1章 そしてSとMは出会った

1.戦禍の中で風が吹く

「逃げろー!逃げろー!魔物だ魔物ー!」


町中に怒号が飛び交う、二本の角を生やした巨体の魔物が町の中で暴れまわっているからだ。


目的もなくただ目の前にあるものを破壊している。まさにバーサーカーのようだ。


「クソ‼なんで魔物がこっち側に転送されて来ているんだ‼」

「分かりません、こんなこと今まで無かったのに……」

「早く非難誘導するんだ‼町が壊れるぞ。応援要請はどうなった⁉」

「近くのギルドに応援要請を出しました!20分ぐらいで到着だそうです」

「20分か……なんとか俺たちで持ちこたえるぞ‼」

「了解です‼」


町の門番を務めていた騎士団の二人が剣を抜き魔物に向かい走っていく。


さて今の俺の状況はというと、運悪く魔物の視線の先に入ってしまっている。

そして魔物はこちらに向けて突進してくる。


「まずい‼逃げろ少年‼」


「え……やっべ!」


急いで逃げる。逃げる逃げる逃げる……それ以外何も考えるな!

そう自分に言い聞かせて足を動かす。



『ウガァァァーーー』


魔物の咆哮が俺の鼓膜をぶち破ろうと木霊する。

このままでは追い付かれる、だからといって戦うのも無謀だ、俺はまだスキルを与えられられていない。


これは死んだな、短い人生だったな……

神なんて信じたくなかった。

どうして会えもしない存在を信じて助けを求めるのだろうか、でも今は神に助けを求めるしかないので俺は全力で叫ぶ。


「助けてー神さま‼」


風が吹いた。

すると突然目の前に銀の鎧に身を包んだ人間が現れる。姿を見るに騎士のようだ。


神風かみかぜ‼』


凛とした声を上げ、目にも止まらない速さの剣で魔物を切り裂く。

暴れまわっていた魔物が一瞬で灰になり消えていく。


「大丈夫か少年。」


騎士が声をかけてくる。どうやら女性の騎士みたいだ。


「大丈夫です。あ、ありがとうございます」


俺は答える。

すると騎士は兜を脱ぎ、肩まで伸びた美しい金髪をなびかせながら、俺をじっと見て言う。


「ふふ……君には素質がありそうだ」


「そ……素質……?」


他人のスキルは見えないはず、そもそも俺はまだスキルにすら目覚めていないのに素質があるとか言い始めた騎士に疑問をぶつける。


「騎士さんは、何で素質とか分かるんだ?」


「強くなれ、この高みに昇ってこい。そしたら共に戦おう」


質問の答えになってない解答をされ、なぜか一緒に戦うことになっている。

命の恩人に対し失礼であるがちょっとバカっぽい。


そして女騎士は軽く微笑みながら話し出す。


「私の名はアリナ、騎士ではないよ、冒険者だ。君の名前は?」



「俺の名前は……アルフ……」



これは5年前、俺がまだ12歳の時の出来事。

そして冒険者を目指すきっかけとなった人生の分岐点でもある。

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