創造世界
洲崎太朗
創造世界
僕と文江は、結婚を機にある能力を手にした。
「自分の頭の中で創造した物を、そのまま自分に体現できる。」
こんな能力だ。
僕たちは今、新婚旅行に出かけようとしている。もちろんこの能力を使って。
しかし、この能力でも流石に頭に描いた物を目の前に出すなんてことはできない。
せいぜい、自分の体に変化を与える程度だ。
僕たちは、自分の背中に羽を生やし、ハワイに渡ってバカンスを楽しむことにした。
計画は完璧だ。現地の空港に降り立ち、そこで到着した飛行機に乗っていた様に装って入国する。
いくら、物を創造できたって流石に不正入国なんていう犯罪をする勇気は僕たちにはない。
じゃあ、行くか。
「そうだね。」
僕たちは家の前に出ると、頭の中で創造した。
「着脱可能な空が自由に飛べる羽。」
僕たちの背中から羽が生えてきた。
じゃあ行こうか。
僕たちは空を飛び始めた。
上手く飛べた。
どんどん、自分達の住んでいる街が小さくなっていく。
海の上まできた。海まで来ると、周りに障害物となるものがなくなり風に煽られる。
「バランスを崩したら落ちる。」
僕たちは、ずっとそのことを考えて、バランスを保つことに必死になっていた。
30分程進み、日本の陸地も影程度にしか見えなくなった。
文江っ!
文江がバランスを崩したのが見えた。下に向かって落ちていく。
僕は体の向きを変え、急降下して頭の中で陸地を創造した。
「そこに陸地を。」
文江は、僕が創造した陸地の上には落ちなかった。陸地から少し外れた海の上に落ちた。
終わった。
それが僕の感想だった。
僕は、バランスを保ちながら陸地に降り立ち、すぐに泳いで文江が落ちた場所に向かった。
文江は、自分で羽を取って陸地に向かって泳ぎ出していた。
文江は生きていた。
僕は陸地に上がって文江が生きていた喜びと共に、ゾッとしていた。
もし、あの時文江が僕が創造した陸地に落ちていたら、文江は間違えなく死んでいた。
僕が作った陸地から文江が落ちた場所が外れたことで、文江が落ちた時の力は海水に分散され今、文江は目の前で生きている。
文江もそのことに気付いていたが僕のことは責めなかった。
もし、私がその状況下に置かれたら、私もそうするとだろう。と言ってくれた。
その後、もう一度慎重に創造した羽を使って日本の本島にに戻ったが、僕たちはその日から、創造の能力を使うことはなくなった。
創造世界 洲崎太朗 @sumoto_taro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます