第51話 アイドル降臨

 確かに話されていることは事実もあったが、当事者がティフだけでオンライン上でやるようなことではないようにシオンには思えた。

 だがそんなシオンをよそに配信は続く。

 相談者がティフを責め、コメントは収集がつかないかんじだ。

 煽るものもあれば止めるもの、様子を見るようなものとグチャグチャになっている。

 そんな状態というのもあるのだろうが、ティフがバリカンをあてていた。



『マジでイッた』『まさに剃るジャー』『草』『ロサナかわいそう』『やり過ぎ』『自分からだし』『剃るジャー草』『ホジホジ』『これやばくね』『ボンボン気をつけろよ』



 ティフが髪を刈っていく様子が配信で流れ、バリカンが進んでいくところから髪が束になって落ちていく。

 その様子を見て、シオンは違和感を感じていた。

 当事者は加害者という立場のティフだけであり、それを関係ない人が責めて今や一〇〇万人を超えている配信上で制裁を加えられている状況になっている。

 これではティフはソルジャーとしても潰れてしまうのではないかと感じ始めていた。

 自分のことではないがシオンが焦りを感じ始めていると、配信者のホットボンボンが焦り始める。



『え? ちょっとヤバいかも! なんか軍の人が家に来てるんだけど?!』


『え?』『うわ』『BAN?』『圧力か』『ヤバッ』『さすがにヤバいだろ』『草』

『家まで来てるってはやっ』『軍もみてる?』『軍はプライベートには介入しないだろ』


(ディーナさんか?)


『ごめん、とりあえずちょっと行ってくる』



 ホットボンボンが離れている間、コメントは今までにない速さで流れていく。



『相談受けてて配信中なんですけど、切らないとマズイですか?』


『場合によりますが、協力していただけるならアーカイブも残せるようにしてあげます』



 ホットボンボンとディーナの声が少し遠いが聴こえた。

 さすがにディーナが配信者の家に現れたのがソフィアとアイズには意外だったようで、驚いた顔でシオンを見ている。

 シオンがこのあとどうするのかと思っていると、ディーナからソフィアと二人分のアカウント情報が届いた。

 このアカウントで、ディーナを交えた三人で配信に上ることが書かれている。

 だが上がっていいものか判断がつかず、ソフィアはアイズと顔を見合わせた。



「アイズはどう思う?」


「本当は出ない方が無難だけど、この女性たちの疑惑はあとから憶測がついて回るかもしれないわね。

 そうなったら事務所から公式発表をしても引きずる可能性はあるかも。

 ディーナさんはその辺も考えてはいそうだけど……」


「……シオンはどうするの?」


「僕は出ようと思います。彼に対しては思うところがないわけではないですが、このままにしておくわけにはいかないので。

 ディーナさんが向こうの家に行っているということは、すでに情報を押さえたということでしょうから、たぶん出たとしてもおかしな着地の仕方はしないと思います」



 今まで映っていた会議通話の画面に新たなアカウントが表示され、その一つにディーナが映った。

 軍服を着ているので、軍の人間だというのは誰が見ても明らかだ。



『!』『付き合ってください』『記者会見のお姉さん!』『オッパイ』『どストライク』『彼氏いますか?』『ホジホジ』『好き』『かわいい』『えろ』『モデルだろ』『本日最高の撮れ高でございます』


『私がお二人を本人だと保証するため顔出ししていますので、二人は音声通話で上がっていただいて大丈夫です』


『え? あの、誰か他にも来るんですか?』



 ホットボンボンがなんのことなのかわからずディーナに訊ねる。

 特にまだなにが進んだわけでもなかったが、すでにこの配信はディーナが進行を握っていた。



『えっと……はじめまして。シオン・ティアーズです』


『え』『え?』『!』『SSランクの?』『ティフオワタ』『マジか』『本人か!』『声知らん』『剃るジャーのことは忘れない!』『グッバイ剃るジャー』『剃るジャータヒぬな』



 シオンの登場はコメントが半々に割れることになる。カメラが点いていないというのもあり、本人なのかわからないからという反応であった。

 だがこれが次の瞬間一気に変わることになる。



『――あ、あ、初めてだからわからない。これでいいのかな?』


『!』『キタァーーーー!』『え?』『マジか!』『神展開!』『アイドル降臨?!』『ホジホジ』『ソフィア?!』『マジ?』『神回』『本物?』『ドッキリか?』『これはシオンも本物』



 ソフィアが会議通話に入ってきた瞬間、コメントの流れが異常な速度になった。

 ソフィアの声は知る人が多いというのもあり、シオンも本物だという流れになる。



『えっと……ソフィアです』


『本物きたー』『挨拶えらい』『挨拶できてえらい』『同接エグい』『えらい』『自己紹介えらい』『ソフィア上がってくるんか』



 コメントの流れが一向に止まらず、もう今までのことが全部なかったかのような状態になっていた。



『あ、どうしよう! ――――っくしゅ――』


『助かる』『かわいい』『死にそう』『くしゃみ助かる』『ホジホジ』『くしゃみできてエライ』『ナイス』『かわい過ぎか』


『え? なに? 助かるってどういう意味? 恥ずかしいんだけど』

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