第10話 炭のようなヴァイオリン
「なんだか安物っぽい見た目だな。俺はオールドヴァイオリンしか使わない主義なんだが」
オールドヴァイオリンの方が醸成されて味のある音になっていることが多い。まぁもちろん、熟成どころか腐っているゲテモノもあるのだが。
「いや、標準装備のヴァイオリンは全部最高クラスの音質だよ。見た目はいくらでもカスタマイズできるから、オールドっぽくしてみれば?」
「やってみる」
だが結果として、俺のこだわりを詰め過ぎたせいか、今にも朽ち果てそうな真っ黒なヴァイオリンと化してしまった。
「アハハ! 経年劣化度パラメータを上げすぎたんじゃない? それと黒すぎ! 炭みたい!」
「くっ……やはり慣れないことはするもんじゃないな」
とはいえ、奏のようなヴァイオリンにはしたくないな。
奏のムーサイ上でのヴァイオリンは、青地に銀のラインが走る、なんとも近未来的な色合いの楽器だ。俺はそんな奇を衒ったカスタマイズはしたくない。
「あぁもういい! 俺が今持ってるヴァイオリンと同じデザインにしてくれ!」
「じゃあ写真をいくつかアップロードすればできるよ」
俺はムーサイ上で自分のクラウドストレージにアクセスし、俺の愛器【ブラック・カセドラル】の写真を数十枚アップした。俺の愛するヴァイオリンなのだから、当然様々な角度からの写真は撮っている。それが功を奏したな。
ちなみに【ブラック・カセドラル】というのは俺が勝手につけた名前だ。元々、この楽器に特に二つ名はない。
中二病乙と奏から言われたこともあったが、別に関係ない。俺がカッコいいと思った気持ちをそのまま表現したらこうなったのだ。
「さて、ようやく俺の納得するデザインになったし、ブラームスのドッペル弾くか。というか、音域オプション買えるって言ってたが、ヴァイオリンのサイズのまま音域だけ広がっても弾きづらいだろ?」
奏は音域オプションでチェロパートを担当すると言っていたが、構造上無理があるとしか思えない。
「それはねー、こうするの!」
奏がウィンドウを操作すると、なんと四本しか弦がないはずのヴァイオリンに、三本弦が追加された。
七弦ヴァイオリンというわけか。
確かにこれならチェロの音域をカバーできなくもない。
仮に四弦のまま音域をだけ拡張されても、音と音との間隔が狭まって相当弾きづらくなるだけだろうからな。
「じゃ、全部弾くと長いし、第三楽章だけやろうか! 暗譜はしてるよね?」
「当然だ」
そうして、俺たちは久しぶりのデュエットを開始した。
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