ブロック❒ハンド

うなぎの

第1話

世界は不思議な出来事で満ちている。

この物語は、ごく普通の中学生の俺が巡り合った。そんな不思議な出来事のほんのはじっこの部分である。



・・・・ジリリリリリ!ジリリリリリり!



『半太ー半太ー!朝ごはん出来てるわよー!』


「はーい」


俺は田牧半太たまきはんた14歳。今日も床から聞こえるお母さんの声に起こされる。時計のカレンダーによると今日は月曜日、一週間で一番憂鬱な日だ。身支度をして1階へ降りる


「おはよう」

「ほら先顔洗ってきなさい、朝からだらしないんだから」

「昨日も遅くまでエッチな動画見てたもんねー!」

「ばっばか!みてねーし!」


母さんに、こいつは妹のユキ。昔は可愛かったけど、親父が死んでからすっかりギャルになっちまった。んで、今じゃこの有様。


「お母さん、今日遅くなるから。あんたたちで適当に食べてね?」

「また仕事かよもう少し休んだっていいじゃんか」

「無理言わないの。仕事があるだけましなんだから。こら猫背!」

「はーいはい」


母さんは、金持ちの家で掃除婦として働いてる。金持ちが掃除に掛ける手間と、俺達の生活費がイコールになるのが俺はいつも気に入らない。


「あーあたし今日ヒロ君とデートだから」


けっ、背伸びしやがって、縞々パンツしか持ってないくせよくいうぜ。まあ、まだ小3だしな。うん。


「おいユキ、母さんに心配かけんなよ?」


「うっざ」


「くっ!おい!ユキ!お前の心配してんだぞ!」


「大きい声出さないでよ朝からもー、そういうところがうざいんだって。どーせクラスでもそんな感じなんでしょ?」


「ちっちげーし!」


くッ!こいつめッ!図星だッ!


