第3話 母の言葉
「春香、見て。桜が咲いてるわ。」
お母さんは言いました。
「桜はね。散るからこそ美しいのよ。」
と。
もう二度と戻れなくても、帰れなくても、きっと私達だけの春だった。
〜第1問〜
「ビンゴ。」
開いたページから光が放たれ、何種類かの花が入った花瓶とクイズと思わしき紙切れが何枚か机の上に置かれた。
「さぁ、第一問だよぉ〜。このクイズを解いた言葉はこの便箋の一番最初の空欄に入る。」
カンパは説明してにこっと笑う。クイズの紙切れには「お互いの部屋には3つのアイテムがあります。」と書かれてあり、その下にはそれぞれ3つ、「秋斗の部屋」「春香の部屋」という枠の中にイラストが書かれている。そしてまた下に書いてあるのは「2人の部屋のアイテムには共通点があります。それにに足りないものを花瓶の中から選ぼう!」とのこと。
「俺の部屋にはファイルとパソコンと名刺、春香の部屋にはドーナツとクレープとハチミツ。花瓶にはピンクのチューリップとひまわりとユリと八本のバラ。ヤべ、全然わからん。」
今はここにあるクイズを解かなくてはならないわけであるが、私はこっそりと懐かしさで胸がいっぱいになっていた。花瓶に入っているそれぞれの花はどれも、お母さんとの大切な思い出に欠かせないお花で、沢山の思い出が頭の中を駆け巡る。お母さんはお花が大好きで、特に桜が好きなのだと言っていた。でも、この花瓶の中には桜はない。桜色のチューリップはあるが、それではなんの根拠のない回答になってしまう。
「ていうか、花なんか当てたとしてもそれがそのままこの空欄に入るとは思えないし。本当にこれってこの虫食い文章と連動してんのか?春香どうした?」
「あ、はははごめんね。ぼーとしてた。」
どこか上の空になる私に気づく秋斗。それにしても共通点とは何なのだろうか。私の部屋にあるドーナツとクレープとハチミツは食べ物だけど、秋斗の部屋にあるものは食べ物ではない。ということは、きっと名前に隠されているわけで...。
「ドーナツ、クレープ、ハチミ...」
声に出して読んでみるとド・レ・ミと音階が名前に隠れていることに気付いた。もしかして、これは名案か?
「ファイルのファ、パソコンのソ、名刺のシ。そして、足りない音階は...秋斗、私分かったかも。」
「マジで!?」
驚く秋斗。そしてじっと見守るカンパもにっこりと笑う。
「答えはズバリ?」
「バラ!」
と答えると正解の音楽が図書室の中を響かせた。でもまだ肝心な言葉は見つかっていない。試しに八本のバラを花瓶から引き抜いてみるが、なんにもない。
「バラじゃ、この文章の空欄は埋まらないわ。」
「春香、花瓶の中に紙が入ってるよ。」
「本当だ。どれどれ?」
折りたたまれた紙を広げるとまた何か書いてあった。またクイズを解かなくてはならないのだろうか。いや、違う。これは花瓶に入っているお花の花言葉だ。8本のバラの花言葉ももちろんあった。
「『(あなたの)思いやりや励ましに感謝しています。』これよ。これがきっと探していた言葉だわ。」
私達は「やったー!」と喜びを分かち合った。
―――・・・
「それにしても、どうしてクイズを見つけられたんだ?」
次のクイズを探すべく、廊下をとことこと歩く。窓から差し込む太陽の光が廊下を照らし、電気代わりになっている。
「『もろともに あはれと思へ 山桜 花より外に 知る人もなし』私が一番最初に覚えた百人一首よ。お母さんが一番好きな花を用いた句だから、気付いたらずっと覚えてた。だからそのページ開いたの。」
「母さんとの記憶の中を探っていけば見つかるということか?ていうか、図書室でもっと探せば別のクイズが見つるんじゃ?」
「それはないかなぁ〜。」
呑気な声を出すカンパは図書室に再び向かおうとする二人の足を止める。
「基本的にクイズが同じ場所に集まることはない。また時間を本のペラペラ作業に費やすよりも他のところを探したほうが確実だよ。」
するとまた二人は頭を悩ませる。本が沢山並んでいる図書室はもう使えない。としたら、次はどこを探せばいいのだろうか。
「もしかしたら...」
「どうした?」
私はあることを思いつきぱっと顔をほころばせてありったけの声を出して言った。
「あそこなら!!!」
と春香は言って次の問題へと直行し、何問か3人は謎を解いていった。
〜小さな記憶の中で〜
「これよ。これ!秋斗こんなポーズよくしてたでしょ?」
「なんだよ。」
不服そうにケラケラ笑う春香を見て顔をしかめる。春香が指差していたのは美術部が賞を取ったというクオリティーの高い絵だった。絵の中心にいるのは膝をおって下を見る骸骨のようなもの。人ではないことは確かだ。それが春香には俺に見えるのだという。なんでだよ。
「お母さんがここに来た時にこれを見て一緒に笑ったのよね。はははっおかしい。」
するとまたその絵が光を放ってクイズが現れた。それを見て春香は「やったー!」と目の前で叫んでいる。母を助けるためのクイズが現れて嬉しいはずだ。嬉しいはずなのだが、自分の無力さを突きつけられ無意識に目を伏せていた。それに気付いたカンパは何を思ったのか俺の肩に乗って言った。
「大丈夫だよ。ちゃんと役に立ってる。」
俺はその言葉を聞かなかったフリをしたが、内心では少し心のモヤが引いたような気がしていた。
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