第14話 超売れっ子Sランクソルジャー

 翌日にはシオンとソフィアの出撃はニュースとなっていた。

 出撃したバトルフィールドランクはFであったことと、Sランクソルジャーであるシュティーナも出撃していたことが大々的に扱われている。



「ソフィアが歌姫でFランクってヤバいよな」


「あれじゃソフィアの能力がもったいない」



 ソフィアが一緒にいる間はなかったが、シオンが学園で一人になると陰口のようなことを言ってくる学生が出てきていた。

 だがこれは学園だけではなく、世論もこのような話題が少なからず出ている。

 ソフィアの歌姫の能力は、正確にはわからなくとも高いことはわかっていた。

 パートナーが見つからないという問題はあったが、歌姫としての期待は高かったというのはある。

 これにはBランクソルジャーである、ニルス・クロフォードとパートナーになるのではという噂が出ていたことも大きかった。



「シオン、あんまり気にするなよ」


「言われてることはわからないでもないから」



 イゴールが声をかけてくるが、クラスの空気も微妙な感じになっていた。



「ところでよ、生のシュティーナ様見たのか?」



 イゴールはシュティーナのファンで、どうやらこれが訊きたかったようだ。

 どれほどのファンかというと、シュティーナのグラビアがいつか出ないかと心待ちにしているくらいのファンではある。。

 この希望はわからないが、この日イゴールにとっては事件が起こった。


 あと少しでお昼休みという講義中、シオンがいる一般ソルジャー科をノックもなくドアを開け放った者がいる。

 いきなりのことに視線がそっちへと集まるが、その瞬間時間が止まったかのように静かになった。



「ここにシオン、いる?」


「は、はい!」



 シュティーナに訊かれ、ソフィアが申し訳なさそうに覗き込んできた。

 ソフィアがシオンと目が合ってシュティーナに教えると、その瞬間クラスは一気に黄色い声で覆われることになる。



「キャーーーーーーー」


「シュティーナ様がいるぅ」


「どうしてシュティーナ様が!」



 Sランクソルジャーが突然目の前に現れた事実に、学生たちは講義中というのも忘れて興奮してしまっていた。

 あっちこっちで携帯がかざされて撮影される始末。

 講師もこの事態には平静でいることはできなかったようで、おずおずとシュティーナに話しかけた。



「え、Sランクのシュティーナ様がどうして?」


「シオン、借りる」


「シオン・ティアーズですか?! シオン・ティアーズ! シュティーナ様がご要件があるようだ。一緒に行きなさい!」



 講師の言葉で今度はシオンに視線が集まっていた。



「なんでシュティーナ様が学生なんかに会いに来るんだよ」


「もしかして昨日の出撃もなにか関係あるのか?」



 いろいろ周りは騒がしくなっていたが、講師に言われたというのもあってシオンが席を立つ。

 だがシオンがシュティーナのところについたところで、タイミング悪く講義の終わりを告げる鐘が鳴ってしまう。

 当然そうなると他の学生たちも一気に席を立って集まってしまうことになった。



「シュティーナさんが学園に来たら騒ぎになっちゃいますよ」



 シオンが注意すると、シュティーナはキョロキョロして一言。



「騒がないで」


「かわいいぃぃいぃーー」


「写真お願いできないかなぁ」


「私もお話したいーー」



 だがそれは逆効果で余計に騒がしくなり、どんどん人は集まってしまう結果になる。



「これじゃぁ話、できない。来て」



 シュティーナが歩き始め、シオンとソフィアもすぐ後ろをついていく。

 向かった先は講師たちがいる部屋で、そこに行くまでの間に騒ぎはまずます大きくなっていた。

 シュティーナはさっきと同じようにドアを開け、遠慮なく足を踏み入れる。



「黙って入ってくるヤツが――――」



 当然講師たちの視線が集まり注意が飛んだが。最後まで口にされることはなかった。

 さっきの学生たちと同じように、講師たちでさえ時間が止まっている。

 口振りから学生だと思っていたのだろうが、そこにいたのはラージュリアの最高戦力であるSランクソルジャー。

 講師たちが固まってしまうのも仕方がないだろう。



「空いてる部屋、貸して」



 反応が返ってこないのを見て、シュティーナは不思議そうに顔を傾げた。

 その瞬間一気に講師たちが動き出す。



「――――第一応接室は埋まってましたか?!」


「今あそこは業者と打ち合わせに」


「すぐに行って第二に移ってもらってください!」



 講師たちによって部屋が用意され、シオンたちはゆっくり話せることになった。



「シュティーナさん、お弁当食べる時間なくなってしまうので食べながらでいいですか?」


「ちょっとシオン?! なんてこと言うの!」


「ん、いい。私もマネージャーから、貰ってきた」


「え?!」



 ソフィアは最初躊躇ちゅうちょしていたが、シュティーナもサンドウィッチを出したのを見てお弁当を広げ始めた。



「それ、ソフィア作った?」


「は、はい!! シオンはお弁当を作る習慣はないので」


「すごく、見所ある、プラス一〇点。シオン、味見させて。これ、あげる」


(作ってもらったのだから、勝手にあげたりできないな)



 シオンが訊こうと顔を向けると、すでにソフィアは小さく何度も頷いていた。



「いいですよ。それでシュティーナさんはどうして学園に?」


「ソフィア、頑張ったから会いに来た」


「それだけですか?」



 シュティーナは不思議そうに頷く。シオンはそれを見て拍子抜けというような顔をしていたが、ソフィアの顔は見るからにうれしそうだった。



「もうF、難しいでしょ」


「わかっちゃいますか」


「コントロール、難しそうだった」



 シオンとシュティーナの会話で、ソフィアが不安そうにシオンを見た。

 初めてのパートナーであり、歌姫としてちゃんとやれたかと感じたのだろう。

 それを見たシュティーナが、ソフィアの方を向いた。



「コントロール難しいのは、ソフィアの能力が高かったから。心配ない」



 そう言うと、シュティーナはソフィアの頭を撫でた。

 結局シュティーナは本当にただ会いに来ただけだったようで、これといった重要な話も特になく帰る。

 このあとシオンとソフィアが、シュティーナがなぜ来たのかと質問攻めになったのは言うまでもない。

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