嫉妬

 あの後、俺はそれほど噂を気にすることなく、無事体育祭を終えることができた。

それよりも凛の事が気になっていた。俺はなんであんな事をしてしまったのだろう………。


 体育祭が終わって、クラスはだんだんと落ち着いてきた。多くの生徒は受験勉強に向けて気持ちを切り替えている。

 俺はいつものように勉強していた。だが、あの日以来凛の事が気になるようになり、気づいたら凛の事を見ていることがあった。


 そして夏休みを迎えた。学校では自由参加の夏期講習が行われている。高三になると塾に通っている人が多く、クラスの半分も来ない。

 俺は塾に通っていないので毎日学校に行っていた。でも、このままでは受験に対応できないと思うので、どこかの夏期講習に行くか、夏休みが終わったら塾に入ろうと思っている。

 夏期講習には悠馬が来ていた。だから、放課後一緒に自習したり、ちょっと遊びに行ったりと楽しく過ごすことができた。

 そして、驚くことに凛も来ていた。俺はあの真面目な凛の事だからてっきりどこかの夏期講習を申し込んでいくものだと思っていた。

 俺はクラスの人数が少ないこともあり、高頻度で凛の事を見てしまっているような気がした。もちろん凛が振り返ってくることはない。でも、見ているだけで十分だった。振られたはずなのに新たな恋をしたような気分だった。幸せだった。


 夏休みが終わった。今日からは全員が学校に登校してくる。俺は新たな気持ちで学校に向かった。

 クラスに着くと、近藤たちがいつものように話しかけてきた。

「蒼~久しぶり」

「久しぶり~元気だった?」

「うん。実はさ、あんまり嬉しくない話が入ってきたんだよ」

 そう言って、近藤たちは表情を暗くした。

「前に蒼の噂流れたじゃん?あれ悠馬が流してたっぽくって」

「………え?」

 え、悠馬が流してた?ん?聞き間違いかな………?

「俺たち夏休みにさー他クラスのやつと遊んだんよ、それで噂の話になって、悠馬が一番騒いでたって、言いだしも悠馬じゃないかってみんな言っとったよ」

「だからみんな信じたんかねー、悠馬って蒼と一番仲いいやん」

「………でもまだ確定じゃないんだよね?あくまで推測でしょ?」

「そうだよ」

 俺は信じられなかった。あんなに優しくて、仲良くしてくれる悠馬が噂を流すなんて………。信じたくなかった。


 それからしばらくの間、悠馬の発言に少し気にかけながら過ごした。もちろん悠馬に変なところはなかった。変なところどころか「大丈夫?最近疲れてない?」と気にかけてくれた。本当に優しい。近藤たちの言っていることは間違っていると思った。


 だが、約1週間後。近藤たちから衝撃のものを見せられた。それは悠馬と凛のメッセージのやり取りだった。

〈もう蒼とは関わってない?〉

〈うん〉

〈本当に?実行委員一緒にやってるみたいじゃんなんで?〉

〈あれはしょうがなかったの、じゃんけんで負けちゃって〉

「これ、西野の友達からもらった。悠馬の事探ろうと思って、聞いたらゲットしたんだ。西野ずっと悠馬の事で悩んでたみたい」

 思考停止した。何が何だか分からない。何を信じればいいんだ………。

 あの優しい悠馬は嘘?そんなわけない。じゃあこの画像はフェイク?でも誰がこんな画像を?………………悠馬が俺の事を嫌い????????

「蒼大丈夫か?」

「ああ、ごめん、ぼーっとしてた」

「まあ、ショックだよな」

「あ、うん」

「とりあえず悠馬と1回ちゃんと話してみたら?」

「そうだな、放課後にでも話してみようかな」

 そうだ、本人に聞くのが一番だ。そうしよう。


 その後の授業はずっと悠馬の事を考えていた。考えているうちにだんだんと冷静になってきた。悠馬が俺の事を嫌いかもしれないという事実も受け入れられるように心の整理がついた。

 そして迎えた放課後。いつものように悠馬が待っていてくれた。

「蒼~お疲れ」

「お疲れ、ちょっと話があるんだけどさ、」

「お、おう」

 俺たちは屋上に向かった。案の定、人は誰もいなかった。

「あのさ、俺の噂流したのって悠馬なの?」

 俺は単刀直入にきいた。悠馬は一瞬青ざめたような気がした。

「え?そんなわけないじゃん、なんで?」

「そうだよね、」

「おん」

 俺はこの少しの会話で悠馬の事が信じられなくなっていた。だんだんと冷静だった頭が混乱してきた。

「じゃあさ、話変わるんだけどさ、この画像は何?」

 悠馬は画像を見ても表情を変えなかった。

「え?俺と凛との会話、かな?はは」

「この会話の内容はどういうことなの?」

「え?そのままだけど?」

 俺は怖かった。親友であるはずの悠馬が別人のように見えてきた。

「あーあ、全部ばれちゃったかあ、つまんない」

「何でこんなことした?」

 俺はとても感情的になっていた。

「え?うざかったから?」

「は?意味わかんないんだけど」

 普段使わないような言葉が次々と浮かんでくる。

「蒼はさ、運動もできて勉強もできていいよな、みんなから愛されて。俺も中学の頃はそういう存在だった。でも高校ではお前にその座を奪われた」

 は?何を言っているんだこいつは。

「おまけに凛と付き合い始めてみんなにちやほやされて、うざかった。お前は知らなかっただろうけど俺はずっと凛の事が好きだった。だからお前が憎かった」

 悠馬の声がだんだんと大きくなっていき、涙声へと変わっていった。

 俺はそこで我に返った。悠馬は辛かったんだと思った。なんで今の今まで気づいてあげられなかったんだろう………。凛の事もそうだ。凛もずっと悩んでいたはずなのに………。

「だからお前に嫌がらせしてさ、最後にネタ晴らしして絶望させてやろうと思ったんだよ。優しい親友が実は嫌がらせの正体でしたって、最高だろ?でもばれちゃったかあ、残念だなあ」

 悠馬の頬に涙が伝う。

「そんなことないよ。悠馬にはいいところがいっぱいあるよ」

「そんな言葉、お前に一番言われたくないよ」

 ああ、また俺は悠馬を傷つけてしまった。

「なあ、俺蒼にこんなに酷いことしたんだよ?何もしなくていいのか?殴ってこいよ」

 そういって悠馬は俺に真っ赤になった頬を突き出してきた。

「………できないよ」

「………大っ嫌い」

 そう呟いて悠馬は行ってしまった。


 大切な親友を失ってしまった。どうすればよかったんだろう。悠馬のあの優しさは何だったんだろう………。

 俺は多分悠馬の事を考えてあげられていなかった。今思い返せば俺は相談に乗ってもらってばかりで、悠馬の悩みなど1度も聞いたことがなかった気がする。

 後悔でいっぱいだった。1つ1つの行動を振り返る。あの時ああだったら今も仲良くできていただろうか。

 俺は座り込んで動けなかった。目から涙がこぼれてくる。なんでだよ………


 突然、屋上のドアが勢いよく開いた。

「蒼君!」

 みるとそこには凛が立っていた。

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