第13話 至高のデュエット

 俺が無視しているのも気にせず、DQはどんどん自分のパートを弾き進めていく。確かな技術力に支えられた安定した演奏だ。


 相手のペースに乗せられるのはなんだか癪だが、曲も盛り上がってきたし、合わせてやるか。


 そう思い、俺も弾き始める。

 細かい音も完璧にユニゾンさせるのは難しい。だが、初合わせだというのに面白いように合う。テンポ、音程はもちろんのこと、ボウイングやアーティキュレーションまでほぼ完全に揃っている。


 俺はそこまで合わせようとしていない。真希の方が卓越した洞察力と先読みで、合わせてくれているとしか考えられない。こいつ、かなりの凄腕だな。


 俺がミスらないのは当然だが、この曲をミスらない同年代の人間もなかなかいない。いたとしても、俺のように国内の音大で燻っている奴はそうそういないだろう。


 だから、出会うことはないはずだった。


 こんなにもレベルの高いデュエットができる相手に。


 楽しい。


 まるで、ヴェルクマイスター先生とバッハの二重協奏曲を合わせたとき以来の愉悦を感じる。


 だが、あっという間に夢のような時間は過ぎ去り、もう終盤に差し掛かってしまった。俺は最後の重音の音程を確実に決め、出来るだけ長く伸ばした。弓を使い切るほどに。


「はぁ、疲れた」


 俺は思わずため息をついた。


 さすがにブラームスとサラサーテの連チャンはキツイ。だが、なんともいえない爽快感を感じた。奏もかなりの実力者だが、奏とのデュエットではこうはいかないだろう。


「やっぱり。あなたとなら合わせられる気がしたの。新さん」


「さん付けはいいですよ」


「そう。じゃあ今の演奏、@tubeにアップしてもいい? かなりよくできたと思うから」


「まぁいいが。ちゃんと俺の名前も出してくれよ?」


 俺は人気取りに興味はないが、再生回数稼ぎのために、一方的に利用されるのは嫌だ。


「もちろん。私だけの手柄にはしない」


 真希は慣れた手つきでウィンドウを操作し、動画をアップロードした。ムーサイは各SNSと即座に連携できるのも人気の理由らしい。

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