第4話 冬

 ああ、寒いねー。


 なんか今晩から雪が降るかもだって。


 さっきおばさんに会ってね。


 じゃーん!


 湯たんぽ~!


 おばさんに渡されたんだ。


 これで夜でもぬっくぬくだよ。


 風邪なんかひいたら大変だもんね。


 君、愛されてるねぇ。


 ねえ、街はすっかりクリスマスムードだよ。


 イルミネーション、綺麗だよねぇ。


 今年もみんなで集まって、パーティーするんだ。


 アッコがお手製ケーキにチャレンジするって、張り切ってるよ。


 隆くんが、バイト先でオードブルを安く仕入れてくれるらしくてね。


 だから、飲み物確保はのんちゃんとマッキーのお仕事。


 ――わたし?


 わたしは場所提供だよ。


 そう、今年はウチでやるんだ。


 お姉ちゃんにも手伝ってもらって、飾り付けの用意してるとこ。


 実はお姉ちゃん、ああいうの大好きでね。


 わたしより張り切って、飾り付けの用意してくれてるんだ。


 みーんな、クリスマス、クリスマスだよ。


 去年は君の家でやったよね。


 わたし、七面鳥なんて食べるの初めてだったから、出てきてびっくりしたよ。


 君は「フライドチキンみたいなものだー」なんて言ってたけどさ、ぜんぜん違ってたよ!


 そもそも七面鳥、フライじゃないじゃん!


 あれ、オーブンで焼いてるよね?


 アッコに料理教わってるから、わたしわかるようになったもん。


 それにしても、クリスマスかぁ……


 のんちゃんとマッキーはイヴにふたりだけで祝うんだって。


 だから、パーティーは二十五日ね。


 恋人同士はクリスマス一緒に過ごすーなんていうけどさ、わたし達は違ったよね。


 ――ねえ、覚えてる?


 わたしの誕生日。


 二十八日なんて中途半端な時に生まれちゃったから、友達に祝ってもらった事がないっって言ったら、君、わざわざ家まで来てくれたんだよね。


 わたしにとっては、クリスマスより、ずっとずっと嬉しい日だったよ。


 プレゼントも大切に部屋に飾ってる。


 君はネックレスなんだから、着けろって言うかもだけどさ。


 傷ついたりしたらイヤじゃない?


 落としたりするのも怖いし。


 君とデートの時なら、着けていくのも良いかもね。


 ……ホントはね、あの日も着けて行ったんだよ?


 結局、見せられなかったけど……


 見てほしかったなぁ。


 お姉ちゃんに服も借りてさ、ちょっとお姉さんな感じで待ってたのにね……


 あー、やめやめ!


 ごめん、湿っぽくなっちゃったね。


 初詣には、みんなで行く予定だよ。


 去年はふたりで大吉引いて、みんなにバカップルって笑われたよね。


 マッキーは良いの出るまで引くんだーって、みんなに呆れられて。


 おみくじって、そういうのじゃないのにね。


 ガチャかなんかと勘違いしてたんだよ、アレ。


 振る舞い酒の匂いで隆くんが酔っちゃって、マッキーが背負って帰る事になってね。


 のんちゃんとアッコは町内会のおじさん達に呼ばれて、結局、わたし達だけが残って。


 君が初日の出を一緒に見ようって言ってくれたの、すごくうれしかった。


 わたしも……もうちょっと一緒に居たいなって思ってたから。


 ――そうだね。


 あの日もわたしの宝物だよ。


 キラっキラの宝物!


 だって、君と初めてキスした日だもん……


 ――通じ合うって、きっとああいう事なんだろうね。


 わたし達、自然とそうしてたもん。


 ……ふふ。


 ふたりして「やわらかっ!」って、びっくりしてね。


 それからもう一回したんだよね。


 やだ。思い出したら泣けてきちゃった。


 あの日、わたしは君のものになったんだって、はっきりとわかったよ。


 ……もう君からは、離れられないんだって。


 君も、そう思ってくれてたら嬉しいな……


 ……楽しかったよねぇ。


 あれからもう一年だよ。


 ホント、早いよねぇ。


 ……早すぎるよ。


 知ってる?


 アッコってば、調理師免許取る為に専門学校に行くらしいよ。


 隆くんとのんちゃんは東京の大学目指すんだって。


 マッキーは――アイツ、バカ! 本当にバカ!


 のんちゃん置いて、世界一周の旅に出るんだって!


 バイトしてたのも、その資金貯める為だって!


 のんちゃんは「じゃあ、待ってるね」なんて言ってるけど、アイツ、絶対、パツキンのおねーちゃん見てみたいとか、そんな理由だよ!


 他に思いつかないもん!


 ――わたし?


 わたしはね……迷ってる。


 ちっちゃい頃は、保母さんとか学校の先生が良いなって思ってたんだ。


 でも、最近は……


 ――迷ってるなら、大学行っとけって、お父さんもお母さんも言ってくれてるんだけどね。


 お姉ちゃんは自立してるから、わたしだけ「迷ってる」なんて理由で大学に行かせてもらうのは申し訳なくてね。


 ねえ、わたし、どうしたら良いのかな?


 ……なーんてね。


 こんな事、言われても困っちゃうよね。


 大丈夫!


 まだあと一年あるんだもん。なんとか自分で決めるよ。


 ごめんね。


 変な話しちゃって。


 あ、雪っ! ホントに降ってきた。


 そろそろ帰らないと!


 湯たんぽ、頼んどくから、あったかくしてね。


 ……じゃあね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る