第7話 真実の言葉

「春香!」

「お〜春香ちゃぁ〜ん。」


春香と合流するために紙風船があった場所に戻ると春香の姿があった。手には紙を持っている。きっと春香もクイズを解いたんだ。


「ごめん。」

「ううん。私の方こそカッとなっちゃって。」


そう言い合ってにこりと微笑みあった。


「仲直りおめでとう。」


祝福の言葉をカンパから貰い、今度こそ手紙を復活させようと試みた。


―――・・・


秋斗が持つ紙には『き ん そ ね と』。私の紙には『 げ を こ た き』と1字1字の間を空けて文字が並んでいる。1文字入りそうな空間が。


「交互に読んでみようよ。せーの!」

「え!?と、『き』」

「『げ』」

「『ん』」

「『を』」

「『そ』」

「『こ』」

「『ね』」

「『た』」

「『と』」

「『き』」


「『(春香が)機嫌を損ねたとき』だ。」

「ん?どういうこと?」


すると正解音が鳴り響いた。そして手元に手紙が戻ってくる。


「やった。復活成功!」


答えが分かり明るい声を出す俺に反し、春香は頭に「?」を浮かべる。見た感じ春香は納得の行かないようで表情はあまり良くない。それでも俺はこの文の意味がなんとなく分かる。さすが素直な言葉が集まる「言の葉の校舎」だ。


「確信はないけど、きっと悪い話じゃない。この一文を埋めればきっと春香にも納得が行くと思う。だから次のクイズ探そう。」

「・・・そうね。」


春香は少し納得するようにコクリと頷いた。俺は今までで一番気合いの入った声でカンパを呼んだ。


「カンパ!次行くぞ。次!」

「お〜。秋斗はいっきに元気を取り戻したなぁ〜。良かった。良かった。」


カンパは満足そうに笑っていた。


―――・・・


何処にブレスレットがあったのか。どうやって仲直りをしたのか。それは記憶の隅に隠れて出てこなかっただけだった。本当は三年程前の出来事だというのに、今でも鮮明に思い出すことができる。それほど大切な思い出だということを、この「言葉を探す謎解きゲーム」の中で知った。


「ごめん。無神経なこと言った。これ、ブレスレット。お前のベットの下に転がってた。」


まだ小学生から中学生に上がりたての男子という生き物は、まだ女子より遥かに身長が低い。同い年だというのに年下に見える双子の兄、菅野秋斗は、ブレスレットと花束を持って私の前で謝ってきた。その光景にびっくりしすぎて声が出ない私を不審に思ったのか、秋斗は仏頂面になって言葉を付け足す。


「まだ怒ってんの?」

「あ、ううん。こんな花束まで持ってくるなんて思ってなくて。こっちこそ、ごめん。言い過ぎちゃった。ブレスレット見つけてくれてありがとう。」


そしてブレスレットを返してもらうと。私は堪えきれなかったというように思わず吹き出してしまった。


「ぷっっっくくくく…」

「な、なんだよ。」

「いや、だって、だって秋斗が花束。全然似合ってない。」


そう言うと秋斗は私から目線を外して「ん。」と花束を差し出されたそれを快く受け取り「ありがとう。」と短く返した。そんなおかしな笑っちゃう仲直りのエピソード。秋斗から貰ったお花の名はハシバミとツルニチソウ。それぞれの花言葉は仲直りや懐かしい思い出など。今思えばこれは母に頼んで私と仲直りするために選んだ花なのだろう。だって母は昔からこういう花言葉とか好きだったから。


「ありがとう。」


一人部屋で一人、そう呟いた。それは秋斗はもちろん、母への言葉をも並べたのだった。


―――・・・


「『他にも、春香が機嫌を損ねたときは仲直りを手伝ってくれたときも、とても心強かったです。』」

「わざわざ読むなよ。」


秋斗は恥ずかしいのか私の手にある手紙を奪う。そんな秋斗の姿を見ると、今ではとても逞しく思えた。あんなに背が低くて丸みを帯びた数年前までの顔立ちとは打って変わり、今では私よりも10センチ以上も伸びた見上げなくては見えない背丈。顔立ちも大人びてまるで別人のよう。それでも、あの時とは変わらない何かがありますように。そう、願った。


「何ニヤけてんだよ。きっしょいな。」

「ひどぉ〜。」


と言って秋斗より先を急ぐ。すると後ろから「待てよ。」と秋斗の声が聞こえる。


「ありがと。」


もう一度あの頃のように、私だけ聞こえる声でそう呟いた。

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