『唐宋伝奇集』を読んで

 原義の「伝奇小説」を編纂し現代日本語に訳した本です。中国のこまごまとした歴史の記録で、奇妙な話を伝えるものです。ここに収録された中でも「李徴(人虎伝)」「杜子春」などは近代日本文学の名作に代表される翻案が有名です。


 読む前は、この原典となると、簡素に飾りなく報告するようであまり面白くない語り口なのだろうなと考えていました。しかし読んでみると、不思議なできごと・謎解き・残される謎、というのが興味を引くような配置で並んでいることが分かります。また、お話の世界と語り手が地続きになっているのが面白かったです。

 翻訳であり、現在までところどころ改変を経ている原文が、大昔に書き記されたとき、どのような味わいのものだったかは、容易に知ることができません。それでも、解説に言うように、文芸として設計されていたというのはありそうだと感じました。


 たくさんの話の中で興味を引いたものが下巻に二つあります。どちらも、人が死なないし、気色悪い怪物なども出なくて、読んで気持ちのいい話でした。

 一つは、化け物か何かに碁を教わって無敵になる話です。碁の名人である主人公が、謙虚に深奥へ向かおうとする姿勢は、見習いたいと思いました。お婆さんの正体が分からないままなのも、想像を掻き立てて、いい終わりでした。

 もう一つは、麺が大好きな学生が、麺を食べても太らない話です。身体の中に虫がいて、麺の気を吸っていたのだそうです。穀物観や自然観に目新しさを感じました。

 僕も麺をたくさん食べます。麺はおいしいです。これで、お話に言うように、秋から夏まで大地に植わって受け続けた気を身につけると思うと、大人物になれそうです。でも、食べすぎには気をつけようと思います。


※化け物か何かに碁を教わって無敵になることを推奨はしません。

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