「ほらあんたたち、冷蔵庫にプリン入ってるからそれ食べて早く行きなさい!」


「俺いらないから、ユキ食べていいよ」


「え!?いいの!?ハッ!?・・・ふんだ!別に嬉しくないし!プリン如きで!子供じゃあるまい・・・いつもありがと」


おこちゃまはこれだからちょろいぜ。


「行ってきます!」

「はーい」

「いって・・・らっしゃい。・・・おにい、ちゃん」



学校。



「おはよー」

「おはようー」

「おはよう」


???「おい!半太!お前の父ちゃんいつラッコの毛皮を持ってくるんだ!?」


くっ!またこいつか、会わない様にしててもいつもくっついてくるな。どれだけおれが好きなんだ・・・。


「またその話かよ・・・いい加減しつこいぞ」


「しつこいだと!?半太のくせに生意気だ!しつこいというのはこういう事を言うんだ!このやろう!」


「うわ!や!やめろ!」


「道徳や正論など暴力の前では無意味であることを今日もお前に身をもって教えてやる!」


この朝から思想強めのデカい奴は波木親夫なみきちかお。どこにでもいるようないじめっ子だ。得意技はプロレスの何とか固め・・・。


「イタタ!!ギブ‼ギブ!親夫!」


「はっはっは!まだまだ!」


「ぎゃー!」


『親夫君!もうやめなよ!半太くんが痛がっているよ!』


そうそう、大体このタイミング。


「ツカサか、まぁお前がどうしてもって言うならやめてやってもいいけどよ」


そう言い残して、親夫は自分の席へと戻っていった。


「大丈夫かい?半太くん?」


「ああ、いってて・・・あいつ最近どんどんシャレにならないパワーで絞めやがるんだ」


ツカサはいつものようににっこりと微笑んだ。


「親夫君、ここ半年くらいですごく背が伸びてるの気が付いてないのかな?」


「はは・・・そうかもな」


「さ。半太くん」


「ああ、いつもありがとう。ツカサ」


「うん。余計なお世話かもしれないけど、お互いの為に一度注意した方がいいんじゃないかな?怪我でもしたら大変だよ」


「うん、まぁそのうちな」


あいつはあいつで結構大変だったりするんだ。ツカサも。でもウジウジしたりなんてしないぜ。今重要なのは・・・。


「そうだ、ツカサ?」


「ん?なんだい?」


「その、また宿題写さしてもらいたいんだ」


「ふふ、いいよ。でも、明日の朝には返してよね?」


「やったぜ!いつもありがとうな!ツカサ!」


「全然良いよ宿題くらい。それに、咲子さん・・・半太くんのお母さんには僕達すごくお世話になってるんだ」


そう、何を隠そう母さんが働いてる金持ちの家ってのがツカサの家ってわけ。言っとくけど、金持ちは好きになれないけどこいつは別だ。


「ああ、母ちゃん、口うるさいだろ?ごめんな」


「ううんううん!そんな事無いよ!この前も僕が組み立てた模型を見て。あら!初代日本丸ね!って!僕驚いちゃったよ。君のお母さんはとても聡明な人だよ」


「なんだか照れるな。母ちゃん、お前の家は価値のある物しかないからやりがいがるってさ」


「それは本当かい?」


「ああ、いつも言ってるよ」


「・・・嬉しいよ。あ、授業だ半太くん」


「ああ」



放課後、結局親夫の奴も一緒に宿題を写した。

おかげでもうこんな時間だ。


「親夫の奴、誰のせいでこんなに時間かかったと思ってるんだ」


先に帰ったツカサの家まで俺は預かっていた宿題を返しに来た。もちろん親夫に命令されてだ!全く!なんて傲岸不遜(さっき宿題で写した)なやつだ!


「相変わらずデカい家だなぁ」


ピンポーン。


留守か?


まぁ、明日学校で返せばいいか。そう思って、帰ろうとした時、植え込みの中から小さな何かが飛び出してきた!


「うわっ!ネズミ!?虫!?いてて」


咄嗟に顔を覆った手に一度鋭い痛みが入ったけど大丈夫、なんともない。齧られた訳でも、刺されたわけでもない、ありゃなんだ?

呆気に取られていると、家の中から足音が近づいてくる。どうやら急いでいるようだ。


「・・・ッ!」


ツカサのオヤジさんかな?思ってたより若いな。


「あの」


「ッ!?ああこんばんは君は?」


「ツカサ君のクラスメートの半太です。宿題を写させてもらってそれを返しに来ました」


「そうかいわざわざありがとう、ところで君」


「はい」


「ああいや何でもない。気を付けて帰るんだよ?」


「はい」






・・・・ジリリリリリ!ジリリリ。


『半太ー半太ー!朝ごはん出来てるわよー!』


「はーい」



「いってきまーす」




学校。



「半太ー!半太ー!お前に行き過ぎた全体主義がもたらす危険を身をもって教えてやる!」


「へえへえ」


『はーいここ見て下さーいTHの発音はセェゥ!セェゥ!になりますよー』


・・・平和だ。





・・・りりりりりり‼





何の音だ?聞き覚えがあるような?

音は段々と大きくなり、クラスの奴ら全員にも聞こえているみたいだ。


「なに?」


「目覚まし?」


「どこから?」


音はどんどん大きくなる、どんどんどんどん大きくなる!


「あらーなにかしら?」


先生に聞こえるほど大きく!


「センセー!お腹が痛いので早退します‼」


「え?」


「ではっ!」


ガララっ!


「・・・消えた?」






ありえねぇありえねぇありえねぇ!



俺は息を弾ませて、全力疾走による脇腹の鋭い痛さを味わいながら急いでうちに帰って部屋に飛び込み、デスクライトの光を右手に当てた。


『ジリリリリリリ‼』


ありえねえ。



病院?それとも電気屋さん?


そもそもこれ取れんのか・・・?てかどうして?


俺は恐る恐る、一体化した目覚まし時計を掴んで引っ張った。


取れろ・・・!取れろ・・・!


じりりりりりっ!!


「!」


取れた!


