第54話 派遣要請
シオンが体力を戻すことに専念している間に、季節は冬へと変わっていた。
ソフィアがシオンの歌姫になってから騒がしくなっていた周囲も、それ以前と同じというわけではないが落ち着き始めている。
そんななかティフはシオンを見かけると必ず敬意を示す姿勢を取るようなってしまい、それはどこだろうと行われるのでシオンは少し引き気味になっていた。
この体力を戻すまでの間、シオンはソフィアの実家であるエーベルハイン侯爵家に顔を出した。
ヴィトールたっての願いということで、ソフィアにお願いされたからだ。
エーベルハイン侯爵家につくとエーベルハイン夫妻が出迎えに出てきていて、開口一番は先日のことへの謝罪。
シオンにとっては気分のいいものではなかったのは確かであったが、機密があることで伏せていたこともあり、その結果ということもシオンは理解している。
それもあってシオンはその謝罪を受け入れ、和やかなランチを共にした。
唯一殺気立っていたのはイゴールだ。
シュティーナの水着姿を見せてくれと詰め寄ってきていた。
だがこの話はシュティーナの勘違いがあり、それがイゴールの運命の分かれ道となる。
確かにプールに行ったという事実はあったのだが、それはシオンが両親を失くして間もない頃だったのもあり、記録として残っているのはシュティーナの携帯であった。
その結果、イゴールが夢見ていたシュティーナのグラビアというのは儚く散ることになった。
「おう、来たか」
シオンとソフィアが総督室へ入ると、いつものように砕けた調子でジョルディ総督が声をかけてきた。
ディーナが飲み物を用意し、四人が応接用のテーブルにつく。
「わざわざ呼び出すなんて、今日はどういった要件ですか?」
「実はな、今各国にザイオンからソルジャーの派遣要請が出ている」
「各国にですか?」
ジョルディ総督の言葉に、シオンとソフィアに若干緊張がはしった。
派遣要請が出ているということは高ランク帯であり、それが各国に出されているということは先日のバトルフィールドのようなレベルだと考えられるからだ。
「そうだ。ザイオンには塩湖があるんだが、ザイオンの塩は世界シェアで四二%という数字だ。
この塩湖なんだが、周辺の沿岸にアスラがいるようでな」
「確かにそれは問題ですね」
ザイオンの塩湖が使えないのであれば、他から調達すればいいという問題ではなかった。
調達するための場所の防衛が問題になり、そう簡単になんとかできる問題ではない。
その結果が四二%という数字になっており、それぞれの国が足りない物を補い合って成り立っているのだ。
そういう意味で今回の問題は、ザイオンだけの問題ではなかった。
「ああ。それで各国から高ランクのソルジャーを派遣することになった」
「それに僕たちが参加するということですか?」
「防衛を考えてラージュリアからは二名派遣することになったんだが、対応力を考えるとヴァレリオとシオンがいいと思ってな」
「わかりました」
ここまで説明したところで、ジョルディ総督の表情が少し変わった。
「いいか? 今回シオンを派遣するのはSランクのソルジャーとしてだ。
絶対に魔法は使うな。それと今回の派遣にはディーナをつける。
作戦に関してのやり取りもディーナにやってもらう。
作戦段階でシオンに過度な期待をされては困るからな。ディーナ、説明を頼む」
ジョルディ総督が振ると、ディーナは一度ソフィアに視線を向けて笑顔になる。
シュティーナのように感情が出にくいタイプというわけではないが、クールなディーナにしては珍しいことであった。
「あとで端末に詳細は送っておきますが、今回の派遣先はザイオンになります。
ラージュリアから派遣するソルジャーはシオン様、ヴァレリオ様をはじめ、Aランクが三〇名、Bランクが二〇〇名となります。
現在確認されているアスラはSランクが五体、Aランクが四五体、Bランクが六六体、Cランクが四〇体です。
なぜ沿岸にアスラが
今後アスラが増えるかもしれない可能性を考え、今回の作戦では投入するソルジャーは多く見積もられています。
SSランクを含めたSランクソルジャー、二三名が出撃を予定しています」
ディーナが言うように、ソルジャーの出撃数は多めに見積もられているようだ。
二三名のSランクソルジャーということは、このバトルフィールドにはほとんどの国が参戦するものと思われる。
いつもはアスラの接近に対応する形であるため、今回のようにこちらから仕掛けるようなことはほとんどない。
そのための対応力ということなのだろう。ソルジャーの損失はその国だけの問題ではなく、人類の戦力が削がれることを意味する。
それだけにソルジャーの出撃について、各国は損害を小さくするための努力をするのだ。
「確認しておきたいんだが、Sランクのアスラを相手にするのは問題ないんだな?」
「はい、問題ないです。Sランクとしての範囲ということであれば、ソフィアさんもいますので十分対処可能です」
「わかった」
「それでシオン様、ザイオンでのホテルなのですが、ソフィアさんと同室にさせていただいてよろしいですか?」
ディーナはなんでもないことのように確認してくるが、シオンとソフィアは明らかに動揺した顔をしていた。
ホテルでの同室となると、今同居しているのとはまったく変わってくるだろう。
同居では一緒に暮らすというのはあるが、お互いに自分の部屋というプライベート空間がある。
だがホテルの同室となれば、プライベートな部分も共有することになるためまったく変わってくるのだ。
「今回の派遣は各国からソルジャーが集まるので、部屋数が足りなくなるおそれがありますので。
ヴァレリオ様もマリーさんと同室ですし、なにか問題がありますか?
ソフィアさんにも協力していただきたいのですがどうですか?」
「え、えっと……私はそれで……大丈夫です」
段々声が小さくなっていたが、ソフィアは顔を赤くして承諾していた。
こうなるとシオンに選択肢などありはしない。
ここで拒否という選択肢を取れば、それはソフィアとの同室に問題があるということになる。
そもそも男女が同室というのは問題がありそうなものだが、その可能性をシオン自身で示唆してしまうことになってしまうのだ。
その結果、ザイオンでのホテルで二人は同室ということになった。
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