第3話 秋

 久しぶり。


 朝は涼しくなってきたけど、まだまだ日中はあっついね。


 文化祭の準備も忙しくてさ。


 まいっちゃうよね。


 てゆーか、忙しいのにのんちゃんもマッキーも、隙きあらばイチャイチャしててさ。


 ホント、まいっちゃう。


 ちょっとは人目を気にしろーっての。


 ただでさえ、二年は模擬店で、準備が多くて大変だっていうのに!


 まあ、設営さえ済めば、ウチには我らがアッコ大明神様が居るからね。


 売上上位間違いなしなんだけど。


 アッコさ、すごいんだよ?


 屋台メニュー完全再現!


 粉っぽい焼きそばも作ってくれたんだ。


 なんかね、ホットプレートで雑に作るのがコツって言ってたけど、よくわかんなかったんだよね。


 料理ができる人って、なんでああなんだろうね?


 少々~とか、さっととか、わかんないよ。


 ちゃんとグラムとか秒で言ってほしいよね?


 そういえば隆くん!


 彼って、すごいね。


 屋台をカンカンカーンって作っちゃって。


 将来は大工さんかなって訊いたら、DIYに凝ってるだけだって。


 でもね、ちゃんと使う人のことを考えた作りになってて、アッコ、すごい感激してた。


 ――ねえ、覚えてる?


 去年の文化祭、ふたりで一緒に回ったよね。


 みんなからこっそりはぐれたフリして。


 ドキドキしたよね。


 でも、ふたりで回りたかったんだもん。


 付き合い始めたばかりだったからさ、デートらしいデートもしてなくて。


 憧れるじゃない?


 文化祭デート。


 みんなに見つかってもいいように、手も繋げなかったけどね。


 嬉しかったなぁ。


 結局、みんなに見つかっちゃったけどね。


 それで珍しく隆くんが、空気読まずに「おまえら付き合ってんの?」なんて言っちゃって。


 君ってば、誤魔化せば良いのに、生真面目に認めちゃうものだから、教室中が大騒ぎになっちゃったよね。


 ……でも、わかるよ。


 きっと君の事だもん。


 ウソでも「付き合ってない」なんて、言いたくなかったんだよね。


 わたしもそうだったから、わかるよ。


 まあ、結果としてクラス公認となったから結果オーライだよね。


 嬉しかったんだよ?


 君が「俺の彼女だ」って言ってくれて。


 君はさ、自己評価がびっくりするくらい低いけど、君のことを良いなって思ってる子って、結構居るんだよ?


 真っ先に君の良さに気づいた、わたしが言うんだから間違いないよ。


 君はさ、なんか放っておけないって気持ちにさせるんだよね。


 わたしだけじゃないよ。


 のんちゃんもマッキーも言ってたもん。


 海の時もそうだったけどさ、ちゃんと見てないと、ふっと何処かに行っちゃいそうな感じがするんだよね。


 そういうトコに惹かれちゃうみたい。


 わ、わたしはそれだけじゃないからね!


 わたしは……君のそっと気遣ってくれるトコとか、不器用なくせにやんちゃなところとか、もっといろいろ、君の良いところ知ってるもん。


 上辺だけに、惚れたわけじゃないんだからっ!


 君の良いトコも、残念なトコも、全部ひっくるめて好き!


 やー、改めて言うと照れるね。


 でもさ、ホントだよ?


 正直、君がわたしの何処を好きになってくれたのかは、いまだにわからないし自信もないけんだけどね……


 わたしが好きって気持ちは本当。


 一目惚れなんて大げさな事は言わないし、なんでって言われちゃうと困っちゃうんだけどね。


 ああ、君の事を好きだなぁって、そう思ったんだよ。


 恋って、きっとそういうモノでしょ?


 やだ! わたし、すっごい恥ずかしい事言ってる?


 みんなには内緒ね。


 こんなこと、きっと君にしか言わない。


 ――と、とにかくね!


 わたしが君の事を大好きって事は、忘れちゃイヤなの!


 アハハ。


 わたし、なに言ってるんだろうね……


 そういえばさぁ。文化祭終わったら、すぐテストなんだよね。


 今から気が重いよぉ~。


 去年はさ、みんなで勉強会したじゃない?


 あれで隆くんとアッコが、実はゲーマーだってわかったんだよね。


 ふたりして勉強そっちのけでゲーム始めちゃって。


 あれだけ気が合うんだから、付き合っちゃえば良いのに。


 そう簡単なものじゃないのはわかるんだけどね。


 お似合いだと思うんだけどなぁ。


 勉強会は今年もやらないとねぇ。


 なんで二学期って、あんなに範囲が広いんだろ。


 あー、数学なんてこの世から無くならないかなぁ。


 あと英語も!


 外人が日本に来るなら、日本語勉強してから来れば良いと思わない?


 わたしはずーっと、日本から出る予定ないから、英語なんて使いませんよー。


 わかってるよぅ。


 それでもテストはやって来るんだよね……


 今年も君を頼りたかったんだけどなぁ……


 ううん。きっと君の事だから、わたしを助けてくれるよね。


 ――信じてるよ。


 君がわからないトコは、わたしが教えてあげるからさ。


 歴史と古文なら任せておいて!


 物理はアッコに任せよう。


 数学は隆くんかなぁ。


 教わってばっかりのマッキーって、ホント、ズルいよね。


 のんちゃんもアレの何処が良いんだか。


 ……謎だわぁ。


 まあ、まずは文化祭だよね。


 目指すは売上トップ!


 あ、空き時間には、今年も一緒に回れたら良いね。


 ほら、三年の森岡先輩がさ、今年は演劇でヒロイン演るんだって。


 ぜひ来てって言ってたから、ふたりで行きたいよねぇ。


 ……ああ、もうこんな時間。


 最近、すっかり日が暮れるのが早いねぇ。


 そろそろ行くね。


 ……じゃあ……またね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る