巡る季節と君の声

前森コウセイ

第1話 春

 今日は天気良いねぇ。


 すっかり桜も咲いてるよ。


 窓開けてたら、花びら入ってくるかな?


 アッコの中学だと、校舎のそばに桜が植えられてて、授業中に桜吹雪が吹き込んできてたんだって。


 ちょっと素敵だよね。


 ――ねえ、覚えてる?


 君と初めて出会った時のこと。


 そう! 君は隆くん達と桜の花びら捕まえようとしててさ。


 君だけ捕まえられなくて、わたし、不器用な人だなぁって思ったんだよ?


 それで夢中になってた君は、わたし達にぶつかって来て。


 ふふ。


 一緒に倒れ込んじゃって。


 なのに君、「取れたっ!」って喜んで、花びら見せてきて。


 だから、君の第一印象は「変なひと」だったんだよね。


 そんな君が同じクラスだったから、わたしびっくりしたんだよ?


 うん、思えばあの時から、君に惹かれてたのかもね。


 なんだかんだで、のんちゃんやアッコ、君は隆くんやマッキーを巻き込んでグループになっちゃったもんね。


 知ってる?


 最近、のんちゃんってばマッキーと良い感じなんだよ?


 あ、でもまだ微妙な感じだから、内緒ね。


 マッキーの奴、いつもふざけすぎなんだよ。


 だからのんちゃん、最近、もやもやしてるみたいなんだ。


 マッキーも悪い奴じゃないのはわかってるんだけどさ、のんちゃんの親友としては、もうちょっとちゃんとして欲しいなぁって……


 あ、ごめん。


 昨日の夜、ちょっとのんちゃんとそんな話しててね。


 君に愚痴っちゃった。


 そうそう、そういえば夜桜見物にも行ったよね。


 散り始めになってたけど、みんな、騒ぐのに夢中で気にしてなくて。


 今だから言うけどね、マッキーははしゃぎ過ぎだったと思うんだ。


 スマホでカラオケ始めちゃって、周りの目が……うん、ちょっと恥ずかしかった。


 隆くんまで乗っかっちゃってさ。


 でも、だからこそ、君がこっそり抜け出すのに気づけちゃったんだよね。


 知らなかったでしょ?


 あの時、君、ひとりでお城の裏手まで行ってたよね。


 わたしこっそりついてってたんだよ。


 ちょっと出てくる、なんて言うから気になるじゃない?


 そしたら君、どんどん暗い方に行くじゃない?


 だんだん怖くなってきて、何度も声をかけようと思ったんだよ?


 でも君は迷いなく進むからさ、どうしても君が向かう先を確かめたくなったワケ。


 あれって、枝垂れ桜って言うんだっけ?


 周りには誰もいなくてさ。ライトアップされてて、すごく綺麗だった。


 あんな穴場を知ってたなら、教えてくれればよかったのに。


 君はひとりでぼんやりそれを見上げてて。


 なんとなく声をかけちゃいけない気がして、わたしは引き返したんだけどね。


 いつか、あの時なにを考えてたのか、教えてほしいな。


 だって君、ちょっと寂しそうに見えたからさ。


 ……正直に言うとね。


 たぶん、あれでわたしは君にやられちゃってたんだと思う。


 君ってズルい奴だよ。


 ずーっとそう!


 無自覚にどんどんわたしを惹きつけてさ。


 わたしだけが、どんどん君を好きになっちゃってさ……


 不公平だって、あの頃はずっと思ってたよ。


 あー、なしっ!


 今のなし!


 なんか恥ずかしくなってきちゃった。


 そういえば、君があの日の帰り道に教えてくれた公園ね。


 そう、送ってくれた時の。


 あそこも桜が咲いてたよ。


 一番奥のおじいちゃん桜も!


 今年もちゃんと咲けてよかったよねぇ。


 お城の公園も良いけど、わたしはああいうこじんまりしたとこでのお花見のが良いなぁ。


 今度、ふたりで行こうよ。


 みんなには内緒で、ね。


 アッコのお弁当が食べられないのは、ちょっと残念だけど、あの子に教えたら、みんなに伝わっちゃうからね。


 だから内緒っ。


 あそこ行くなら、ふたりが良いもんね。


 代わりにわたしがお弁当作るよ。


 だぁいじょうぶ。ちゃんとお母さんやアッコに教わるから。


 想像して見て?


 ふたりでお弁当持って出かけて、おじいちゃん桜の下でシート広げて、ふたりでまったり過ごすの。


 素敵じゃない?


 だからわたし、料理修行がんばるよ。


 目標は手作りコロッケ――は、ハードル高そうだから、ハンバーグでゆるして。


 と、とにかく頑張る!


 絶対に君に美味しいって言わせてみせるんだから!


 さっそく帰りにスーパー寄らなきゃ!


 楽しみに待ってなさいよ!


 それじゃあ、またねっ!

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