第12話 二人の初陣(上)
シュティーナが出撃することが決まり、ソフィアたちは総督室をあとにした。
ディーナを先頭にして、ソフィアたちはディーヴァへと向かう。
その間ソフィアは、シュティーナのことが気になって仕方がなかった。
(本物のシュティーナ様と一緒に歩いてるなんて。本当にシュティーナ様が一緒に出撃してくれるのかな?)
シュティーナはSランクソルジャーという立場だけではなく、モデルとしての知名度も抜群である。
シュティーナが載るファッション雑誌は、毎回一〇〇万ダウンロードが当たり前という状態で男女関係なく人気が高い。
だがシュティーナはあまりそういった仕事をすることがないため、露出自体はかなり少ない。
露出が少なければ人気は落ちていくのが普通ではあるが、Sランクソルジャーということもあって、その少ない露出が希少性を感じさせているのか人気は常に高い状態であった。
ディーヴァへと乗り込み、ディーナが最初に案内したのはソフィア専用に用意された部屋。
ディーナの部屋とは違い、寝室と応接が分かれていて、大きなウォークインクローゼットが備え付けられている。
「この部屋はソフィアさん専用になります。今後はここを使ってください」
「――――」
案内された部屋は個室であり、ソフィアが他の歌姫から聞いていたのとは違った。
ソフィアが聞いていたのは何人かで使う大部屋のなかに、カプセル型の個人スペースがある部屋。
明らかに聞いていたような部屋とは違うので、ソフィアは困惑していたと言ってもおかしくなかった。
荷物を部屋に置いて、今度はディーヴァのなかを案内される。
前回と違い今回は歌姫として乗艦しているというのもあって、いろいろとディーヴァについての説明がされた。
「ディーヴァにはソルジャー、歌姫に必要な物はすべて買えるように準備されています。それこそ
ディーヴァ艦内の案内が終わり、カフェでゆっくりしていると艦内放送が流れる。
ソフィアもディーナと自室へと戻り、歌姫として出撃に備える。
「これはソフィアさん専用のイヤーデバイスになります」
ディーナから受け取り、ソフィアはイヤーデバイスを耳に着けた。
イヤーデバイスにはいくつかランクがある。歌姫や奏者のデバイスは通信機能の他に、歌詞や譜面といったデータにアクセスして投射する機能がある。
ソルジャーに関してはこれらの機能はないが、作戦に関する情報にアクセスできるようになっていた。
通信には優先権や制限がイヤーデバイスにはあり、優先権のトップにあるのはデーヴァ司令室で、続いてヴァンガードワンとなっていく。
作戦への影響をなくすため、ソルジャーと歌姫間の通信はできない仕様であった。
「ソフィアさんのデバイスは、一つだけ他の歌姫と違う機能がついています」
「そうなんですか?」
「私のデバイスはシオン様との専用回線があるのですが、あなたのデバイスも私との専用回線が繋がっています」
「そうなんですか? どうして私だけ……」
ソフィアはイヤーデバイスもそうであったが、少し気になっていることがあった。
(この個室もそうだけど、なにか少しだけおかしい気がする。私だけディーナさんと回線が繋がっているのもそうだし、どうして司令室とかではなくてディーナさんなの?)
