第12話 DQとの出会い

「ま、いいんじゃない。AIじゃアシストすることさえできない才能の持ち主って、なんだか孤高のヴァイオリニストってかんじでカッコいいじゃん?」


「孤高というか、孤立無援の間違いじゃないか? なんで俺だけ助けてもらえないんだよ!」


「まぁまぁ、新はそのままでも十分上手いんだし、気にすることないって」


 奏はポンと俺の背中を叩いた。なんか、慰められてないか? 心外だな。


「俺はAIアシストなんて興味ないし、別に拒否されていたとしても、気にしたりしない!」


「いや、なんでツンデレ女子みたいなこと言い出してんの? さっきは孤立無援がどうとかいって騒いでたじゃん」


「あれは狼狽していただけだ。俺は気にしてない」


 俺はそうとだけ言い放ち、黙々と音階練習を始めた。


「あー、【基礎練の鬼モード】になっちゃったかー。まぁいいですよ。私は別エリアで弾いてるから。機嫌直したらおいで」


 奏は蒼い閃光に包まれ、別エリアへと転移していった。


 俺は気持ちを落ち着けるため、G-Durの音階を一音につき弓を目いっぱい使って練習し始めた。困ったら基礎に立ち返る。重要なことだ。おかげで高校時代は奏を始めとした同期から、【基礎練の鬼】などと言われるようになってしまったが。


「美しい音色ですね」


 不意に声がする。


 振り返ると、見知った平均的な顔があった。こいつは確か……


「あなたは……あのDQですか?」


「そう。そう呼ぶ人もいるけど、私の名前は代田真希。普通に顔も名前も公開してるんだけどね」


 まさか、こんな気軽にエンカウントできる存在だとは思ってもみなかった。偶然にしては出来すぎだ。


「そうなんですね、俺は星川新です。よろしくお願いします」


 俺が握手を求めると、真希はそれに応えず、フッと笑って両手を構えた。


 すると、急に辺りが暗くなった。いつの間にか夜になっている。空には色とりどりの星々が浮かんでいた。星々は急に落下を始め、流れ星と化して真希の手元に降り注いだ。真希の左手は眩いばかりの閃光に包まれ、次の瞬間には銀色のヴァイオリンが形成されていた。


 相変わらずド派手なエフェクトだ。


 さらに、右手で虚空を掴むような動作をすると、徐々に棒状の物体の輪郭が浮かび上がり、弓になった。


「さぁ、始めましょうか。あなたなら、ついて来れますよね?」


 真希は突然、明るいトーンの重音を弾いた。続く旋律を聴いて、俺は確信した。


 これはサラサーテ作曲の二重奏曲、『ナヴァラ』だ。

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