第2話 言の葉の校舎
「じゃーん!」
カンパに連れてかれた場所は何処の誰がなんと言おうとただの変哲のない高校だ。それは見れば分かる。見れば誰だってこれは学校だと答える。
「学校じゃん。」
「学校だよ?」
「バカにしてんのか?」
少々キレ気味になる秋斗。
「バカになんかしてなよ。僕は本気さ。」
「どこが!?このクソ
「あー!いけないんだぁ〜。カンパを寒波て、どこの小学生だ君はぁ〜。名前で遊んじゃいけないんだぞぉ〜。」
取っ組み合いになる秋斗を春香は「コラコラ。」と宥める。取っ組み合いといいつつも身軽なカンパはひょいひょいと飛んで華麗に交わす。なんというか、その動きが醜い蚊のように見えたのは春香は口に出さず心に留めておく。
「えっと、カンパ。本当にここに言葉のクイズがあるの?」
「いいや、まだない。」
「「まだ?」」
さすが双子。二卵性だとか関係なく双子は息ぴったりである。それにしても「まだ。」とは何なのだろうか。しつこいようだが目の前にあるのは学校だ。何か起こるなど誰が知ったことか。
「目を離さずしっかり見てろよぉ〜。えい!」
カンパの一声と両手を振る勢いで辺り一面光を放った。「目を離さず」と言われてもこの輝き。目を開くのも億劫だ。細目でなんとか白い光を捉えると次第に視界がボヤけ、その景色が鮮明に見えてくる。その景色を見た二人はひゅっと息を吸い込んだ。空気が美味しい。一瞬前と比べると青々とした木々の葉が増え、太陽の光が幻想的に黄色に近いオレンジ色を葉や校舎を照らす。ん?校舎?
「学校、ビジュアルはそのまんまだね。学校にひっつく葉と枝が増えたような。それに、『言の葉の校舎』?」
「ふっふん。春香ちゃん、よくぞ気づきました!」
威張るカンパは本来であれば高校名が書いてある石の看板の周りを一周りして言う。
「ここは、あらゆる人の素直な言葉を貯蔵する大きな校舎!その名も、『言の葉の校舎』!なのです!」
―――・・・
「そんで、寒波。俺らこれから何処いきゃいいの?」
「勝手に漢字にすんな!」
「イテッ」
カンパは小さいながら拳はちょっと強いらしいです。本当、なんの茶番をしているのやら。
〜「いつもありがとう。」当たり前などないということ〜
「うーむ。まずは言葉なんだから言葉が沢山ある場所を探したらいいんじゃないか?」
二人は少し考えた後顔を「あっ!」と顔を見合わせて言い合った。
「「図書室!」」
言葉、つまり文字!というわけで図書室に来たカンパ合わせて3名。パラパラという本を開く音だけが室内に響き渡る。適当に文庫本を手にとっては捲り、手にとっては捲り、これが何の役に立つのかは全く分からない。これでは日が暮れてしまう。
「そういえば、本当にここは元の学校のままね。見た目も教室内にある物全部。ただ人がいないだけで。ねえ、これ本当にここは元の高校とは違う建物なの?」
「まぁ、そう思うのも無理はない。」
カンパはちょこんと春香のうえに座って語りだす。
「ここは現実世界とはかけ離れた別の世界。俗に言う異世界というやつだな。この異世界はあの学校ができた年に作られた。この校舎という名の貯蔵は、40年ずっとここの現実世界の生徒たちの素直な心の言葉を蓄えてきてこの建物が成り立っている。だから、沢山の生徒たちの言葉はこの建物そのものだと思ってもいい。なんせ、この校舎では入りきれなかった言葉は今じゃ外の太陽、緑の木々まで作り始めている。ここはそういう場所なんだよ。」
カンパが言う言葉を聞くと、本当にここの言葉を見つけ出せるのかはとても不安だ。でも、やらない訳にはいかない。私の命に変えてでもこの手紙を完成させなくては母の命には変えられない。
「そんな。大量の情報からなんの情報を取り出せってんだよ。」
音を上げ始める秋斗。
「ねえ、どうしたら言葉を見つけ出せる?このペースでは日が暮れてしまうわ。」
「そうだねぇ〜。何か思い出の本でも探してみたら?」
「思い出の?」
カンパはコクコクと頷く。秋斗は相変わらず「本読まねぇから思い出の本なんかねぇよ。」と弱音を吐いている。それでもそこらの本を読まずとも手にとってパラパラ捲っているのだから可愛いものだ。その時だ。私はその秋斗の持つ本の表紙を見て何かがピンときた。
「秋斗、それ見せて。」
「お、おう。」
少々上擦るほど慌てた様子で声をあげるものだから秋斗も少々慌てながら手に持つ本を渡す。「私はありがとう。」と一言言ってその本を手に取りペラペラと思い浮かべているページを捲る。
「ビンゴ。」
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