「そのときがきたら知ることになります」
ディーナの答えはなにかあるという言葉であったが、それについての言及はなかった。
説明がが終わったところでドアがノックされ、ディーナが部屋のドアを開ける。
ディーナが戻ってきたあとに続いて入ってきたのは、バトルスーツ姿のシュティーナ。
その姿にソフィアの視線は釘付けの状態になっていた。
「か、格好いいです!」
「ありがと」
シュティーナはソフィアを見て不思議そうな顔をしていたが、ソフィアはファン丸出しだ。
Sランクソルジャーの出撃はかなり少ない。SランクやAランクのアスラの襲撃自体少ないため、年に三回出撃があるかどうかという頻度である。
そのためSランクソルジャーのバトルスーツ姿というのはかなりレアであった。
バトルスーツはピタッとしたもので、身体のラインが一目でわかってしまう。
(肩幅なんかほとんど私と変わらないくらい細い……それなのにアスラと戦うSランクソルジャーなんだよね)
腰のところが括れていて、そこからお尻へとなめらかな女性的ラインが出ている。
身体の線だけ見れば、とてもアスラと戦うソルジャーとは思えないくらだとソフィアは感じていた。
そしてそう時間を置かずに、今度はシオンが戻ってくる。
一度司令室で見た姿。シュティーナは白を基調としたバトルスーツだが、シオンはDからFランクが使う濃い灰色だ。
「ねぇシオン? いつも持っているけど、その後ろの
「小心者なので、予備がないと落ち着かないんですよ」
「ふ~ん。人によってそういうのってあるもんね」
『総員
出撃するソルジャー、歌姫及び演奏者は各出撃ハッチにて待機せよ』
緊張、不安、恐怖と言っても間違いではないだろう。
歌姫の強化はソルジャーの生還率にも直結する。つまりこれは、シオンがソフィアの魔力強化に命を預けたと言っても過言ではないこと。
その責任と初めて向かうバトルフィールドに対する緊張で、ソフィアの胸はうるさく鳴り続けていた。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
シオンが水を差し出して、ソフィアはそれを一口飲み込む。
「まずはバトルフィールドの空気に慣れるところから始めましょう。それに緊張は悪いことばかりでもないですし」
「シオンもそうだった?」
「今でも緊張はしていますし、緊張感を持つことは大事です。
大事なのは適度な緊張感で、それを飼い慣らすことでしょうか。
でもきっとこれって、何万人のファンを前に歌ってきたソフィアさんならもうしてきたことだと思いますよ?」
(ライブと命を懸けるバトルフィールドが同じってこと? でも緊張のなかで高いパフォーマンスを出すっていう意味では、確かに同じ?)
「ありがとう。やっぱり実戦経験者って感じするね」
ソフィアはシオンたちとわかれ、歌姫が集まる出撃ハッチでその時を待つ。
ニュースやネット上で噂になっているのもあって、ソフィアが現れて歌姫たちの視線が集まっていた。
『――――これよりディーヴァはバトルステージ形態で着陸する。総員衝撃に備え、出撃体勢を取れ』
ハッチには天井へと固定されている棒があり、それにはいくつも取手がついている。
ソフィアは他の歌姫たちと同じようにそれを握り、着陸によるディーヴァの揺れをやり過ごす。
目の前のハッチが開き、そこから太陽の光が差し込んでくる。
歌姫たちが順に出ていき、ソフィアも自分に割り振られたステージへと出た。
青い空が広がり、眼下ではソルジャーたちが身体強化によるスピードで出撃している。
それを見たソフィアは、思わず息を呑んでいた。
(――――速い。実際に見ると、こんなに違うものなの……これでもFランクバトルフィールド)
「え! ウソ! ねぇ! 後衛にシュティーナ様がいるっ!」
「見かけた人がいたらしいけど、本当に出撃してる!」
後衛の先頭で、すでに
なにをしているわけでもなく、ただそこにシュティーナはいるだけ。
それだけでソフィアは、安心感のようなものを感じていた。
(あれがSランクソルジャー)
バトルフィールドの映像を流すビットがディーヴァから放たれ、前衛の映像がディーヴァの前に拡大表示される。
奏者の伴奏がディーヴァによって鳴り響き、バトルフィールドを包み込む。
同時に前衛のソルジャーたちが魔法を展開し、戦闘が始まることをソフィアは理解させられる。
今まで観てきた映像とは違い圧倒的な現実。
向かってくるアスラを見て、ソフィアは圧迫感を覚えて息が詰まる思いだった。
歌は始まっているが、ソフィアは第一声が出ない。
「落ち着いて、ゆっくり」
隣の歌姫が、備え付けられている水をソフィアに差し出す。
言葉は短く、すぐに歌に戻っていたが、手はソフィアを安心させるように背中に触れている。
ソフィアは震える手でそれを受け取り、ゆっくりと一口飲んだ。
水が喉を通って
一度深呼吸をして、もう一度ソフィアはバトルフィールドに視線を向けた。
(今度こそ、私は歌う)
歌姫として踏み出すソフィアであったが、これはシオンも同じであった。
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