第十話 移動

 部屋を出てウィリアムについていき、外に出ると軍事用のトラックが一台停まってありその荷台に乗るという感じだ。

 

「いくぞー。早く乗れー。」


 どうやらウィリアムが運転するようだ。

 ウィリアムが運転席に座りエンジンをかける。古いのか大きな音を鳴らす。

 急かされている気分になり荷台に乗る。

 僕が乗るとそれに続いてみんなも乗り始める。

 どうやらあの言葉を聞いて帰ろうと思った人はいないようだ。

 

 みんなの理由は知らないが僕は絶対に帰れなかった。

 あの時ライアンに言われて意地になっているところがある。

 

 僕たち全員が乗り込んだらすぐに車が発進する。

  

「これからどうなっちゃうんですかね……。」


「どうもこうも監禁されて『死ぬまで戦えー。』なんて言われるんでしょ。」

「ま、大方そんなもんだろうな。」


「だな。」

「うむ。」

「そうね。」


「え?そうなんですか?」


「カルムは知らなかったのか?」

「知らないでこの車に乗ったの?」

「今から降りたら?」


「みんな知ってたんですか?オッドくんも!?ていうかライアン辛辣すぎる……。」

 

「俺はずっとこんな感じだぞ。」

「僕含めみんな知ってると思うよ?」

「うーん、カルムくんは物を知らなすぎね……。」

「まぁまぁ、これから知っていけばいいからな。とりあえず今からこの車から飛び降りて死ぬか戦場で死ぬかどっちにする?」


「ラヴァさん?慰めてくれるのかと思った瞬間に落としてこないでください。」


「ははは、ごめんな。」

「まぁでも実際どうするんだ?今降りて死ぬか、戦場で死ぬか。今決めたほうがいいぞ。」


 ライアンが真剣な顔で聞いてくる。

 車から降りて死ぬ……なんてのは冗談……いや、冗談じゃないのかもしれない。

 僕がここに来た時点でいずれ死ぬことは確定してるんだと思う。

 やっぱり僕は


「僕は戦場で死にます。覚悟とか現実とかみなさんと比べて全然知らないと思います。多分、というか絶対にそうです。だってこのまま第三境界線に着いていつの間にか戦場に立ってよくわからないままよくわからないやつに殺されて死ぬんだと思います。

 あ、すみません。訂正いいですか?覚悟がないって言ったんですけどいつの間にか死ぬ覚悟だけはできてます。それでもやっぱり死にたくないんです。だから余計ここで車から降りて死ぬのだけは勘弁っていうか。うまく言えないんですけど。そんな感じです。」

 

「うん、ライアンくん、満足した?私はこの答えが聞けて満足よ?」


「あぁ、満足した。ありがとうな、何回も聞いてしまって。」


「うん。心配してくれてるんだよね。伝わってるよ。ありがとね。」


「ばっ!し、してねーよ!!ふざけんな……。」


「あら、何回も聞いてるの?そんなに気にしてるの?」


「どうしたの!?もしかして……で、できてるの……?」


「できてるっていうのは、結婚、ということか!?」


「は?ば、馬鹿言え!そんなわけないだろ……。」


「ライアン……なんでガチっぽい感じ出すの……?僕が嫌なんだけど。」


「カルムもうるさい。もういい、寝る。」


「あーあ、いじるからいじけちゃったな。」

「ふふっ、かわいいわね。さっきあんなに強いところを見ててっきりもう大人なのかと思ったけどこういう所を見るとやっぱり子供なのね。」

「あ、さっきいじった人謝っといてね。ライアンくん流石に可哀想だからね。」

「確かにそれもそうだな。」

「じゃ、私も寝ようかしら。コキジさんも寝てるみたいだしね。」


 そのルレアの声に続いて次々と目を瞑っていく。

 少し経つと僕以外の全員が各々のゆったりとした体勢で眠っている。

 オッドくんはその小さな体を利用して横になったりコキジさんは綺麗な体勢で微動だにしていない。ルレアさんはコキジさんほどではないが王族ということもあり上品でいる。それと対照的にサラスさんはだらしない体勢でぐったりとしている。 

 ルーファスは銃を構えながらいつでも戦えるようにしているし、ライアンは未だに不貞腐れた顔でいる。

 リファイは寝ていてもかっこいいし、シニスターは人間味がない。


 なんでみんなこんなに余裕そうなんだろう。

 これから、敵地に赴いて生きて帰って来れないかもしれないのに。

 僕は怖くて眠ろうとしても寝れない。なにか鍛錬をしないと、とここでは何も出来ないのにそう思ってしまう。

 僕は仕方なく少し身を乗り出して外の景色を見ながら風を浴びる。

 風上の方向が魔族領なのだろう。気持ち悪い血と植物の匂いがする。

 その匂いに煽られて現実を直視したような気持ちになる。

 

 周りの風景は既に城下町ではなく僕が来たことがない郊外になっている。

 前の方にはまだ小さいが砦が見えておりあれが第三境界線の砦だろう。

 

 ……意外に栄えてるんだな。

 現在魔族領との最前線であるのにも関わらず八百屋や服屋、飲食店などもある。城下町ほどではないが廃れてはいないようだ。

 ただ、まだ昼過ぎなのにも関わらずごろつきみたいな人たちがうろうろしている。

 顔面の怖さで言うとルーファスには劣っているが……。


 と、そこで大きな音が運転席の方向から聞こえてくる。一瞬、運転席で何かがあったのかと思ったがそうではないようだ。なぜならすぐに車が止まり、ウィリアムが


「魔族だ!!戦うぞ!」

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