第3話 別れたいって言うから別れたく無いって言って病

「別れよう」


雑誌を捲る俺に向かってユウトが突然言い出した。


「…………何で?」


俺の質問に少し考える素振りを見せたかと思ったら


「他に好きな奴が出来たから」


そう答えた。

そんな……考えてから言うことか……?


「男?」


「女」


「……あっそ」


簡単な会話をして俺は少し考え込んだ。

同棲してるってのは……こういう時面倒くさいな……。他に行く所を見付けなきゃいけない……。


「一週間待ってよ」


「……一週間?」


俺の言葉にユウトが訝しげな顔をする。


「次の家探すまで…さ」


「一週間で引っ越すの?」


「まさか、それは無理。だから取り敢えず行き先見つけて出てくよ。荷物は後からでもいいでしょ?」


そう言って再び雑誌に目を戻した俺を


「……一週間で…行き先なんて簡単に見つかるのかよ……」


面白くなさそうに睨みつける。


「……どうにかなるんじゃない?少しの間なら……誰かおいてくれるでしょ」


簡単に言う俺が気に入らないらしくユウトはしばらく睨みつけ、何か言いたそうに口を開きかけたが…結局黙ってスマホをいじりだした。



その後も俺たち二人は一緒に飯を食べ、いつも通り過ごした。

ただベッドだけは二人の間に、人が一人優に入れるだけの隙間が空いている。


「お前さぁ……何か言うことないの!?」


俺に背中を向けたままユウトが突然言い出した。

俺は驚いて振り向き


「……なにが?」


眉をひそめて、何を言っているか分からないフリをする。


今日は……そこそこ我慢した方だな……。


「別れたくないって言えよ」


背中を向けたまま怒っている。

ユウトは時々発作を起こす。すごく面倒くさい病気…。俺はそれを『別れ話するから別れたくないって言って病』と呼んでいる。


「……別れたくないって言えば別れないの?」


これも俺の決まり文句だ。そして必ずこう続ける。


「俺と一緒にいたところで…結婚も出来ないし……、子供も産んでやれない。その俺に引き止める権利があるの?」


そう言うとユウトは必ず俺を抱きしめ


「…………ごめん……」


と、謝る…………。


発作を起こしたなと思っても、別れたいと言われる度に俺はちゃんと傷ついて……


別れたくないと言われない度にユウトも傷付く……。


謝った後キスをしてくるユウトを俺は必ず受け入れる。


まるでお互い傷付け合って、その傷を舐め合うのが愛情を確かめる唯一の方法だとでも思ってるみたいに……。


そして今夜も二人で傷を舐め合うんだ……。





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