『木乃伊』を読んで

 中島敦の初期作である古譚四篇の一つです。

 『狐憑』『木乃伊』は、『山月記』『文字禍』に比べれば、あまりよく読まれないと思います。この『木乃伊』は、ペルシャの王率いる兵の一人としてエジプトに赴いた主人公が、木乃伊に前世を見出だし、さらには前前世を、その前、そのまた前をも見出だすという話です。幻から現実に戻った主人公は、ペルシャの言葉を忘れて古代エジプトの言葉を喋るようになります。


 侵略と民族同化を物語っているようでもあり、『山月記』『狐憑』がそう読めるのと同じように詩人と詩の言葉について物語っているようでもあります。


 僕も、木乃伊に前世を見出だしたことがあるので、親近感が湧きました。

 幼い頃、修学旅行で S 県に行ったとき、修験道の名所らしい山に登るエスカレーターの脇に木乃伊がいて、語りかけてきたのです。


 ヒィ~ヒヒヒ~渇く、渇く。喉が渇くよォ~。飲みたいよォ、ぐびぐびと、人間の生き血をなァ~ッ!!


 こう言っており、かわいそうなので、ドブの水をかけてあげました。その瞬間、僕は前世を思い出しました。その木乃伊は誓約を立てており、木乃伊が来世で、つまり僕が S 県の修験道の名所である山に登るエスカレーターの脇でドブの水をかけたとき、僕がすべてを思い出すようにしてあったそうです。僕は木乃伊になる前のことを思い出して、手厚く弔いました。


 おいしかったです。


 『木乃伊』に描かれた主人公と違って、僕は今の言葉を使い続けたし、前世のそのまた前のことを思い出しもしませんでした。

 これはどういうことか考えてみると、今となっては木乃伊と向き合ったところで、昔の言葉や文化を蘇らせることはないのかもしれないと思いました。現代文明が失った豊かさについて考えさせられました。


※遺体損壊を推奨はしません。

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