~14 戦火の中で~

「さぁどうぞ、椅子に座ってくれ。折角だから話をしようじゃないか」


 第二王子は黒いローブに黒い長髪で、金の髪が特徴のフルール王国では異端のように見えた。聖剣士は喜んで、と言い普通に席に着いたので、アリスも同じく席に着かせてもらった。立ったままでいるのは第五王子だ。


「第二王子様……」

「うん? 君は仕事をしたよ、第五王子。確かにちょっと珍客だけど、彼らも何か知っているはずだから、君も席に着くといい。それとも、席に着けないか?」


 最後の言葉尻が低く威圧感を与える第二王子の言葉で、第五王子は静かに席に着いた。だが尋常ではない程、汗を流している。

 第二王子は三人が席に着くと、同じように席に着いて、聖剣士とアリスを交互に見てくる。


「そんなに見られるとは思わなかったな」

「すまない。本当に珍客なんだよ。だから気になることが多いのだが、不躾に質問をしても答えてくれなさそうだとみた。では僕の話でもしようか。まず、この騒動を引き起こしているのは僕だ」


 第二王子の言葉にアリスも聖剣士も特段何か反応しなかった。アリスとしてはこの第二王子が首謀者でも何の不思議でもないからだ。それに今はこの言葉が事実かどうか判断する術がない。反応を見たいのは第二王子側も同じなはずだからだ。


「そうですか。では何故、引き起こしているんですか?」

「ふむ。第一王子を失脚させるためだよ。割とシンプルな理由だが、故に手段もシンプルにいこうかと思ったのだが、この手段、どう思う?」


 お互い手探りで質問に質問が返ってくる。


「簡単で確実な方法かと」


 もちろん準備を整えるのに時間がかかるうえ、シンプルだが裏切者が出たら逆にやられるという、実はハイリスクな手だとアリスは思いながら、無表情で答えた。


「成程。リスクがあるとは思わないか?」

「どんなリスクを想定されていますか?」


 淡々とアリスは喋るようにした。この第二王子はちょっと隙を見せれば付け込んでくるだろう。


「裏切りが一番だな」

「人の心は移ろいやすいといいますからね」

「彼女は大分こう言った会話を得意としているようだ。彼の方はどうなんだ?」

「私は正直ものだからね。邪魔になれば斬るから得意ではないよ」

「ほぉ。面白い二人できたものだな。今、君たちのここに来た意図を探ろうとしているが、サッパリだ。降参だといきたいが、王冠を所持されては、はいそうですか、とはいかない」

「ですよね」

「分かって第五王子に僕のもとへ案内させてきた」

「面白いなぁ。私たちが来なければ、逆に会いにきただろう? 不思議な会話が飛び交うものだね」


 聖剣士の言葉に第二王子は少し顔を顰める。


「言葉遊びはもういいんじゃないですか? お互い探り合って終わるだけ。来た理由は一つですよ。本当に第一王子との争いなら見逃してくださいませ、王冠ごと」

「バレてるという訳か。第一王子なんて正直、おまけだよ。もちろん首は取るが、本来の目的は別にある」

「あぁ面倒な会話が終わりそうで良かった。私たちは珍客だ。本来なら王冠で釣りたい別の人物がいた。さぁ誰なのかなぁ」


 聖剣士は楽しそうに剣を抜く。

 その瞬間、第二王子から禁呪の発動が感じられ、アリスはすぐさま第二王子を結界で覆う。


「なんだ、これは」


 第二王子は結界が張られ、禁呪が発動出来なかったことから言葉を漏らす。禁呪は必ずしも何かをトリガーとする。第二王子だけを囲えば、少なくとも周辺ものをトリガーにしようとすれば発動は止められると思ったが、当たりのようでアリスはほっとする。