何なんだ一体・・・スマホや、電気スタンドもくっつくぞ、訳が分からないけどこれならもしかして。


・・・にやぁ。






我が人生においてこの時ほど天才を身近に感じた瞬間はあっただろうか?いや、無い!(反語)

                        

                            田牧半太

                                 ~





『はぁいここ!ER!なにかをする人!を現す時に使われます!スイムER!ランER!いいですねー!』


…an…an!‥!


・・・にやぁ!


天才は居るッ!ここにッ!


『はぁい!今日の授業はここまで!』


K・R・T起立・礼・着席


うちの中学はスマホ禁止だ。だが、この能力があれば…‼


・・・にやぁ!


「おい!」


誰だ!


「なんだ、親夫か」


「半太、お前、それ」


「ああ・・・これか?」


『・・・』


にやぁ!×2





 わかってることがいくつかある。この力はまず右手限定って事。それから、スマホや目覚まし時計以外にも、いろんな家電製品をくっつけることが出来る。ただし同時に持てるのは一つだけ。取られた家電の方は、歪に削れたようになって、ほとんど使い物にならなくなるけど、取った部分を返却すればすっかり元に戻る。


くっつけてる間は、くっつけた物の性質とか状態が目で見てなくても良く分かる。だけど動画は目で見て耳で聞くものだよな?


なによりも便利なのは・・・。


バタンッ!


「おにいちゃーん!」


「・・・ん?何かな妹よ?」


「!?な。何でもない!んだから!」


「そうか」


・・・たたたた!


「ふふふ・・・!」


サイコーーッ!!


ユキは不服そうに階段を下って母さんに不満を漏らしているようだった。


それに充電も要らない!これで真の意味で好きな時に好きなだけ動画が見れるぞ!やったね!




学校。



「おっす、親夫」


「おう、半太」


「ああー今日も?」


「ああ」


「誰にも内緒だぜ親夫」


「勿論だ心の友よ」


俺たちは固い握手を交わす。


そして。


・・・にやぁ。


決行は昨日同様放課後などの自由時間。それまでの行事など前哨戦にすぎんよ明智くん。


「はーいおはようございまーす!」


挨拶と共に先生が入って来る。中2にもなって、その意味が分からない奴なんて一人もいない、それぞれが席に着く。


「はーい!みなさーん転校生を紹介しますね!どうぞー入ってきて!」


転校生?聞いてないぞ。


「・・・ハイ」


女だ。


一呼吸おいて、ざわめきはさらに大きくなった。転校生は外国人だ!


「はーい、今日から皆さんと勉強する事になる。はい、自己紹介どうぞ」


「ラピス」


『うおおおおお!めちゃ可愛い!めちゃ可愛い!』


ああ、説明はいらないと思うけどこれは、創意だ。


「ちょっと男子‼‼静かにしなさいよ‼ラピスさんが怖がってるじゃない!!」


「はーい静かに!静かに!」


麗しのラピスちゃんは、じっとクラスを見渡してなんと俺を見たんだ!!


ってあれ?これも創意か?


「席は・・・あっ!」


ラピスちゃんは真っ直ぐ俺の方へ向かって来たかと思うと、俺の席を指さした。なんて綺麗な瞳の色なんだ。どんな職人にだって作れないよ絶対。でもなんだろう?


「ラピス。ここが良い」


なっ!


クラス全員に電流が走る!


ま!ままままってくれ!俺はみんなを裏切るつもりは無いんだ!本当だ信じてくれ!本当だよ!みんな!友よ!心の友たちよッ!


「・・・よいしょ」


『はーい!では一時限目は理科ですよ!ノードを開いてー!』


ラピスちゃんは、教室の隅にあった椅子を持って来て俺の隣に座る

先生のチョークが印刷機のように正確に動いて黒板を彩るなか、俺の足はガタガタ震えていた。

なぜかといえば、ついさっきまで友達だと思っていたクラスの奴らが一人もいなくなっちまったんだ!あ!いやツカサー!お前だけは変わらないな!ありがとう!


