第十一話 魔族との初陣 カルムサイド
大きな音が運転席の方向から聞こえてくる。その直後、ウィリアムが今まで聞いたことのない大きな声で
「魔族だ!!戦うぞ!」
と叫んだ。
僕は流石に僕とウィリアムの二人で戦うのは無茶だと思い、みんなを起こそうと運転席の方から目を背け、みんなの方を見ると既に起きていて武器を持ったり体の骨をならしていたりと準備をしていた。
僕はそれを見て焦りながら剣を持つ。
真っ先に銃を抱きながら寝ていたルーファスがまず荷台から降り、僕はそれに続く。
「数は八!!大型が三!!」
ウィリアムが数を報告する。
それのすぐ後にルーファスの銃が声をあげ、どさっと落ちる音が聞こえる。
「小型一体!」
そう声をあげたルーファスの背後にもう一体、オオカミのようなのが襲い掛かろうとしているがルーファスは銃の装填が間に合ってないようだ。
僕は走る。
体重はそんなに重くないだろうがこの剣で斬って倒せるとは思えない。
そう思った僕は剣を使わない。
「おらぁぁぁ!」
無属性魔法の「魔法陣」を顕現させそれを押し当てて突き飛ばす。
さて、これからどうするか……。距離は取ってから「魔法矢」で……いや倒しきれない。
そんなふうに決めあぐねていると後ろから吹き飛んで倒れているその真下に何かが投げ込まれる。
それに驚いて困惑している僕の前に岩の壁が出来上がる。
その直後壁の向こう側から大きな爆発音が聞こえ空に僕が飛ばした魔族が打ち上がる。
岩の壁は役目を終えたように崩れていく。
後ろを見るとコキジさんがさっき投げ込まれたものと同じもの、原始的な爆弾の準備をしている。
そして後ろにいるみんなの数とさっき聞いた魔族の数の両方が足りないことに気づく。
俺が見えている範囲には僕、ルーファス、オッド、コキジ、シニスターがいる。
魔族は見えている範囲のは殺した小型のが二体、奥に見えている大型が一体。残り五体のはずだ。
もしかして、と思い車の反対側に行こうとするが、
「行きたい気持ちもわかるがお前が行ったところで戦力差は変わらないぞ。それにいくにしてもあいつを始末してからだ。」
とルーファスに止められる。
目の前には全長は六メートルを超え、口からは長い舌をだらしなく垂らし、頭には二本の鮮やかな青色のツノを生やした魔族がいる。手には大きな包丁を持っておりその刃はガタガタで血もいくらかついている。肌の色もツノほど鮮やかでないが青色をしている。
こちらの戦力は六人。ウィリアムはクロスボウを構えている。
「いくぞ。」
ルーファスの落ち着いた冷静で余裕そうな声に続き、僕は「魔法矢」で、ウィリアムはそのクロスボウで左右の目を潰す。
よし!と思ったが目を潰した途端、ツノが青く光る。
視界を奪われて行動できないと思っていたがそのツノで世界を感じているのか平然とこっちに向かってくる。
ルーファスは一撃、ショットガンを後退しながら打ったがショットガンでは傷がつかない。意外と肌が硬いようだ。
ショットガンをそこらへんに捨ててガトリングを創り構える。
いつの間にか隣にはオッドくんとシニスターが立っていた。
「カルムはあいつのヘイトを買って。できる?」
「多分?」
「シニスターは大きいダメージを与えて。」
「あぁ。」
「行こ。」
そう言って僕の背中を押す。
ヘイトか。とりあえず色々やってみるか。
僕は鬼に向かって走りながら叫ぶ。
「こっちだ!!僕を見ろ!」
この言葉を理解しているかはわからないが声に反応して僕の方を向く。
そして走った勢いのまま剣で足を斬りつける。
その剣は少ししか入らなかったが完全に僕の方に意識が向いた。こんな感じでいいのだろうか。
オッドくんたちの方に背中を向けさせるために鬼の後ろにまわる。
鬼は従順に僕の方を見るためにオッドくんたちに背中を見せる。
その瞬間にオッドくんは左腕、シニスターは岩の槍を左足の真下から出して突き刺した。
シニスターの攻撃は大量に流血したり足が動けなくなっているところを見るとかなり聞いているようだがオッドくんの攻撃は効いてなさそうだ。少し相性が悪いように思える。
そして鬼はそんな大ダメージを受け、その攻撃をしたシニスターの方を向こうとする。
すると、僕の後ろからクロスボウがとび、首に刺さる。
その直後にルーファスのガトリングが胴体に打ち込まれる。
ルーファスの攻撃は響いていないが攻撃回数の多さからこっちを向き直し、鬼は包丁を横に振り払う。
ウィリアムとルーファスは射程範囲外だが僕とオッドくんは当たってしまう。
一瞬魔法陣で防ごうと思ったがあの巨体の力に僕の魔法陣が勝てるわけがない、と思い直す。
じゃあ選択肢は避ける一択だ。
ただ、避けると言っても今から射程範囲外には行けない。
となると、飛ぶか……。それしかないだろう。
しかし飛ぶのも色々懸念点がある。
すぐ思いつくのはそこまでジャンプできる力があるのか、だったりタイミングよく飛べるか、といったところだ。
どうすれば……。一発勝負であの包丁を避けるのはかなり難しいだろう。
いや、もしかしたら。
鬼が包丁を振りかぶる。
思っていたよりもそのスピードは早い。
僕は魔法陣を僕の腰ぐらいの高さに斜め向きに置く。
そして、それに飛び乗る。そのまま包丁が来る方向に飛ぶ。
連続で魔法陣を生成するのはできないからこれで飛ぶのは終わりだ。
だが、それでいい。二回飛んだおかげでタイミングを合わせてなくとも包丁が僕を通るタイミングに強引に合わせることができた。
魔法陣に乗るのは初めてだったしどうなるかはわからなかったが踏み込んで少ししたら耐えきれなく弾けてしまったが飛ぶ分には申し分ない。
そうして僕は無事に包丁の攻撃を避けることに成功できた。
大丈夫だとは思うがオッドくんの方を見てみると彼はすまし顔で軽く飛んで避けていた。僕との差を見せつけられてしまった。
包丁を薙ぎ払った後の隙にすぐさま岩の柱を地面から数本出し、それを軽く飛び移りながら近づき、最後にはもう一本柱を出し自分に当て、その勢いに乗せて斧を振るう。
それは鬼の背中から心臓が見えるほどに傷を作ったがまだ届いていない。
鬼が最後の力と言わんばかりに暴れ狂い、岩の柱や僕たちを近づけないようにさせる。
僕は「どうすれば……。」と悩んでいると僕の方を見ている鬼がこっちに倒れてきた。
急いでそれを避けもう一度見てみるとその奥にオッドくんが僕に背を向けて爪についた血を放り払った。
「さ、あっち側行こっか。」
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