 瞬間、結界は聖剣士に斬られ、その剣先は第二王子の喉元で止まる。


「ダメだよ。悪いことしようとしちゃ。こっち側には感知できる者と、君を簡単に切り捨てられる私がいるんだから。珍しいタッグだけど、現状だと最適だよね」

「残念ながらその通りね。少なくとも第二王子様は禁呪を使えるみたい。だけど代償については知らないのかしらね」


 動けないでいる第二王子にアリスは近寄り右腕を掴むと、血色の良い肌色だったのが紫色に変わっていく。その様に第五王子は後ろでうわぁああと情けない声を出し、第二王子も顔を青ざめさせている。


「君に禁呪を教えたものが君にも禁呪をかけていたんだねぇ」

「解いてみないと分からなかったけど、結構禁呪を乱用したみたいね。もう大分浸食されている。禁呪を使わなくても、もって後数日かしら。だからきっとアナタをけしかけた人物がいるのね」


 禁呪を解くのは難しいが、第二王子にかけられていたのは禁呪ではあるが、ただフィルターをかけていただけだったので簡単に解けた。フィルターが無くなった第二王子の肌は顔も紫色で、禁呪の呪い返しがありありと見て取れる。


「お前たち、僕に何をした!」

「私たちがしたんじゃなくて、アナタに禁呪を教えた人がしたんだけどね。ま、アナタと違って、私たちは王冠が最優先。アナタが喋らなくても問題ないわ」

「だってさ」


 聖剣士は剣先を喉にもう少し当てたのだろう。ツーっと赤い血がそこから流れる。


「勘違いするな! 僕はしゃべらな」


 第二王子の首と胴体が瞬間、切り離された。あまり我慢強くなさそうとは思っていたが、聖剣士は見切りが早い。

 目の前で兄の首が飛んで第五王子は慌てて後ろに飛び退き、残念なことに後ろにあった棚に頭をぶつけて自分で失神した。


「やっちゃった」

「あの場面でも助けが入らないという事は、第二王子は、捨て駒だったのかしら」

「さぁ。君が言った通り王冠が手に入った。その先のこの国の行方に興味はないよ。我が主神を回収して、腕輪を取りにいくだけだ」

「そうね。でもアナタ、王冠も腕輪も封印が解けてないって言ってなかった?」

「私が確認したときはそうだった。割と早急に事を動かしている輩がいるのさ」

「誰? って聞いても答えなさそうね」

「すぐ答えたらつまらないだろう。聖女らしき人。君の答えは僕も持っていない。だから君が何か分かったら情報交換なら乗ってあげるよ」

「もういいわ。イージスのもとに行きましょう。この国の結末は、この国の人が付けるべきだわ」

「そのちょっと残酷なとこ、私は気に入っているよ。さ、我が主神は何処にいるかだけど、まずは戦場から抜けようか」


 第五王子には悪いが彼はそのままにして、王冠だけ結界で覆って袋に入れて持ったアリスは、道行く先を切り裂いていく聖剣士の後ろを必死に駆けた。王城は黒装束と兵士との戦闘が激化していたが、聖剣士は難なく道を切り開き、王城を出る事に成功した。

 王城から出ても辺りは黒煙があちこちで上がり、阿鼻叫喚であったが、聖剣士が切り開く道を辿り、漸く激戦区を離れる事が出来た。

 すると後ろから駆けてくるイージスがいて、また三人が揃う。


「ったく、危なっかしい事ばっかりしやがって」


 会って早々そう言うイージスに、聖剣士は笑う。


「恐らく君は気が付いてないなぁとは思っていたけど、遠くで我が主神が見守りつつ、周囲の黒装束を薙ぎ倒してたんだよ。だから私は目の前の敵だけで楽だったわけさ」

「結界の範囲外にいたって事?」

「忍ぶのは得意なんだよ。っつーか、あの商人追っていったら第一王子と繋がっててよ。色々ありそうだなぁ、って城観察してたんだよ」

「じゃあ我が主神は今回の事の発端をみたんだ?」

「見たくて見たんじゃねぇよ」

「今回のこの事の発端は何だったの?」


 黒い煙を上げて、美しい景観を損なったフルールの首都を少し離れたところで見つつ、アリスは問うた。

 行く先々で国が滅びていく。

 戦乱の世はもう、訪れているのだと自覚せざる負えない。

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