「・・・ふぅ」


「あ・・・ああああの。よろしく。俺半太。田牧半太。あっ!あのでかいやつ親夫!あっちの賢そうな奴ツカサ!俺たち友達?だよなぁ?はは・・・」


近くで見ると本当に可愛い女の子だ。感情の大部分を占めているのは恐怖?な訳ないよなおかしいよ。

ラピスちゃんが俺を真っ直ぐ見た。みずみずしい瞳は異国的な魅力に溢れている。机に乗せられた指は細くて、爪の先は整えられてちっちゃい、丈のあっていない制服も可愛い!髪なんてサラサラ!薄い唇が開く。


「お前を殺す」


「へ?」


ラピスちゃんの右手か左手かもうどっちかわからねえ!兎に角どっちかの手が一瞬動いて、クラスメイトの悲鳴と物凄い音が足元で聞こえる。

親夫なんて目じゃ無いくらい、下駄箱とか、トラックみたいなもんに思いきり殴られる感覚だ。俺の体が無事だったのは単なる偶然で運が良かっただけで!今それは窓を飛び出してさっきまでいた教室よりも少し高い所にあった!


『みんな逃げろ!おい!逃げるぞ!ツカサ!』

『でも!半太くんが!』

『あいつなら大丈夫だ!早く!』



クラスメイトの悲鳴と、逃げ遅れた奴を5人ほど抱えた親夫の声だ。やっぱりあいつは頼りになるな。水が沸騰したみたいになっている連中を差し置いて、ただ一人、まるで花が風に揺れるみたいに自然に、窓際に影が咲く。


「くそー!」


着地と同時に俺は少し転がって、それからすぐに逃げた!するとさっきまでいた場所にラピスちゃんが降ってきて、大きな金槌のように変形した手で校庭を叩き割りもくもくと土煙をあげた。


親夫なんかと・・さっ殺意が違う!だってもうこっちに向かって飛んできてるもん!


逃げ場はどこにも無かった!背中に衝撃が走って景色がとてつもない勢いで加速する!


「いってぇ・・・上!どっちだ!」


瓦礫の中でもがいて地面を探す、痛いし口の中がじゃりじゃりじゃないか!くっそー!もうちゃん付でなんて呼ばないからな!

しかし、今のは悪手だったなラピスめ!飛ばされた分距離があいた!これなら逃げられる。理由は知らないけど俺が狙いなら出来るだけ遠くへ!


「ああ!それはやばいって!」


なにがやばいって?!見ればわかるだろ!金槌だった手が今度はでっかい包丁みたいになってるんだよ!


「刺すか」


え!?え?!刺すかじゃないんだよォオオー!そんな事思い付きで決めんなよォオオ!

ラピスの体がブワッと浮いて、土煙が遅れて巻き上がる!ダメだ間に合わない!


「くっそー!こうなったら!うああああ!!」


くらえ!!


AN!!AN!!AN!!!!!


「ッ!?」


ふっ!怯んだな!これは、親夫にいつか見せようと思っていたとっておき!俺も初め見たときは目を疑ったさ!しかも、見た目はどうあれこれは生命を創造する行為!今お前がやっている事はその真逆!生命を破壊する行為だ!自らの行いに疑問を持ち、内側から粉々に砕けるがいいラピスめ!


ラピスは顔を伏せたままフルフルと震えた。やったか!?あ、いやもしかして泣いちゃった・・・?


「・・・ハレンチ!」


ジャキンっ!!


「ひえええ!」


おっおれのコレクションがッ!


スマホは真っ二つに切れたけど俺は何とか無事だ!でも!か!母ちゃんに叱られるぅー!


『おーい!どいたどいたー!』


締めた!スーパーイーツ!の配達員さん!


「ごめんなさい!少しお借りします!」

「おっおい!」


この高出力スケボーさえあればっ!


「行くぞ!」


ギュイーン!!ッドォオオオオオオンッ!!!


