元勇者と新米魔法少女

メガネとかがみ

帰還と邂逅

第1話 帰ってこれた

 はじめまして。僕の名前は名護谷なごや まもる

 僕は日本に住む現在中学を卒業してあとは高校に入学するのを待つ高校入学予定生だ。

 そしてここからが驚かず聞いて欲しいんだけど、僕はなんと昨日まで異世界で勇者として頑張ってました!

 中学校の卒業式翌日、いきなり勇者として召喚された。

 そして何年もかけて死ぬほど頑張って魔法も格闘術も剣術もとにかくありとあらゆる戦闘スキルを鍛えて魔王を倒して日本に帰ってきたってわけ。

 普通なら何寝ぼけたこと言ってんだって言われると思うけど使ってた聖剣は持ってたし試したら魔法もスキルも使えたから現実だったとしか思えない。

 全部話したら長くなるから詳細は省くけど魔王を倒したあと、休もうとしたら勇者用の聖剣が光って目を瞑ったんだ。

 それから目を開けたら召喚される前の時と同じ服装のまま聖剣だけ持って自分の部屋に立ってた。

 空間魔法も使えたから亜空間の持ち物の中身を確認すると、全部あったしなんなら異世界から帰ってくる直前まで着ていた装備も入ってた。

 自分のスマホを確認したらなんと異世界召喚された数秒後ぐらいの時間だった。

 何が言いたいかっていうと、異世界で身に付けた便利スキルもそのまま使えたからとりあえず異世界でのことは忘れて「できることが増えて無事に帰ってこれたな〜」ぐらいに思って元の生活に戻ろうと決めたのが昨日のこと。


 そして今現在、遠視というスキルを使って自室のベッドの上でゴロゴロしながら体感数年ぶりの街の景色を見て回ってたらとんでもない光景を見つけてしまった。

 なんということでしょう、僕の幼馴染で隣の家に住む妹的存在の桐月きりつき はなちゃんが影の塊みたいな化け物に襲われているじゃありませんか!

 え……?地球って前からあんな化け物居たっけ?

 それにあの浮いている上に喋るクマのぬいぐるみにしか見えない不思議存在に付きまとわれて話しかけられてる?

 なんか喋ってるみたいだけどよく聞こえない……もう少し近づいて見てみるか。


「さっきからなんなの!?魔法使いになって!とかわけわかんないよ!大体なんで私が襲われて魔法使いとやらにならないといけないの!?」


 華ちゃんはふわふわと浮遊しながらついてくるクマのぬいぐるみらしき存在に文句を言いながら逃げている。


「だーかーらー!あの化け物はダークマターズって言って、影の世界に巣食うヤバい奴らなの!だから君みたいな数少ない魔力持ちの適合者にボクみたいな聖魔石の精霊が力を貸して魔法使いになって貰うんだ。そうして奴らに対抗する力を持った魔法使いが撃退もしくは浄化するかしないと世界がそのうち影に沈んじゃうんだよ!」


 クマの方もその短い手足をバタバタさせながら必死に説明しているようだ。


 うわぁ……こんな身近に魔法に関わる存在がいるとは思いもしなかったな。

 流石に助けた方が良いと思うんだけど異世界のスキルでも魔法なら効くよね?

 ん?ちょっと目を離してる間に華ちゃん何渡された?あのクマ何渡したの本当に!なんか「マジックチェンジ」って聞こえた気がするんだけど!?

 そして華ちゃんが凄い虹色の光の繭に覆われた次の瞬間、その光の繭が弾けていかにも魔法少女って見た目の衣装に身を包んだ華ちゃんが現れた。

 え?マジ!?

 ……ってオイオイオイオイ!!


「アイタッ!」


 思わず飛び起きた拍子に持っていたスマホを顔面に落としてしまった。痛い。

 というかそれどころじゃないぞこれ!

 魔法少女はアカン!

 何がとは言わないけど僕の中の何かがものすごい危険信号を発してる。

 いや、まだ日曜朝にやってる幼い子供でも安心して視聴できる方かもしれない。

 とにかくどっちのパターンの魔法少女か見極めなければ!

 一人でも死者が出るような被害が出るなら全力で阻止しないと……!


「え?何これ!?こんなの着てるとこ誰かに見られたらどうすんの!?私もうすぐ中2なのに……」


 あ、華ちゃんが近くのカーブミラーに映った自分の格好を見て悲鳴を上げている。

 そりゃあそうだ。

 思いっきり思春期真っ只中の中学生にアイドルもしくはコスプレでしか着ないようなフリフリしたドレスは少々どころでなく恥ずかしいだろう。

 その上こんないつ知り合いが通るかも分からない住宅街でこの衣装だ。

 助けるにしてもこの姿は見なかった事にしてあげよう。


「大丈夫!その姿は魔力持ちの人以外には絶対に見えないよ!だから気にせずあのダークマターズと戦おう!」

「それってもし魔力持ちの人に私の知り合いがいたら見られちゃうってことだよね?」

「……そうだけど、もし魔力持ちならもう既に僕みたいに精霊達が何らかの接触をしているはずだよ!だからその魔力持ちの人も同じような格好になってるはず!ね?」


 華ちゃんの不安を解消しようとクマが頑張って説明している。

 おっと、そろそろ化け物が追いついてきたが大丈夫か?

 ひとまず見守っていると、華ちゃんも気付いたようだ。


「あの化け物がもうあんなとこまで……やるしかないの!?えっと……とりあえずどうしたらいい?」

「オッケー!じゃあまず、ボクを使って!」


 クマがそう言うと首元についていた宝石のようなものが眩い光りを放った。次の瞬間には先端にクマの顔がありその下に大きな宝石とリボンのついたステッキに変身した。


「ボクを持ったら、魔力を感じとってみて。イメージは血液のように全身を流れるエネルギーって言えばいいかな」

「血液みたいに全身を?うーん……」


 華ちゃんは目を閉じて集中し始めた。

 そして数秒後、目を開けるとこれまで強張っていた表情が笑顔になっていた。


「なんだか暖かいものを感じるけど、これ?」

「スゴい!それだよ!そしたらそれをボクに流すイメージで魔力をアイツに向けて放出してみよう!」

「えっと、こうかな?」


 おずおずとクマが変身したステッキをダークマターズと呼ばれた化け物に向ける華ちゃん。

 するとその先に火球が現れ、そして化け物へと飛んでいった。

 火球を受けた化け物は苦悶の声を上げているのかギィギィと耳障りな音を立てて苦しんでいるようだ。


「で、できた?」

「いい感じ!でもまだアイツは浄化できてない!さっきは僕が簡単な魔法に魔力を変換したけど、次は自分で魔力を魔法に変換してアイツにぶつけてみよう!」

「魔力を、魔法に?えっと、こうかな?」


 華ちゃんが今度はえいっという感じで化け物に向けてステッキを振ると、氷の矢が飛んでいった。

 そしてその矢が当たると、化け物は光の粒となり大気中に溶けるように消えてしまった。


「スゴいスゴい!一番弱い格の相手とはいえ最初からこんなに魔法を使いこなせるなんて思わなかったよ!」


 呆然と消えた化け物のいた場所を見つめる華ちゃんをよそに、クマは元の姿に戻って小躍りしながら喜んでいた。


 あのクマ……聖魔石の精霊とは一体何なのだろうか?

 あの力にもし副作用のような何かがあるのなら戦わせない方が良いんだろうけど、それも推測の域を出ないからな……。

 とりあえず今回はなんとかなったようだししばらくは華ちゃんとあのクマを見守るとしようかな。

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