告白

「………凛?どうしてここに?」

 俺は急いで涙をぬぐった。

「隣、座っていい?」

 俺は小頷いた。凛は俺の隣に座った。いい香りがする。

「あのね、私蒼君に話さなきゃいけないことがあるの」

「うん」

 凛は深く息を吸って、話始めた。


「まずは悠馬とのことなんだけど………」

 凛が悠馬の事を呼び捨てで呼んでいることを知って胸が痛んだ。でも今は、しっかり凛の話を聞こうと思った。もうこれ以上、後悔はしたくない。

「悠馬と私は同じ病院で生まれたの。私さ、お腹の中にいるときに問題があったみたいで、お母さんが長期入院してたんだって。その時に悠馬のお母さんも同じ感じで仲良くなったみたい。だから子供のころからよく遊んでたんだ。幼馴染ってゆうのかな?」

 凛と悠馬が幼馴染なんて初めて知った。2人とは相当な時間関わっているはずなのに………。少し気持ち悪いような不思議な気分だった。

 思い返してみれば凛と悠馬の話はしたことがないし、悠馬との凛の話は全て俺の惚気話だ。でも、なぜ2人とも言ってくれなかったのだろう………。


「高校に入ったらさ、悠馬がいてさ、私同じ学校だなんて知らなかったから驚いたの。聞いたら私に合わせたみたいで………変な話だよね。それで、悠馬に幼馴染ってことはとりあえず言わないでおこうって言われたの。その時は断る理由がなかったからOKしたんだけど、ちゃんと蒼には話すべきだったって思ってる。ごめんね」

「ううん、大丈夫だよ」

「ありがとう。それでね、しばらくは何もなかったんだけど、蒼君と付き合い始めたらやたらと連絡してくるようになったの。最初は祝福してくれてるのかなって思ったんだけど、なんか変で………明日のデートはどこに行くの?とか、今日は幸せそうだねとか………。でさ、なんか気持ち悪かったからなんで毎日聞いてくるの?って聞いたの。そしたら凛は蒼に騙されてるって………。もちろん信じられなかったよ、信じられなかったけどその………」

 凛がうつむいて言葉に詰まってしまった。

「いいよ、大丈夫。続けて」

 俺は冷静に、凛に優しく声をかけた。

「蒼君の事まだよくわかってなかったから疑っちゃって、ごめんなさい。付き合いが悠馬との方が長いし、悠馬は1年生の頃から蒼君と友達だったから………。それで悠馬にデートの事とかを報告して、蒼君についてよく聞くようになったの」

 凛の声は少し震えていた。俺はちょっとだけ凛に近づいた。


「でもね、その後おかしいって気づいたの。悠馬の言ってることが結構めちゃくちゃだし、現実と矛盾してるなって。それで友達にも相談したらおかしいって言われて。だから悠馬におかしくないって言ったの。そしたら、だって嘘だもんって言われて………」

 凛は涙声になっていた。

「別れろって言われた。別れないと今までのメッセージ全部蒼君に見せるって脅されて、私蒼君に嫌われたくなかった、それだけは耐えられなかった。嫌われるのが怖かった。ずっと好きでいてほしかったの………」

 そう言って凛が抱き着いてきた。こんな時なのに心臓が跳ねる。体温が上がっていく。

 凛は強くて何でもできる、すごい女の子だと思っていた。でも、本当は弱くて、誰かが助けてあげないといけない可愛い女の子だ。やっぱりこの子は、凛は俺が守ってあげたい。

「ずっと好きだよ」

 思わず口からこぼれた。

 凛は驚いたような顔をした。

「本当に………?私酷いことしたのに?」

「本当だよ。なんで嘘つかなきゃいけないのよ」

 そう言って俺は笑って見せた。

「嬉しい」

 凛は俺の事をさらに強く抱きしめた。いろいろやばい。

「ずっと不安だったの。別れてから蒼君に嫌われちゃったんじゃないかって………。でも、悠馬がずっと探ってきてて、私が振っちゃったから、あんな画像蒼君に見られたら絶対嫌われちゃうじゃん、だから下手に動けなくって」

「そうだったんだ。気づいてあげられなくてごめんね」

「ううん。実はね、嬉しかったこともあったんだよ」

 凛の顔がにやけている。

「なになに」

「えー?分かんないの?クリスマスだよ。蒼君が助けてくれて、すごく嬉しかった。しかもさ、帰ってポケットなんか入ってるって思ったら、私が欲しいって言ってたネックレスでさ!幸せだった、生き返ったよ。ありがとう」

「喜んでくれてたならよかった。あれ結構勇気がいる行動だったんだよ?

「だよね、本当にありがとう。蒼君めっちゃカッコイイ!」

 そう言って凛は目を輝かせた。と思ったら今度は頬を膨らませた。

「でもあれはショックだったなあ、蒼君別れてからだんだんと私に興味なくなったでしょ!まあ私が振っちゃったから自業自得なんだけど………。だからあわてて実行委員立候補したの」

「そういうことか、あの時は本当にびっくりしたよ。ごめんね」

「ううん。………これからは私だけを見てね?」

 凛が顔を真っ赤にしてそういった。ああ、可愛すぎる………。

 俺は凛の頬にキスをして、強く抱きしめた。

「もう凛しかみれないよ」


* * *


 その後、俺は近藤たちにこのことを報告した。近藤たちは笑顔で「よかったなあ~」と言ってくれた。俺よりも喜んでくれて、祝福してくれた。今度ラーメンを奢ろう。


 悠馬とはあれから1度も会っていないし、連絡もしていない。

 凛が屋上に来たのは、悠馬が連絡したからだったようだ。

 悠馬は最高の親友だった。人一倍優しかった。その優しさを俺が壊してしまったんだと思う。

 もっと悠馬の事を思うべきだったと何度も後悔した。でも、後悔したところで何も変わらない。

 もう1度ちゃんと話して謝ろうとも思った。でも、俺からは関わらないのが1番だと思った。

 悠馬が今俺の事をどう思っているかは分からない。俺と話すことでまた悠馬を傷つけてしまうかもしれない。だから、『関わらない』という選択が、悠馬の事をよく考えられていると思った。


 凛とは毎日一緒に自習をしたりと、前付き合っていた時のように過ごしていた。

 でも1つ、前とは明らかに違うことがある。それは心の距離だ。

 前はお互いに気を遣っていたような気がした。だから近いようで遠かった。俺から見ると凛は、彼女というよりは『理想の彼女』であった。

 でも今は違う。凛は俺の『彼女』だ。

 俺たちは言いたいことを何でも言える、世界で1番仲のいいカップルだ。

 周りからの目線も変わった。前は『理想のカップル』と言われていたが、今は『バカップル』と笑われている。

 俺と凛はお互いの事を考えて、言いたいことを言えるようになって、2人のペースで少しずつ進んで、俺たちらしい関係を作ることができるようになった。


「ねえ蒼!今何か考え事してたでしょ?」

「え?そんなことないよ?」

「嘘って顔に書いてあるよ」

「ばれたかあ、やっぱ凛にはかなわないなあ」

「当たり前でしょ?だってずっと蒼のことみてるんだもん」

「さすが俺の彼女」

「へへ、もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

「もお、本当に可愛いなあ!」

 

 

 

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