「はっはええ!」


けど操作性は良好!おまけにGPSと管理ロムで近くの障害物や車の位置まで手を取るようにわかるぞ!


「あっ!これ出前でーす!!」


え~と次はっと・・・じゃなかった!このまま逃げ切るぞ!


そう思った矢先、背後から大きな騒ぎがこちらへ迫って来る気配があった。

地面を波のようにしてラピスがこちらに向かって来ているのだ!


「ぜったい・・・逃がさない」


あんな使い方もできるのか。でも!


「あぶねぇ!!」

「!!」


ラピスが突っ切ろうとしたのは、日本を縦断するメガ物流協会通称メガ物協ぶっきょうの弾丸レールだ!

まさか、止まると踏んでこの道を選んだってのに突っ込んでくるなんて!そういやこいつ外人だもんな。


「・・・くっ!半太!ここであったがひゃくねんめっ!このこの!」


「・・・」


やっぱり、一々可愛いんだよな、でもダメだ!止まれねぇ!


俺は、レールエントランス近くの建物にラピスと一緒に突っ込んだ。


「・・・あれ。無傷?なんで?」


「おっと、とんだ邪魔が入りやがったな動くんじゃねえぜガキども」

「あっあにきー!」

「慌てんな順平。おめぇはそんなだからいつも舐められんだ。いいか?俺はお前の力を信用している。けどそりゃあお前がきちんとお前自身の実力を発揮した時だ。失敗した時の事やお前をいつもバカにしてたやつらの事なんて考えるんじゃねぇ。目的を達成するためには何が必要なのかだけを考えるんだ。角砂糖を運ぶ蟻んこみてえにな。わかったか?」

「う、うんわかったよあにき。・・・こいつらどうしよう」

「そうだな」


「・・・邪魔しないで!」


よし!ナイスだラピス!今時銀行強盗なんてやってる悪人なんてやっちゃえやっちゃえ!さーて、俺は今のうちに・・・。


「ッ!」

「こいつ、まさかとは思ったがブロックハンドか」


俺は目を疑った。ラピスの渾身の一撃。あの一撃をまともに食らえば絶対に吹っ飛ばされるはずなんだ!でもそれが受け止められてる!金属だ!ピカピカの鉄?の腕がラピスの石で出来たハンマーを止めたんだ!


「あにき!」


「心配すんな、こいつとは相性がいいぜ。順平おめぇはそっちを黙らせろ」


「ああ、わかったよあにき・・・!」


「まって!待ってくれよ俺は何でもないんだって!・・・ッ!」


でもダメだ!この人たち覚悟してきてる人たちだ!俺の周りに白い煙が立ち込める。どうやらこの順平さんって人の手から出てるみたいだ。しかも息がめっちゃ苦しい!死ぬっ!朦朧とする意識の中で最後に見たのはラピスのハンマーが粉々に砕かれる光景だった。




『でもいいのかよあにき。またこいつらに邪魔されるかもしれないぜ』

『ああ。誰にでもチャンスは必要だろ?順平』

『ッ!・・・そうだねあにき』




・・・ここはどこだ?


ふに・・・ふに・・・ああ、母さんみたいに柔らかいぞ!


ってことは!


「ッ!うわぁっごごごごごめん!ラピス!その、平気か?」


「うぅん・・・ここどこ?」


「たぶん銀行の金庫だ」


「きんこ?」


「ああそうさ、昔はお金が紙で出来ててそれをしまっておく為の倉庫だよきっと」


「半太ものしりだな。出る方法も知ってるか?」


授業で習ったのさ!でも出る方法は当然知らない!


「扉があるけど・・・」


言い終える前に、ラピスが立ち上がったかと思えば例の力で分厚い扉を殴打した!密閉された空間でそんなことしたらどうなるかわかるよな?


