第53話 BAN

(相談者って、ロサナさんたちだったのか……さすがにこのままってわけにはいかないかな)



 シオンのなかでディーナが相談者をロサナ・ミュールと口にしたことで、このことは確定していた。

 この件がわかってからすぐディーナは動いていたようだが、珍しく準備に時間を要していたようだ。

 だがこれも先ほど言った動画のオリジナルや、情報開示に動いていたと考えればむしろ早いと言える。

 ディーナの権限を考えればこれくらいはできてしまうので、最早疑いの余地はない。


 そして相談者がロサナ・ミュールだと考えれば、今の状況にも納得がいくものであった。

 最初はこの状況が中途半端で読めなかったが、相談者がロサナということなら話は変わってくる。

 以前からロサナはソフィアに対し嫌がらせのようなことをしていた。

 今回もこれに当てはめれば、ソフィアに言いがかりをつけて疑惑を持たせることが可能だろう。

 そう考えれば、今回のような中途半端な状態にも意味が出てくると言える。

 そういう意味では、きっとティフはこのためだけに使われて切り捨てられたということだと思われた。



『言ってる意味がわからないんだけど……』


『ハッタリみたいなことやめてくれます? あるなら出してみてよ』


『一応言っておきますが、このオリジナルはあなた方のオンラインストレージから出た物ですから本物ですよ?

 ここまで言っても出してほしいというのなら、私はかまいませんが。

 理解できていないようなので言っておきますが、私は軍の人間ですよ?』


『『『――――――――』』』


『あやしい』『ナイスー』『デキる』『エロい』『流れかわった』『ロサナってソフィアと仲悪いの?』『どうやったら付き合える?』『この人ヤバ』『敵視してるって噂あったもんな』『最強すぎだろ』『仕事できてエロくて無敵』

『逃げた』『あっ』『これは』『逃亡草』『察し』『草』『これは決まりだわ』



 少しの間沈黙になると、相談者の通話が切れて落ちていた。



『ヘンリー、部隊を踏み込ませて押さえなさい』


『お』『え?』『踏み込む?』『どゆこと?』『なになに』『わかんないけどさすが』『ホジホジ』『炎上不可避』『チーン』『まじかよ』



 不穏なディーナの命令に、コメントがまた加速する。

 そしてそれは三分ほど続き、落ちたはずの相談者のアイコンがまた点いた。

 だが今度はボイスチェンジャーは外れ、音声ではなくビデオ通話になっていた。



『~~~~なんで軍がこんな話に出てくるのよ! 関係ないでしょっ! こんな踏み込むようなことまでして、情報開示にしたって早過ぎて違法だとしか思えない』


『確かに軍はプライベートなところに介入はしないようにしています。ソルジャーや歌姫も人ですから、恋愛関係などはトラブルがつきものですし。

 そういったことなどにいちいち介入しては人としての生活もままならないでしょうし、それでは軍もキリがないですからね。

 ですが今回の件は明確な悪意によるものであるのと、あなた方はラージュリアの国防を脅かしています』


『え――』


『――!』


『うそ――』


『シオン様はソルジャーランクで対応を変えるような方ではありませんが、軍としてはいつでもそう動けるわけではありません。

 いいですか? あなた方が貶めようとしているソフィア・エーベルハインは、クィーンへの切り札であるSSランクソルジャーの歌姫なんです。

 これは国防に直結することであり、今回情報開示が早かったのは超法規的措置を我々が取ったからです。あなた方はそういうことをしているんですよ』


『そうだったんだ』『ディーナさん格好いい!』『これはオワタ』『指揮できてエライ』『姉御』『惚れました』『ペットほしくないですか?』『この人存在がセンシティブ』



 ディーナの説明を聞き、ロサナたちは血の気の引いた顔をしている。

 まさか軍がここまで動いてくるとは考えていなかったのだろう。

 事態を把握したのか、メンバーの一人がディーナに訊ねた。



『そんなつもりはなかったんです。これから、どうなっちゃうんですか?』



 もう今にも泣きそうな顔で、ロサナたちもディーナの言葉を待っている。



『安心、と言えるのかはわかりませんが、やったこと事態は小さなことなので拘束こうそくするようなことはありませんよ。ただ、あなた方は歌姫でなくなるだけです』


『はぁ! ちょっと、なに言ってんのよ!』


『私たちが歌姫でなくなるってどういう意味ですか?』


『なんでそんなことになるんですか!』


『マジ?』『ここで決まることなの?』『エクシアが歌姫じゃなくなったら、なにが残るんだ?』『ホジホジ』『オツカレサマデシタ』『草』『ディーナさんとは仲良くしとけ。この人ヤベェぞ』『ホジホジ消えろ』



 三人はホッとした顔を見せてすぐ焦りの色を見せていた。



『あなた方三人は、歌姫の登録が軍から抹消されます。今後軍はあなた方三人を歌姫として登録することもありませんので、必然的にソルジャー、歌姫を養成する王立ラージュリア学園も退学となるでしょう』


『『『――――!』』』


『アイドルの方はどうなるのか興味はありませんが、私の知見では難しいのではないかと思われます。

 もしなにかの要因で続けられそうなら、全力でアイドルをやることをお勧めします』


『ホジホジ』『BAN!』「リアル永久BAN』『チーン』『炎上通り越してて草』『この軍人の虚言!』『エクシアBAN!』『エイルちゃんイジメるな!』『ロサナだけでゆるちて』『俺から推しを奪わないで』『相手がディーナさんの時点で詰んでた』『ディーナしか勝たん』


『ちょっと待って! 私は歌姫でいたいの! もうこんなことはしないから許して』


『自分のパートナーであるソルジャーをこのようなことに使ってですか?

 数日以内に通達がいくので、そのつもりでいてください。

 この件はジョルディ・エイセル総督も知るところですので、最早この決定が覆ることはありません』


『うわっ』『総督とか一番ヤベェやつじゃん』『ボスも知ってるとかオワタ』『剃るジャーは生き残ったな』『剃るジャーで済んでラッキー』『いうて剃るジャー、最初からなんか反省してたしな』



『これは違うの! あの、ドッキリっていうか――』


『ロサナに言われて仕方なくだったの』


『ティフ! あなたのためだけに歌いたいのっ! 私、あなたを守るから信じて。愛してるの』



 この配信の内容は翌日を待たずにニュースとなる。トレンドワードにはアイドルユニットであるエクシアと剃るジャー、そしてディーナがなぜか入っていた。

 そして配信から二日後、ロサナたちエクシアのメンバーは学園から去ることになる。

 この件は学園で知らない者はいないような状態になっていたのと、元々ソフィアに対して嫌がらせのようなことをしていたのもあって、三人は惜しまれるようなこともなくひっそりと去っていった。

 三人にはもうアイドルしか残っていない状態であったが、配信の内容があまりにもダメージが大きく、エクシアは契約解除というニュースが流れることとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る