電話

 ご飯を食べ、お風呂に入り、ホットミルクを片手に勉強していた。

 気持ちはある程度落ち着いている。だが、やはり上手く集中できなかった。

 くるわけのない凛からのメッセージを期待して、何度もスマホを確認した。


 このまま勉強していても意味がないと思った俺は、何か別の事をしようと思った。

 一人だと、凛の事ばかり考えてしまう。だから、誰かと電話でもしようと思った。まあ誰かと言っても、相手は悠馬しかいない。早速、悠馬にメッセージを送った。

〈今暇?通話でもしない?〉

 返事はすぐに返ってきた。

〈ごめん、今ネッ友とゲームしてる〉

〈おk〉

 電話できるものだと思っていた俺は、悲しくなった。確かに、悠馬が友達とゲームをしていることなんて、よく考えれば分かることだった。しかし、これがさらなる孤独感を与えた。


 ああ、だめだ。自然と涙が溢れてくる。こんなにつらい気持ちになったのは、生まれて初めてだった。

 もう何もやりたくないし、考えたくもない。

 今は22時。普段は24時頃に寝るため少し早いが、もう寝てしまおうと思った。


 ベットに入り、電気を消し、目をつぶった。しかし、なかなか寝付けない。いつもより早い時間だから、というのもあるが、やはり凛の事を考えてしまうからだろう。

 考えたくなくても考えてしまう。世の中の人々は失恋をした時、どう乗り越えているのだろうか………。俺はもう生きていけないかもしれない。だんだんと気持ちが病んでいった。


 すると突然、電話が鳴った。それは凛からだった。

 「なんで掛けてきたんだろう」という疑問が浮かぶ前に、受信マークを押していた。


 「もしもs、うわっビデオ通話じゃん」

 俺は顔が熱くなった。まあ、電気が消えているため凛には分からなかっただろうが………。

 付き合っていた頃にビデオ通話は1度もしたことがなかったので、とても緊張した。

 画面越しに凛の顔が映っている。本当に美人だ。約1日見ていないだけなのに、なんだか懐かしい感じがした。


『あ、いきなりごめんね。出てくれてありがとう』

「うん。それで、どうしたの?」

『私、今日学校休んじゃったじゃん?だから今日の分のノートを見せてほしくて………』

 なるほど、そういうことか、と思った。と同時に、「なんでビデオ通話?」や、「なんで友達じゃなくて俺なんだ?」という疑問が浮かんできた。まあ、今の俺にそんなことを聞く勇気などないのだが………。


「わかった。ちょっと待っててね」

 俺は凛に言われた通り、ノートを映した。 

『ありがとう。本当に助かる!』

 そう言って凛は微笑んだ。ああ、可愛い………。

『ノート今から写すから、もうちょっとだけ待っててくれない?』

 「写真を撮ればいいじゃないか」と思ったが、俺は凛と通話していたかったので、

「大丈夫だよ」

と答えた。ああ、ノートを写すことに集中している凛が尊い………。


* * *


『写し終わった!』

「お疲れ様」

『うん!今日体調崩しちゃってさ、本当に大変だった』

「え?大丈夫なの?無理はしちゃだめだよ」

『うん。心配してくれてありがとう。これからは、体調管理しっかりします!』

 俺の事が気まずかったわけではない、ということが分かり、安心した自分がいた。一方、本当に体調が悪かったからなのか、と疑う自分もいた。


『あのさ、この電話の事は誰にも言わないで欲しいの』

 どうゆうことか分からない。「なんで?」と聞きたい。だけど、凛の口調や表情がとても真剣だったので、

「わかった。誰にも言わないよ」

と笑顔で答えた。


『ありがとう。じゃあ、またね』

「待って」

『ん?』

 やばい。凛ともう少し話していたかった俺は、思うがままに言葉を発してしまった。えっと………

「明日は学校に来れそうなの?」

 たくさん聞きたいことはあったが、俺は普通の質問をした。もちろん聞く勇気がなかったからだ。

『うん。体調良くなったから』

「そっか、それはよかった。今日は早く寝るんだよ?」

『うん。もう寝る』

「よかった。じゃあ、おやすみ」

『おやすみ、蒼君』

 こうして通話が終わった。

 俺は心臓がドキドキしていた。

「最後に名前を呼んでくるなんて、反則だろ………」


 その後、再びベットに入り、電気を消した。今の通話で体力を使ったのだろう。今度はすぐに眠りにつくことができた。

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