「くぅ!」


「ぴりぴりする。これかたい。もういっかい」


「すとっぷすとおおっぷ!」


俺はラピスと扉の間に割って入って、何とか二回目は阻止した。それから分厚い扉に触れてみる。電気で制御されてるみたいだけど。


「ダメだ。電源が完全に切れてるよ」


「でんきいるのか?」


「ああ」


「お前のデバイス、だせ」


デ・・・デバイス!?デバイスって何だ!まさかこんなところで!?いやっ!いやよ!このけだもの!


「・・・あの。はれんちな・・・ディスプレイだ。二度もいわせるな」


・・・かあああ。


「あ、はい。でもそれ壊れてるぜ?」


ラピスは、元々取り込んでいた小石をポイと外してスマホから何かを抽出した。あんな小さな石で暴れまわってたのか。


ラピスは新たに装着した石を作り直して高速で回転させた。すると。


「ラピス!電気が来たよ!すげぇ!なにしたのねぇラピス!?」


「でんじゆうどう。じゅぎょうきいてなかったか半太。このしれものめ」


し!しれもの!?なんて口の悪い奴だ!っくそー!でもこれなら!







「あにき、俺たちこんなことして大丈夫なのかな?すぐに捕まっちゃうんじゃないかな?」

「安心しろ順平。これからこの銀行のデーターベースにアクセスして過去半年間の取引履歴をランダムに改変する。数千億を優に超える取引履歴だ。そう簡単にバレやしねぇ」

「でも、クレジットの取引は別の銀行や潰れかけのタバコ屋にだって残ってるんだろ?やっぱりすぐに俺たちにたどり着くんじゃ」

「ああ、確かにそうだな。だが、その莫大な情報を取り扱うのは容易じゃねぇそれに、本命は別にある」

「本命?」

「そうさ、書き換えたデータの裏でこの先24時間、少額のクレジット取引をランダムで発生させる。何百、何千。数億。実際にこの銀行の顧客から行われるものだログも記録される。気が付かない間抜けもいるだろう。その取引先の枝分かれしたいくつかが俺たちのポケットに繋がってるってわけさ。バラバラになった破片を集めて俺たちにたどり着く頃には、そんな金もうどこに行っちまったかなんて俺にも見当つかねえな」

「すげえやあにき!でも、もしかしたら俺たち死刑になるんじゃないかな?」

「おいおい。順平、聞けよ?ん?お前はそこら中にいる世間知らずの馬鹿どもとは違うだろ?ん?そうだろ?出来る出来ないの話じゃねぇんだ。やるか、やらないか、偶然動いてられる身体よりももっと重要なのはそれだけだ」

「ッ!わかったよあにき俺やるよ・・・・ぐっ!あっ!あにきこいつら!」

「順平‼‼」


「・・・安心しろ。お前ラピスのターゲット違う。急所は外しておいてやる」


うわぁ!ラピスが順平さんを倒した!

物凄い煙で前も見えなかったけど、掃除用ロボットの検知機能と、施設全体と繋がってる空調装置の一つを使って俺たちは正確に二人に忍び寄れたってわけ!ってか順平さん大丈夫だよね?


「人の心配してる場合か坊や?」


「うわあ!ラピスっ!」


もう一人の強盗が物凄い速さで俺の方へ突っ込んできた!俺は思わずラピスを頼ってしまう。しかしこれは狙い通り!


「・・・」

「変わった形の武器だな?お嬢ちゃん、だ」

「・・・ッ!」


ラピスの攻撃を何度か受けて、あにきさんは反撃した!ラピスはギリギリの所で躱してひらりと後ろへ飛んだ。可愛いけど不機嫌そうな顔がもっと不機嫌そうになる。

その様子を見てあにきさんはギラギラと光る刃を一度振った。


「不服そうだな。俺のブロックハンドは金属操作。今の素材はステンレス鋼にコバルトを含有させたシャガール鋼。磁性はねぇよお嬢ちゃん」


「おみとおしというわけか、このあくとうめ」


「そうさ、楽しませてくれよ!」


「ッ!!」


ガアアンッ!ガアアンッ!ガキンッ!!


だめだ!あにきさんめちゃくちゃ強い!ラピスも強いけど・・・!


