第4話 小さな記憶とすれ違い
〜秋斗の心〜
現れたのはクイズのはずだが、手元にあるのは透明なクリアファイルに何かが書かれている。なんだろう。これは。
「『 ないしょにして
ひみつの暗号は
どれも君の
心のみに宿る
からぜっ
たいにないしょ』文の意味はさっぱりね。」
文の意味だけではなく配列もばらばら。この文に何か意味が隠されているのだろうか。それとも意味自体はないのか。もしかしたらこの絵も使うのだろうか。でもこのクリアファイルとこの絵の大きさは全く違う。手紙の文面を見てみると、「僕は〜になって」と書かれている。この空白をこの変な文から探し出すには?私はこのクリアファイルを絵と合わせて考えてみる。するとどうだろうか。絵から離れて文を合わせると骸骨の体と文が重なる。
「え〜と、『しの君にらい』じゃなくて『いつもみかた』『いつも味方』よ。これだわきっと。」
手紙の文に当てはめてみると「僕はいつも味方になって」となる。そうだ。これに違いない。すると何度目かの正解音が鳴った。
「やったー!」
「・・・。」
正解したというのに秋斗は黙ってる。それを不思議に思って「どうしたの?」と聞いてみると、秋斗は目をそらして言う。
「この一文さ、まだ空欄多いけどこの先の言葉がなんとなく分かって。ちょっとしたことなのに、俺こんなこと母さんに言いたいのか。」
少し切なげに言う秋斗。でも私にはこの先の空欄は埋められない。きっと秋斗自身に思うことがあるのだろう。
「早くお母さんの目を覚まさせよう。」
私達二人はコクリと頷きあった。
〜誤差〜
「『紙風船並べて一年作れ。』」
目の前にあるのは紙風船10個。それぞれ紙風船にはカタカナが書かれていて、その下には0〜9の数字が割り振られている。
「『0ア 1二 2コ 3キ 4ヌ 5イ 6ラ 7チ 8リ 9ッ』これを並べ替えればいいのかな?」
「『一年作れ』てどういうことだ?」
「んー?」とお互い唸ると今度は秋斗が声をあげた。
「一年は12ヶ月『二コ』。文は「春香が『二コ』」違うな。一年は365日だから『キライ』。文は「春香が『キライ』」文は繋がるけど流石にこれは違うだろ。」
と、軽い気持ちで考えていたと秋斗は考えていたのに正解音がこの地を響かせた。一瞬何が起こったのか分からなくなり反射的にフリーズした。でも、春香は秋斗が呟いている内容が聞こえなかったため正解はまだ知らない。
「あれ?正解したの?答えは何だった?」
「・・・。」
ありえない回答に秋斗は両手で頭を抱えた。
「マジかよ。」
溜息混じりに呟いた言葉は虚しく空中を彷徨った。
―――・・・
小さい頃は仲良しな双子とよく言われていた。秋斗とはいつも一緒に行動して、いつも一緒にお風呂入って、寝て起きて、たまたまだけど高校も同じところへ入学した。小さい頃はお互い兄弟として大切に思っていたし、ずっとこのまま仲良しでいるのだと小学生あたりまで思っていた。それでも心の変化はつきもので、中学生になった頃から喧嘩をするようになった。そういえば初めて喧嘩した理由はなんだっけ?なんだっけ...。そうだ、あれが最初だ。
「私のブレスレットどこいったか知らない?」
中学1年の頃の話。私はとても大切な人から貰った宝物を失くしてしまったので秋斗にそのことについて聞いた。
「知らない。」
秋斗は短く返すと私は「そっか。」とだけいってこの場を去るはずだったのだが、秋斗はそれに無神経なことを言ってそのまま言い合いになった。
「あんな薄汚いやつなんでとってあるんだよ。新しいの買えばいいじゃん。」
「そんなこと言わないでよ。大切な人から貰った宝物なの。」
そうだ。そうやって喧嘩になっちゃったんだ。あれからどうなったんだっけ?そのまま見当たらなくて、秋斗の口も当分聞かなかったな。どうやってあの時は仲直りしたんだっけ。どうやって...
―――・・・
「そんな溜息出してどうしたの?」
何も知らない私は心配になって問う。秋斗はどうやっても目を合わせてくれない。不思議に思って顔を見合わせる私とカンパ。それに意を決して言おうと深呼吸して秋斗は言った。
「『キライ』」
「え?」
自分の耳を疑ったのは言うまでもない。
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