第15話 DQの由来

 真希とのコラボ動画は予想通りバズり、SNSのクラッシック界隈では、俺は一躍有名人になってしまった。


 その後も不意に現れるDQこと真希とデュエットを繰り返し、俺の方にもそれなりの収益が入ってくるようになった。


 そして、ある日のこと。


「なぁ真希」


「なに?」


「なんでDemonic Queenなんて名乗っている? パガニーニに憧れているとはいえ、【ヴァイオリンの悪魔】の称号を騙るなんて不遜だとは思わないのか?」


「アハハ、新って変なこだわり強いよね」


「変ではないだろ」


 俺は少しイラっと来た。伝説と称される稀代の演奏家にして作曲家、ニコロ・パガニーニを僅かでもナメているのなら、俺は許さないつもりだ。


「パガニーニ関係ないよ。真希って打とうとしたら、魔妃って誤変換されちゃって。悪魔の妃っていうのもなんかいいなって思っただけ」


「それだけ?」


「それだけ」


 なんだ。そんなことで名前を決めていたのか。


 俺は愛器に【ブラック・カセドラル】という名前を付ける際、一週間は悩んだというのに。そんな偶然がもとでカッコいい名前を思いつく奴もいるんだな。


 っていうか、そんな誤変換普通は起きないだろ。普段からどんな中二ワードを打ち込んでいたんだ? 案外真希も、俺に負けないくらいの中二魂の持ち主なのかもしれない。


「ちなみに、どこの音大行ってるんだ? そんだけ顔と名前晒してたら、同級生からも相当注目されるだろう?」


「全然そんなことないよ」


「嘘つけ。だったらどうやって注目されないようにしてるんだ?」


「それはね、秘密」


 真希はフフッと笑い、今度は突如発生した巨大な地割れの中に飛び込み、ログアウトしていった。


 相変わらず派手なエフェクトが好きだな。


 俺は真希の秘密については忘れ、すぐに基礎練の音階練習に戻った。

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