第2話 夏

 ふう、今日もあっついねー


 来る時、隆くんとマッキーに会ったんだけどさ、マッキー、上マッパで歩いてたの。


 もう、バカ。ホント、バカ。


 隆くんも注意すれば良いのに、「暑いし良いんじゃね?」だって。


 まあ、アイスくれたから、ゆるしてあげるけど……


 それにしても、すっかり夏だねぇ。


 ――ねえ、覚えてる?


 みんなで海行ったよね。


 君のお父さんが車出してくれてさ。


 海水浴場に行くのかと思ったら、連れてかれたのは岸壁の磯でさ。


 みんなびっくりしちゃったよね。


 君、知ってたんでしょ?


 驚かそうと黙っててさ、ズルいよねぇ、ホント。


 そうそう、おじさん、釣りする人だったんだねぇ。


 わたしもちょっとやらせてもらったけど、カレイって普通に釣れるものだったんだね。


 釣り船とかで沖に行かないと釣れないと思ってたよ。


 面白かったけど、あのウネウネの餌をつけるのだけは苦手かなぁ。


 あと、ボディボード!


 アレ、面白かった!


 ざーって水面を滑って!


 君もやれば良かったのに。


 君ってば、ずーっと浮き輪に乗って、ぼーっとしちゃっって。


 のんちゃんが「温泉に入ってるおじいちゃんみたい」って言ってたんだよ。


 かと思えば、いきなり居なくなってさ。


 空っぽの浮き輪見つけて、わたし達、すごく焦ったんだよ?


 隆くんなんて、助けに行くって飛び込んで!


 そしたら君ってば、なんでもない顔で、「ウニとサザエ獲ってきた」って。


 もう、憎らしいくらい良い笑顔で!


 わたし、安心したのとイラっとしたので、ホントにねぇ!


 確かにっ!


 確かに、獲れたてのウニは、すごくすごくおいしかったよ!


 回らないお寿司のウニみたいだった。


 サザエのつぼ焼きも、たいへん美味しゅうございましたっ!


 でもね、本当にびっくりしたし、すごく心配したんだからね?


 おじさんは「子供の頃から素潜りしてるから――」なんて笑ってたけど、本当に心配したんだから。


 ああいうのは心臓に悪いから、今度はちゃんとした海水浴場に行こうよ。


 そうそう、ウチのお姉ちゃん、免許取ったんだよ。


 今日も途中まで送ってもらったんだ。


 お姉ちゃんに車出してもらってさ、今度はふたりで海に行こう。


 ――お姉ちゃん?


 ……んん~、まあ、お姉ちゃんは温泉めぐりが趣味だから、近くの温泉に行くんじゃないかな。


 今日も温泉行くって言ってたし。


 ホラ、あそこの海水浴場、近くの道の駅に温泉あるらしいじゃない?


 彼氏さんとは別れたーって言ってたし、たぶん友達とそこ行くと思うよ。


 だから心配なし!


 楽しみだなぁ。


 わたし、海の家の焼きそば、大好きなんだ。


 あの粉っぽいのが良いよね。


 ウチで作ろうとしても、なんでか同じにならないんだよね。


 行った時は、ちゃんと作ってるトコ見とかなくちゃね。


 そういえばさ。


 来週の花火大会で、のんちゃん、マッキーに告るんだって。


 みんなにはまだ内緒ね。


 ほら、わたし達がそれでくっついたから、ご利益があるーなんて言ってた。


 うまく行くと良いなぁ。


 けど、マッキーだしねぇ。


 ……まあ、マッキーが空気読まなかったお陰で、わたしと君が付き合うことになったんだから、あんまり悪く言えないよね。


 あの日はホント、ドキドキしたなぁ。


 君はどうだか知らないけど、わたしはあの時にはもう、君のこと、すっごく意識してたんだからね。


 だから、マッキーが焼きもろこし食べたいって駄々コネて、君が買いに行くことになった時は、本当にほんっとーにチャンスだって思ったよ。


 今だから言っちゃうけどね。


 あの日はさ、絶対に告白しようって決めてたんだ。


 だからさ、まさか君から切り出してくれるとは思ってもなくてね、心臓が止まるかと思ったよ。


 あの時の照れた君の顔、今でも覚えてる。


 ううん。きっとおばあちゃんになっても忘れらんないよ。


 うん、わたしの大切な宝物。


 正直、あの日の事は、浮かれちゃってたのかな。


 君の横顔しか覚えてなくてね。


 あ、でもね、ソースの焼ける匂いがすると、あの日のことを思い出しちゃうから、覚えてないってのとは違うのかな?


 わたしの幸せの香りは、ソース味なんだね。きっと……


 あはは。ごめんね。


 あの日のことを思い出すとさ、いまでも幸せで涙が出てきちゃうんだよね。


 恥ずかしいなぁ、もう。


 今年も行きたいねぇ。花火大会。


 それでふたりで、のんちゃんとマッキーくっつけるの。


 マッキーは君と違って鈍い奴だから、のんちゃんの為にしっかりお膳立てしないとね。


 知ってる? のんちゃんも最近、アッコに料理教わりだしたんだよ?


 ほら、マッキーって、いつもパンか学食じゃない?


 だから、お弁当作ってあげたいんだって。


 乙女だよねぇ。


 好きな人に毎日お弁当作る子なんて、少女マンガくらいでしか知らないよ。


 それだけ好きってことなんだろうねぇ。


 わたしにはマッキーの良さって、まるでわかんないけど。


 友達ならともかく、彼氏としてはないわー。


 隆くんもよく毎日付き合ってるよね。


 そう、なんかね、ふたりとも川釣りにハマったらしくて、毎日行ってるらしいよ。


 ふたりとも真っ黒に日焼けして、小学生かーって。


 付き合うようになったら、のんちゃんも真っ黒になっちゃうのかな?


 あの子、お化粧とか興味ない子だから、ちゃんと日焼け止めを渡しとかなきゃね。


 放っておいたら、マッキーの釣りに付き合って、河原でずーっと本とか読んでそう。


 ああ、想像したら、心配になって来ちゃった。


 日焼け止めだけじゃなく、花火には、ちゃんとお化粧してくるようにも言わなきゃ。


 あ、ダメか。そもそもあの子、お化粧のやり方知らないんだよね。


 アッコに連絡して……ああ、ごめんね。


 ホント、心配になってきちゃった。


 アッコとふたりでお化粧の仕方、のんちゃんに叩き込まなきゃだよ。


 だから、今日はこのくらいで。


 ……じゃあ、またね。

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