「ッ!」


「武器は何度もはやせるけどよ!」


ガキイイィンッ!


「また、折れた」


「いつまでもつかな!」


「ッ!・・・お前、施設の誰よりも・・・強いな」


「ラピス!!クソ!みんななにしてるんだ!警察は!?」


「あいつらは今頃税金で買ったドーナツでも食ってんだろうよッ!」


ガキィイイン!


「また、折れた」


「もらったぜ!」


「でも」


「なに!?」


「全部けいさん通り、おまえのいちも能力も、ラピスと半太の能力もこれからおこることにはぐうぜんなんて、一つもない」


「こいつら!まさか!」


・・はぁ・・はぁ!


「ごめんなさーーいっ!」


バンッと音がして、あにきさんがガクリと膝をついた。

あの位置には、建物全体の電気が流れる罠が仕掛けてあったんだ!


少し遅れて、ラピスも膝をついたので俺は慌てて向かった。


「ラピス!大丈夫か!?」


「半太、まだ終わってない」


「え」


気が付けば、すぐ後ろにあにきさんが立っていた。仕返しが怖くて反射的に体が強張る!でも。


あにきさんは、そのまま振り返り順平さんの方へ向かって順平さんに手当てした。やっぱりあんまり悪い人に見えない。


「こいつの右目、こいつの親が殴って失明させたんだ」


どきりとする。親が?どうして?失明?


「お前ら、俺たちと来いよ。この力を正しく使ってよ。正しい世界を作ろうぜ」


正しい世界?俺は少し考えた。でも。


「悪い事をして作った世界なんて正しくない・・・!」


「・・・ふ。そうか」


ようやく、警察が駆け付ける。

これでおしまいだ。と、安心した瞬間、俺たちはまたもやとてつもない量の煙に包まれた!


「くっ!待て!」


『あばよ!半太!ラピス!また会おうぜ』


二人はすごい勢いで浮かび上がってあっという間に姿を消した。

くっくそー!名前覚えられてちょっと嬉しいと思っちゃったじゃないか!


あ!ラピス!ラピス!どこだ!無事か!


『ラピス!』


・・・ふに。ふに。


『うっうわあわあ!!ごごごごめん!』


わざとじゃないんだって本当だよ!

煙の裂け目にラピスが居た。何故か少しうれしそうだ。


「半太。へんなこえ。あいつらヘリウムの気球でにげたな。あなどれなし」


『へりうむ?』


「半太またラピスを心配したな?施設じゃ、このちからすべて、心配されたこと・・・ない一度も」


『ラピス・・・』


こいつも大変だったんだなたぶん。


「ラピス失敗した。施設に命狙われる。半太お前も。だからわたしと逃げろ」


「え」


「ラピス硬いの好き、半太硬いの好きか?柔らかいの好きかだいじょうぶわたしどっちももってる」


『うわあ!よっよせ!』


「・・・怖がるな半太。ラピスもう殺さない。いっしょににげろ、それwinwinラピスとwinwinしろ」


え!?一緒に逃げる?winwin?ラピスは可愛いけど!そっそんな事急に言われたって!


「・・・!?」

「うっうえ・・・」


急に言われたってッ!


「うえぇえ!」

「ッ?!」


だって俺!母ちゃんが好きなんだもん!


「うえええっん!」

「!!!はっはんた!な泣くなラピスわるかった。泣くなよしよしあやまる」

「・・・うん」



バタバタバタバタ・・・・!


あ!あれは攻撃用ヘリコプター!


ドガガガがッ!


撃ってきた?!


「うあああっ!」


でもラピスが盾を作ってくれたから助かった!


「あ、ありがとうラピス・・・ぁっ」




銃声が止んで、俺の声は元に戻っていた。ラピスが言う。




「・・・さ、半太。母様にもう一度会いたかったらわたしとにげろ」


「ッ!?」


いやん!俺の心の声ッ!聞こえてるぅッ!

                            おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブロック❒ハンド うなぎの @unaginoryuusei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る