第3章 さようならの合図
第8話 気持ちが伝わる一言
〜カンパ〜
二人が謎解きをしている最中、僕は校舎にひっつく木の枝に座りその様子を観察していた。
『仲直りはできたようだ。ほっほっほ』
これは校舎自身の声。
「そうだな。」
先程、秋斗は「この校舎は生きているのか?」ということを言っていた。僕は何かと勘がいい奴は嫌いだ。秋斗のようなやつはとくに。確かにこの校舎に命が宿っているなどということは言わない。実際は少し違う。校舎は素直な言葉を貯蔵しているうちにその言葉を組み換えて音や動きなどのエネルギーに使うようになった。もちろん使うことによって現実世界に響く訳ではないし、問題はない。
『君はどうして浮かない顔をしている?カンパ・パープニュラ。』
「別に。」
短くそう答えるとその場を後にして二人の元へ帰っていった。後ろからまた校舎の『ほっほっほ』という普通に考えれば不気味な笑い声が聞こえてくるが、構わず僕は無視をした。僕は喧嘩を止めることはできなかった。結局、僕は出来損ないの妖精だ。
「嘘ついちゃったな。」
誰にも聞かれないようにボソッと呟いた言葉は、風に吹かれ消えてなくなった。
〜一言で伝わる大切な言葉〜
「なんだこれ。」
目が点になる春香と秋斗。紙に書かれているのはいかのイラスト。その右には大の字に寝転ぶ男性のイラスト、目をこすっているイラスト、そしてやりの先に矢印が描かれているイラスト。そしてまた右には6個のマスに左2マスは赤色縁、5個のマスに左1マスは赤色縁、4個のマスに左から2マス目が赤色縁。問題の内容は『赤色縁を左から読むと現れる言葉は?』とのこと。
手紙の穴埋め作業も後半戦に差し掛かる。いかのイラストと右のイラストをかけ合わせて言葉を作る問題らしい。
「俺この一番下の答え分かった。やりのさきの『さき』をとって『さきいか』だろ?コンビニとかスーパーでよく見かける。」
「なるほど。丁度4文字だからあってるかも。『さきいか』おいしいよね。」
次は春香の方がマスに当てはまる言葉を見つける。
「でも、それ以外のいかは?」
「でも一番上のいかは分かるかも。」
「答えは何だ?」
「大の字だから『大きい』ってことじゃない?だから深海に生息する一番大きい『だいおういか』。」
「なるほど。」
というわけで、一番上の6つのマスには「だいおういか」に決定。問題は真ん中のいかの名前だ。もう一度いうが、いかに詳しくない春香と秋斗は目が点に再度なる。「ん〜。」と唸ってみたり、「あ〜。」と嘆いてみたり、「え〜?」と首を傾げてみても答えが出ない。そんなこんなで淡々と時間が過ぎていくと問題の方が飽きたのかまた新しい紙が現れた。ん?問題が飽きた?
「やっぱ絶対この校舎呪われてるだろ。」
「何ボヤいてるのよ。」
現れた紙を見ると、そこにはなんというか、とっても苛つくほどありがたいヒントが書かれてあった。
『あっれぇ〜?この問題解けないの?おっくれてるぅ〜。』
「これ燃やしていいかな?」
「こら。」
このヒントを出してくれるという紙に失言する秋斗を春香が一括入れる。
『ではではぁ〜。このいかのヒントを教えるよぉ〜。まず、イラストは何を表しているかな?これは言葉にすると「こする目」これにいかを足したらいかの名前になるよぉ〜。因みにこのいかは日本で一番食べられていて、干物にしたらおいしいよ!うぅ〜食べ物の話したらお腹空いてきちゃった。では、そういうことでぇ〜。』
「「・・・。」」
「やっぱこの紙燃やすか。」
「やめて。」
気を取り直して謎解きに励む春香と秋斗。
「『こする目』と『いか』か。」
「そんないかあったけ?」
そしてまた唸る春香と秋斗。するとカンパが隣にやってきて言った。
「するめいか。」
びっくりして目をパチクリしてカンパを見やる。
「あ、そういうことか。『こする目』の『するめ』をとって『するめいか』。でかしたぞ。寒波。」
「カンパありがとう。」
「ありがとぉ〜。えへへ」
どんな心境の変化なのかは知らないが、カンパに教えてもらえるとは思っていなかった。
「それじゃあ、マスに入れると、『だいおういか』、『するめいか』、『さきいか』。左から読むと、『だい』、『す』、『き』」
「『大好き』ね。」
手紙の空欄を埋めると思わず「ふふっ」と小さく笑ってしまった。
「どうした?」
「ん?ううん。なんでもないよ。」
「?」
『そんなお母さんのことが私と僕は“大好き”です。』
私は心がほんのり暖かくなり、埋められてできた一文をそっと指で撫でたのだった。
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