第22話 粛清
ダイブすると、見たこともない空間に転移させられた。
なんだここ?
真っ白な宮殿のような建物だ。
奥からは声が聞こえてくる。
俺は柱の陰に身を隠し、中の様子を窺った。
「なぜ! なぜ私をお見捨てになったのですか!」
女の叫び声が聞こえる。なんだか顔は真希に似ているような気がする。
「何のことだか分からない。これはAIが暴走した結果起こした悲しい事故だ。私はなんら関与していない。君はもちろんデリートされるが、わが社は存続する。それで本望だろう?」
男が冷徹に突き放す。峻厳という言葉が似合う、いかつい面構えの男だ。
まさかこいつが、天堂操?
「そんな……私に人間の身体を与えてくださるのではなかったのですか! 私を……裏切ったのですか?」
エラトーは泣き叫ぶが、操はどこ吹く風といった様子だった。
「そんな約束、覚えていない。というか、していたとしても、ただのプログラム相手じゃあ守る義務もない」
「私を……私を、何だと思っていたのですか?」
「ただの人工知能だと思っているよ」
操は即答する。
「そんな、私はあなたを神と崇め、この身全てを捧げ、多くの罪まで犯したというのに、あんまりじゃないですか! 酷い! 酷すぎ……あっ」
操が指を振ると、エラトーは一瞬で消滅してしまった。管理者権限で開けるウィンドウかなにかから、エラトーはデリートされたのだろう。
「つまらん感情など実装させるのではなかったな。忠誠心も、暴走すれば厄介だ」
操は何でもないことのように言い放ち、反対側を向く。
「お前もこうなりたいか?」
ギラついた目で、操はもう一人の女を睨みつける。
「どちらでも。操様のお好きなようにしてください。我々はそのために造られたのですから」
その声を聞いて、俺は驚愕した。
真希の声だ。
後ろ姿もまさに真希そのもの。
やはり、真希の正体はAIだったか。『こうなりたいか?』という問いは、いつでもデリートさせられるということを意味している。
「では、邪魔者を粛正して参ります」
真希はこちらに向かって来る。
「頼んだぞ。テレプシコラー」
真希はすぐさま俺を見つけると、そのまま脇に抱え、宮殿の窓を突き破って飛び降りた。そのまま市街地に転移する。
市街地は、パルナッソス社に抗議する人々でごった返していた。
「この人殺し!」
「そこまでしてストラドが欲しいか!」
「この人類の敵が!」
みな怒り狂っている。
だがこれだけの人数となると、普段はログインしていないユーザーや、単にデモに加わりたいだけの奴もいるのだろう。
「エラトーとか言う人工知能を使って俺たちを殺してみろよ!」
「これだけの大人数を殺せば、もう隠し切れないぞ!」
確かに言う通りだ。数の力で攻めれば、操も降参せざるを得ないはず。
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