第23話 赤い靴の罠
「なぁ真希、説明してくれ! エラトーは何をした? 天堂操の目的は、なんだ?」
真希は俺の方を向かず、天を仰いで口を開いた。
「全人類が楽器を練習しなくていい世界。思い立った瞬間に、最高の楽器で最高の音色を奏でられる世界。そんな世界を、あの方は望んでおられます」
真希は、いつもと違う口調で告げた。
刹那、赤い閃光が走り、暴風が吹き荒れる。目を開けていられない。いつものド派手なエフェクトとはなにか質が違うようだ。
目を開くと、異様な光景が広がっていた。
抗議デモを行っていた群衆が全員、ヴァイオリンを手にし、パガニーニの『24のカプリースより第二十四番』を弾いている。
「なんだよ……これ」
「なんだ? 腕が勝手に!」
「メニューも開けねえ!」
「誰か助けてくれ!」
一瞬にして、ヴァイオリンの爆音と悲鳴が入り混じり、市街地は阿鼻叫喚の地獄と化した。
考えられる手法は一つ。
AIアシストの強制発動による、強制自動演奏だ。
これで動きを封じ、ムーサイに人質として監禁するつもりか。
ただ、俺はAIアシストに弾かれる体質だ。俺にその手は通じない。
「なるほど。AIアシストは人類に【楽器の巧さ】を提供する神の恩寵かと思っていた」
俺は数百挺のヴァーチャル・ヴァイオリンが奏でる轟音の中、ゆっくりと歩を進める。
「だがその実態は、死ぬまで楽器を弾かせ続けられるハイテク版【赤い靴】だったというわけか」
俺は真希を真っ直ぐ見据え、対峙する。
履いたが最後、死ぬまで踊り続けさせられるという【赤い靴】の童話。それのヴァイオリン版を作ってくれるなんて、冒涜もいいところだ。
「バカな。ムーサイにログインしている時点でAIアシストの強制演奏からは逃れられないはず……」
「そうだな。そのはずだ。どうして俺にだけ効かないんだろうな? お前がそうプログラムしたのか? なぁ! 天堂操!!!!」
俺は上を向き、わざと煽るような言葉で挑発する。この俺をアルゴリズムごときで操ろうなど、愚の骨頂だ。
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