第九話 戦地への赴き

 会議室に入るとラヴァさんが戻ってきており、直接こっちにきたんだろう。

 僕は少し後ろにいるオッドに小声で


「ラヴァさん無事そうでよかったね。」

 というと、オッドは顔を明るくして首を縦に振る。


 会議室に入ってすぐにサラスが


「みんな!自己紹介を再開しましょ?」

 

「そうだな。」

「おう。」


「じゃあ、次は俺だな。」

 と言ってライアンがその場に立ち上がる。

 

「俺の名前はライアンだ。こう見えても十九歳だからな。子供扱いすんじゃねぇぞ。んで……あとは、戦闘スタイルだが、さっきも見ての通り槍を使う。投げたのはあれが初めてだ。普段は普通に持って戦う。まぁ、こんくらいだな。」


 そう言ってライアンは席に座る。

 槍を投げたのはあれが初めてなのか……。それにしてはすごく強かった。

 そして、ライアンは思い出したかのように


「あ、そういえばこの国に来たのは最近だから王女様の身内ノリには付き合ってられないから。」


 と、ルレアの方を見て言い捨てる。一瞬喧嘩が起きる、と思ったがそんなことはなく、ルレアは


「もう!そんなことしないって!だからそういう扱いはしないで!わかった?」

 

 と、口を膨らませてわかりやすく怒る。

 それに対して当の本人のライアンは


「まぁ、その様子ならいいけど。」


 と、満足げに返事をした。


 その後はルレア、サラス、オッド、僕、コキジ、ルーファスの順でさっき聞いた自己紹介をもう一度行った。

 

 自己紹介が終わり、その場に沈黙が訪れる。

 ルーファスやコキジはそんなふうには見えないが僕を含めて大体の人が何か話そうとしているがいかんせん話題がない。

 しばらくそんな空間が続いた状態で扉が開く。


「おーい、準備できたぞ……って、静かだな。まぁいい。」

 そして紙の資料を取り出して

「これからある場所に車で移動してもらう。」


 車で……そんな遠いところってなんかあったかな。僕には思いつかなかった。


「今から向かう場所は第三境界線の砦。通称サードラインだ。行きたくなかったらここで帰ってもいい。そんな腰抜けはいらないからな。物資はある程度あちら側にあるが随時送らせる。何か質問はないか?」


 第三境界線?いきなり?無茶苦茶なことをいうな。


「えっと、現在ってどこまで侵攻が続いてしまっているんですか?」

 

 僕の記憶だと第二境界線だったがこの記憶も最新のものではない。


「それに関しては行けばわかることだし今教える必要はない。ま、強いていうなら『教えてしまったら誰もいかない』ぐらいだろうな。」

 

 『教えてしまったら誰もいかない』ということは第二境界線も制圧されてしまったのだろうか。

 そもそも魔族と戦争が始まったのが大体百年ぐらい前だったはず。そこから一年もしないうちに周辺の国と連携を取り、「対魔族人類法」ができた。

 「対魔族人類法」とは魔族に対して人類は絶対の共存を結ぶと同時に国というまとまりをなくし『世界に住む人類』というたった一つの括りでまとめることを義務化したもの。他にも色々決まり、その中の一つに境界線の話もあった。

 境界線とは人間が所有している土地の中で魔族に侵略されるとまずいもの、つまり元々大きな国があった場所や取られてしまうと戦争的に大きく不利になってしまう場所を指すもの。第一境界線、第二境界線、そして第三境界線が定められた。

 第三境界線が取られてしまうと実質的に人類の敗北という認識で広まっている。

 そして、「対魔族人類法」が定められてから二年、つまり戦争が始まってから三年で第一境界線が取られた。

 そこから対魔族に対しての危機感や焦りから戦力が大きく補強され、第二境界線は最近まで取られていなかったはずだ。

 

「どこに行くかとかは正直どうでもいいんだけど、いつ行くの?今すぐ?」


「あぁ、今すぐだ。行くぞ。」


 サラスの質問に対して淡々と短い言葉で答えたウィリアム。

 そのまま彼は後ろを向いて部屋の外に出た。

 僕たちは顔を見合わせて何も言わずに頷き、ついていくことにした。

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