第21話 開示される秘密

「なぜこのタイミングで……?」


 いろいろと事態が動き過ぎだ。俺が情報提供を呼び掛けた瞬間に、俺しか知らないはずの曲が流れ、ムーサイにサイバー攻撃が仕掛けられた。


 全て連鎖しているかのようだ。


 何か情報提供はないかと、@tubeのコメント欄を見ようとする。だが、アプリを開いた瞬間、気になる動画が目に入った。


『我々はパルナッソス社の暴挙に断固として抗議する』


 奇妙なヴェネツィア風の仮面を被った男の姿が、サムネイルとして上がっている。


「何だこの動画?」


 再生してみると、加工された音声で、仮面の男が話していた。


『パルナッソス社は、アントニオ・ストラディバリとそれに続く数多のヴァイオリン職人を冒涜した。これは芸術と人類の創造性に対する挑戦であり、我らは断固として非難する』


 なんだ。よくある抗議動画か。


 AIアシストを【演奏芸術の堕落】とか言うやつはごまんといる。そんな動画はよく見かけた。最近は見ないが。


『カルロ・ヴェルクマイスター氏の殺害関与、及び同氏所有のストラディバリウスの買取は、明確な違法行為である』


 なんだと?


 今何と言った?


 パルナッソス社が先生の殺害に関与しているのか?


 だとして、なぜそんなことをこいつが知っている。


『我々【AVOID】は、人類の叡智に対するあらゆる冒涜を許さない。パルナッソス社の自律思考型AI、【エラトー】の即刻処分及び天堂操CEOの解任を要求する。24時間以内に履行されない場合、さらなる攻撃が続くことを覚悟されたい』


 動画はそこで終わっていた。


 概要欄のリンクを押すと、数多の機密資料が出てきた。


 読み進めていくと、ヴェルクマイスター先生の他殺は確定していること。さらに、実行犯の証言を基に捜査した結果、パルナッソス社のAI、【エラトー】の関与が疑われることなどが書いてあった。


 真偽のほどは分からない。【AVOID】とかいう連中を手放しで信じるわけにもいかない。


 こうなったら、直接エラトーとかいう奴に会って確かめるしかない。


 もう一度、ムーサイにダイブしよう。


 そう決意した時、チャットアプリにメッセージが届いた。真希からだ。


『ムーサイに来てくれない? もうサーバーは回復したから』


 真希にも訊かなければならないことは多い。


 俺はすぐに、ヘッドギアを装着した。

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