第十三話 魔族との初陣 合流


「さ、あっち側行こっか。」

 オッドくんの提案に従って、歩き出した時、


「ルレアー?これどうしたらいいと思うー?」


「ごめーん!わかんない!!」


 という会話が聞こえる。


「困ってるみたいですよ!急ぎましょう!」


「にしては余裕そうだがな。」


 たしかに。とりあえず行ってみよう。




 僕達が慎重に顔を出して見てみると白い羽毛に深く埋もれた龍が白い蛇に噛み付いて空中を飛び回っている光景がまず目につく。

 サラスさんとルレアさんの姿を探してみると、サラスさんとリファイさんがゴミまみれのべとべとしてそうな生物相手に何発も魔法を撃っていた。しかし、そのどれもが手応えがないように見える。

 余裕そうに困っているとはあのことだろうか。


「リファイ、少しどいてくれ。」


「なんだ。シニスターくんじゃないか。どうしたんだい?何か策があるのか?」


「あぁ。サラスには手伝ってもらう。」


「私?いいわよ。なんでも言って。」


 リファイと交代するように前に出たシニスターがサラスと小声で話し合っている。


「うん。わかったわ。タイミングはそっちに任せるわ。」


 そういうとシニスターは目を瞑る。


「魔力充満:岩石集合。」

 

 ダッドスライムの周りに徐々に小石が浮き始め、だんだんと数が多くなる。そのまま小石同士が融合し、一つの大きな球体がダッドスライムを囲む。

 そして、完全に囲み切る寸前に、


膨大な水エノーモスウォーター!」


 サラスが唱えた瞬間に球体が完成し、中にサラスの水が充満した状態でダッドスライムが密室に閉じ込められる。


「なるほど。これで死ぬかはわからないが当分はこれで大丈夫だろう。本当にできるのか疑っていたがどうやら大丈夫だったようだね。シニスターくん、少し見直したよ。」


「リファイ、君こそ協力してくれて感謝する。君がわがままではなくて助かった。」


 これであの生物は倒した、ということでいいのだろうか。

 

 

「あの、今ってどういう状況なんですか?」


「まぁ、普通わからないよな……。どっから説明すればいいのか……。」


 と、ラヴァがその龍の方向を見た瞬間、地面の中から大地を抉って黒い蛇がとてつもない速度で天に向かって跳躍しそのまま白い蛇に噛み付いている白い龍に噛み付いた。

 龍は噛まれた箇所から大量に血を出し、白い蛇から離れてそのまま羽ばたくことができずに落ちてしまった。

 

「サザナミ!!」


 ラヴァが叫びながら咄嗟に走り出すがその距離から推測すると間に合わないだろう。

 

 僕の予想通り、サザナミと呼ばれた白い龍が地面に落ちてからサザナミを慰めるように抱きつく。

 

 一方、二匹の蛇は噛み付いた後、そのまま地面に着地し、黒い蛇が何か光を出してサザナミに噛まれた傷を癒していた。

 

「二匹に増えたな。」

「そうだな。」

「倒せる?」

「やるしかないでしょ……。」

「ちょっ、相手は準古代種よ?」


 え?準古代種?ルレアは確かに準古代種と言った。準古代種といえば古くからその姿を保ち新たに姿を変えることなく代々命を紡いできた魔族だ。古代種よりは弱いがそれでも普通の魔族よりもかなり強い。

 それが今目の前にいる二匹の蛇なのか。

 

「ルレアさん。あれって準古代種なんですか?」


「あら、カルムくんわかんなかった?あれは白の災禍・巨大な毒蛇ジャイアントバイパーよ。」

「カルム、そんなビビるな。古代種ならともかくあれはただの子孫だ。強くない。」


「そんなものなんですかね……?」


「おい!ラヴァ!いい加減戻ってこい。」


 ルーファスがイライラしながらラヴァに指示する。その指示を受けたラヴァはしょんぼりしながら僕たちの方に戻ってきた。


「はい、戻ってきたぞ。どうやって倒すんだ?作戦はあるのか?」


 確かに。みんなの強さは知ってるけどこれは流石に厳しいと思う。


「作戦か?もちろんない。俺たちが各々本気を出せば倒せるだろ。」


 ルーファスは当たり前のように答える。作戦なしにどうやって勝つんだ。


「やっぱり?」

「あんたならそう言うんじゃなねぇかなって思ってたよ。」

「実際、なんとかなるだろうし。」


 え?みんなそれでいいのか?自信がないのは僕だけ?どうしよう。僕は何をしてればいいんだろう。僕の攻撃は多分通らないだろう。魔法陣で蛇の攻撃を引き受けるタンカーをやっても受けきれないと思う。さっきみたいにヘイトを買ってればいいのだろうか。『それしかできない』なんて思われるのは嫌だ。できればそれ以外にも活躍したい。それ以外にできないから困ってるのだけれど。


「お、カルム。緊張してるなー。何をそんなに緊張してる。」


 ルーファスが僕の顔色を伺ったのか茶化してくる。


「カルムくん緊張してるのー?まぁ準古代種だししょうがないわよ。」

「どうして緊張してるんだ?僕は緊張してないよ。」


「オッドくんも緊張してないの?なんか、僕が弱いのが原因なんだけど、どうしてもできることが少なくてさ。」


「ふん、なんだそんなことか。あのな、人には得意不得意があるんだ。俺だってあの蛇相手に何もできない。ただ、お前と違って何もビビってない。それはなんでかわかるか?」


「え?強いから……?」


「何もできないっていったろ。答えは自信があるからだ。それはなんだって良い。お前が何に自信を持つかは俺の知ったことではないから何も触れないが、俺の場合は対人戦だ。俺は正直、人間相手に負けたことはないし、今後も負けないと思ってる。その自信があるから今、何もできなくてもビビっちゃいない。わかったか?」


「まぁ、はい……。なんとなく。」


 自信か。言わなかったがそれは僕の答えた『強いから』というのは間違いではないと思う。僕は強くないから自信がない。ルーファスは強いから自信がある。これで納得できてしまう。

 後々、わかるようになるのだろうか。

 とりあえずルーファスの言いたいことはわかった。何もできなくても他で活躍できたらその場は大丈夫、と言うことだろう。そう思っておく。納得は特にしてないが少し肩の荷が降りたような気がする。


「さて、じゃあそろそろ戦いますか。作戦はどんなのでしたっけ。」


「だから作戦はないって。」


「ある程度決めません!?」


「いや、いらないな。」

「いらないわね。」


「なんで……。」



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