

「そっか。……うん、そんなもんだよね!」

「あ、それが聞きたくて僕の家に来たの?」


 お互いこれ以上つつく必要もないので話題を変えてみる。

 すると華ちゃんは背中までのびた長い髪の毛先をいじり始め、困ったような表情になってしまった。


「ううん。あーえっと、それもそうだけどなんとなく久しぶりに来たかっただけだよ」

「そんなもんか?」

「そんなもんだよ。だって守兄さんと私は幼馴染じゃん!私ね、こんな風に素でいられる幼馴染がいるって凄い幸せなことだと思うの。小学校の頃はそうでもなかったかもしれないけど中学に上がってから皆の話聞いてても幼馴染いない人の方が多数派みたいだし」


 つい先程までどうしよう?といった感じだったのに「だって」の辺りからこれだ!と言わんばかりに少し早口になって捲し立てて来る華ちゃん。


「そうなのか?中学校っていっても大体小学校からの持ち上がりだろ?そりゃあ学区とか受験したりとかで別れるとかはあるかもしれないけど隣に住んでるのは珍しいとしても同じ地域にはいると思うんだけどな。まあ結局認識の違いか」

「あ〜確かに。私達の間だと幼馴染は幼稚園か小学校低学年からの友達って認識かな。ちなみに守兄さんはどんな認識?」

「ん〜でも僕もそんな感じだな」

「やっぱり?あ、やば!もうこんな時間じゃん!今日お母さんと一緒にご飯作る約束してたんだった!私帰らなきゃ。じゃあまたね、守兄さん!」


 ふと時計を見た華ちゃんはコップに残っていたお茶を一気に飲み干して立ち上がると、こちらを振り返って手を振り玄関へと走って行った。


「フレア、もう出てきていいぞ」


 僕がソファーの側に置いておいた鞄に声をかけると、フレアが這い出て来てソファーの上に移動した。


「あの、もしかして公園で言ってた魔法少女って……」

「そう。華ちゃんのことだよ。まぁ僕はその現場にいたわけじゃなくて、遠視っていうスキル使って街見て回ってたらたまたまね」

「そうだったんですね」

「とりあえず僕もお腹空いたから詳しい話はご飯食べたあとでいい?」

「もちろんです!それじゃあワタシはのんびり待ってますね」

「おう。悪いね」


 まさか僕にも聖魔石の精霊が来るとは思わなかったな……。

 まあ魔力持ちが少ない以上おかしなことでもないか。

 フレアとは色々と相談しとかないといけないだろけど、まずは飯が食いたい。

 あとはあの様子を見るに華ちゃんも今んとこはなんの異常も無さそうだしこのまま見守ってれば大丈夫だろう。

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