第16話 DQN

 それからも俺と真希の快進撃は続いた。動画再生数は軒並み百万回を超え、数多のコメントも寄せられた。


【誰も奴らを止められねぇ!】とか【AIアシストなしでこれかよ】という称賛の声が多い。ちなみにアンチコメントは見た瞬間削除している。


 俺は自分用のヘッドギアを買い、自宅からもムーサイにダイブできるようにした。これも広告収益が入ったおかげだ。


 ある日の収録後、ムーサイの市街地エリアに出向くと、DQを称える看板や動画広告が乱立していた。


「ここまでとはな」


 俺は純粋に驚嘆してしまった。ヴァイオリンが上手いというだけで、今どきここまでバズるとは思わなかったからだ。


「って、お前何やってるんだ?」


「うげっ」


 見ると、奏がスプレーを手に、DQと書いてある看板にNという文字を書き足していた。


 これじゃあ【DQN】だ。


 奏は逃げ出そうとするが、突如として空飛ぶ魚群が出現し、奏の周りを取り囲んだ。これも何かのエフェクトなのか?


 まぁなんにせよ、一瞬でも奏を怯ませられたのはデカい。俺はそのまま奏の肩を掴む。


「どういうことか説明してもらおうか」


「……ひゃ、ひゃい」


 広場へと連れ出し、ベンチに座らせると、奏はシュンとしてしまった。


「正直言うと、二人が羨ましかったの。なんか息ぴったりだし、めっちゃバズってるし。気に入らなかったの!」


 奏は昔から優秀だったが、精神的には幼い部分もある。だが、ここまで露骨に嫌がらせをしてきたのは初めてだな。


「あれだよね? 奏さんは、新のこと、大好きなんだよね?」


 真希はドストレートな質問を投げかけた。下手に刺激しなければいいのだが。まぁムーサイで暴力行為は絶対にできない仕様になっているし、問題ないか。


「す、好きじゃないし。彼氏にするとかもありえない。ただ、私を差し置いて他の女と仲良くしてるのは気に入らないってだけ!」


 おいおいマジかよ。要するに飼い殺し状態ってことじゃないか。俺は奏の犬になった覚えはない。


 何より、大学生にもなってそんな稚拙なことを言っているのがヤバい。むしろDQNはお前だろ、と言いたい。


「まぁいいよ。お前とは今後も仲良くしていきたいし、今回のことは見逃してやる。だが忘れないことだな。俺はヴァイオリンこそが神をも超える至高の存在だと信じている。ヴァイオリンを冒涜するような中傷行為をしたら、今度こそ許さないからな」


「申し訳ありませんでした」


 奏は土下座した。


「あれ? 今の発言からして、新って相当なヴァイオリン狂いなの?」


 真希がそんなことを訊いてくる。土下座は無視かよ。


「狂ってなどいない。失礼だな」


 ヴァイオリンが神より偉大な存在であることなど常識だ。俺は何もおかしなことは言っていない。

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