第5話 特別なソルジャー

 去っていくシオンの背中をソフィアはジッと見ている。

 それはあっという間で、すぐにシオンの姿は見えなくなった。

 魔力を持ちながらただ見ていることしかできず、気づかないうちにカバンを強く握りしめる。

 だがずっとシオンの家の前で立っているわけにもいかないので、ソフィアは大通りに向かって歩き始めた。



「…………」



 そんなソフィアの隣を三台の黒塗りの車が通り過ぎる。

 三台の車は一〇メートルないくらいのところに停まり、真ん中の車から一人の女性が降りてきた。

 紺のタイトスカートタイプの軍服を着ていて、長い真っ直ぐな金色の髪を髪留めでアップにしている。

 モデル顔負けの美貌と言ってもおかしくはなく、身体の線は細いのに妖艶な肉感を感じさせた。



「ソフィア・エーベルハインさんですね?」


「――――はい」


「国防軍所属のディーナ・リュシールと申します。いきなりで申し訳ありません。こちらが私の所属になります」



 ディーナ・リュシールと名乗る女性がカード型のデバイスを操作し、その内容をソフィアに見せる。


 氏名/ディーナ・リュシール 年齢/二六歳 国/ラージュリア

 所属/ラージュリア軍総督付参謀 国家特別戦闘特殊支援部隊



「総督付参謀?」

(なんでこんな人が私のところに来るの……)


「そっちは片手間で動いているものなので気にしないでください。私の本分は支援部隊の方ですから」


「そ、そうなんですか…………それで……私にどのようなご要件なんでしょうか?」



 ソフィアの目は明らかに不安そうな色を宿し、まるで身を守るかのようにカバンを胸の前で抱いていた。



「あなたはソルジャーシオン・ティアーズに、パートナーの申込みをしましたか?」



 ディーナがソフィアをジッと見てくる。それはただ見ているというようなものではなく、なにかを宿した目。

 意志であるとか、なにかを見抜くような、なにか力がある視線だ。



「……えっと、昨日断られています」


「なるほど。あなたは確か相性がいいソルジャーが見つからないと言われていたと思いますが、相性値はどうだったんですか?」


「簡易式の機器で推奨値はクリアできていました……」


「だから諦めずにシオン・ティアーズと会っていた……ということですか?」


(え? なに? 私なにか悪いことしちゃった?)

「はい……」


「――――そうですか、わかりました。軍としてはシオン・ティアーズに第一歌姫を置いていただきたいと考えています。

 シオン・ティアーズは特別なソルジャーです。こうして私が動いているくらいには。

 それでもあなたは、シオン・ティアーズの歌姫になろうと思いますか?」


(シオンが特別? それよりもどうするのが正解?)



 ここで退くことが正解なのかとソフィアは考える。だが今まで推奨値をクリアしているソルジャーは一人もいなかった。

 ソフィアは今まで二〇〇人以上のソルジャーから第一歌姫の申し込みを受け、それ以外でも推奨値をクリアしているソルジャーを探し続けてきている。



(もしかしたら、他に推奨値をクリアしているソルジャーとは会えないかもしれない……)

「彼はやっと出会えたソルジャーだから、ここに関して私は退くつもりはありません。

 彼に第一歌姫ができて、断られたらどうしようもないですけど……」


「――――わかりました。軍としてもあなたがシオンティアーズの第一歌姫になるなら歓迎するところです。

 今から私と同行していただけますか? あなたにバトルフィールドがどういうところなのか見せてあげます」


「それって、彼がさっき出撃したやつですか?!」


「ええ。無理にとは言いませんが」


「行きます。連れて行ってください」



 ソフィアがすぐに答えると、ディーナは少しだけ表情を崩した。



「ディーヴァの発艦までそう時間はありませんからすぐ出ます」


「わ、わかりました」



 ソフィアはディーナの後ろを歩き、さっき降りてきた車の後部座席に乗り込んだ。



「私も出ます。ディーヴァに向かって」


「はっ! 了解であります」



 ディーナが指示を出したのは、同じように軍服を着た運転席にいる男性。

 前後に挟まれる形で、ディーナとソフィアを乗せた車は走り出した。



「先ほども言いましたが、これから私たちが向かうのはディーヴァです」


「はい」


「とは言っても、ソフィアさんはステージに上がることはできませんよ」


「はい、わかっています」


「ディーヴァに到着後、まずは私に割り当てられている部屋で待機することになります。

 このことはシオン・ティアーズも知らないことなので、鉢合わせにならないようにします」


「わかりました」



 車が基地に着くと、他よりも敷地内は明るく照らされていた。

 そのなかでも特に光を放っているのが、これからソフィアも乗り込むディーヴァ。

 ディーヴァの周囲では、慌ただしく出撃の準備が進められていた。


 このディーヴァこそ、アスラとの戦闘を最も象徴していると言える。

 艦の下には模様のような柄がついた巨大な輪があり、これが回転することでディーヴァを浮かせていた。

 そしてこのディーヴァは、バトルフィールドでは歌姫のステージへと変わる。

 ステージとなるディーヴァはビットと呼ばれる物を射出し、バトルフィールドの映像をリアルタイムで送信する。

 このディーヴァこそが、ソルジャーや歌姫をサポートするために用意された最大の支援艦だった。



「私が部屋に行くまで、シオン様が動いたらすぐ報告するように。ソフィアさん、行きますよ?」



 ディーナがイヤーデバイスで指示を出し、ソフィアはディーヴァ艦内へと足を進めた。

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