第4話 巨星、堕ちる

 だが考えてみれば、エレキヴァイオリン奏者と変わらないか。アンプを使って音量を増大させ、エフェクターを使って音色を変えて演奏するエレキヴァイオリニストも、やっていることは同じだ。別段邪道と非難するようなことではないのかもしれない。


「だがこんな方法でモーツァルトやチャイコフスキーが弾きこなせるとは思わない」


 パガニーニやサラサーテ、バッジーニにイザイなどの、曲芸じみた超絶技巧曲なら何とかごまかせるかもしれない。だが、より繊細なテンポ・音量・アーティキュレーションのコントロールが求められるモーツァルトのヴァイオリン曲など弾こうものなら、たちまち崩壊しそうだ。


「私もそう思う。だから、今の【ムーサイ】は玉石混淆ってかんじなんだよね。石が9割。殆どの人は憧れの楽器が弾けて浮かれてる初心者ばっかだから、DQみたいにどんな作曲家の曲でもちゃんと弾ける人少ないんだよね」


「だからこそDQがこんなに注目されているわけか」


 再生リストを見てみると、ヘンデルのヴァイオリンソナタ、バッハのシャコンヌ、アザラシヴィリのノクターンなども披露しているようだ。タイトルには、【一人オーケストラ】とか【ハイフェッツ風に弾いてみた】など、挑発的かつ目を惹くような文言が並んでいる。


「なんだか興味が湧いてきたな。俺も【ムーサイ】にダイブしてみたくなった」


 流行には鈍感なので、今までそういう発想には至らなかった。


「そ。じゃあ私の家に18時集合ね。うちには機材も揃ってるから」


 随分と準備がいいな。なんだか怪しい。


「機材が揃ってるってことは、まさかお前も【ムーサイ】で活動してるのか?」


「活動はしてないよ。ただ試しに音色オプションとか付けて弾いて気持ち良くなってるだけ」


 なんだか薬物中毒者みたいな言い草だな。


「そうか。ありがとう。ではお邪魔させてもらうよ」


「うん、じゃあ後で」


 奏と別れ、再び練習に戻る。スマホのメトロノームアプリを立ち上げようとすると、ニュースアプリの通知が来ていた。


「なんだ? 何かあったのか?」


 開いてみると、衝撃的な文言があった。


『ヴァイオリンの巨匠、自殺か。カルロ・ヴェルクマイスター氏の遺体が見つかる』

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