第37話 サソリの相手をしている暇なんてないッ!
ジェイズはアジト周りの片づけに手を貸すからと言っていたのでその場で別れた。
それから、わたしとビリーは宿へと戻って姉妹を起こす。
二人がしっかりと目を覚ますのをまってから、キャシディ領へと急いで向かう旨を伝える。
アースレピオスはいずれ騎士が回収するかもしれないけれど、その騎士が横領する可能性はゼロじゃない。
なので、やはり一番確実なのはビリーが回収することだろうという話になった。
そして、枯れ木の森のそばに黒触があるらしいってことを二人に伝える。
ナージャンさんもナーディアさんも難しい顔した。
気持ちは分かる。だけど、そこへビリーは自分の思っていることを伝える。
「二人が土地を意地でも取り戻したいと思うなら、騎士団がキャシディ伯爵を捕らえるより先に、土地を取り戻すべきだ。
引き継いだ別の貴族が管理をしはじめようものなら、自分がした約束ではないから――と反故してくる可能性があるからね」
アースレピオスを取り戻すのは、わたしとビリーにとっては決定事項。だけど、二人のそもそもの目的は土地を取り戻すことだ。
「幸いジェイズと出会えて、二人の集めた資金は取り戻せた。
食事をしたら急いで物資の補給をする。それが終わったら、
どちらにしろ、目的地はキャシディ領。その領都。
だからわたしたちはビリーの言葉にうなずき、それぞれに準備を始めるのだった。
そうしてわたしたちは、貸獣屋で馬を借り、予定通りペイルダウンを出た。
もしかしたら――本来はこんなにすんなり出られなかったかもしれない。
けれど、遺塔の一つが折れたり、ゴールドスピーカー一家のアジトが潰れたりして混乱しているおかげだ。
あの感じだと、ゴールドスピーカー以外の組織にもダメージ大きそうだけどね。だから余計に町は混乱してるのかもね。
誰にも邪魔されずジェイズと情報交換ができたのも、落雷のおかげだと言えるだろう。
途中で野宿を一泊挟みつつ、出来る限りスピードを上げて領都キャシディタウンを目指す。
「領都に入ったら馬のまま銀行を目指す。書類とかは揃ってるね?」
「もちろんよぉ! 出発前にぃ、確認したわぁッ!」
「はいッ! 宝石類もペイルダウンですべて換金してきました!」
二人の返答にうなずき、ビリーは前を見る。
「書類の提出を邪魔する者、支払いをゴネて邪魔する者は俺とシャリアが何とかする」
「邪魔をするのはいいけど、殺しは基本しないわよ?」
「もちろん。俺も無用な殺しをする気はないよ」
いっそ、キャシディが失脚したら、領地をベル家で貰うのものいいかもしれない――と考えたりもするけれど……。
「シャリア。飛び地の領地経営って面倒くさいって聞くぞ」
「なんで考えてるコトわかったのッ!?」
「すっごい分かりやすい顔してたと思うけど」
何はともあれ、日が暮れ始める少し前――
そろそろ銀行が今日の営業を終了しようとするくらいの時間。
わたしたちはキャシディタウンへと入った。
「銀行の場所は?」
「私と姉さんが先行しますッ!」
そして、二人が馬を駆る。
周りの人たちに迷惑が掛かっちゃうけど、のんびりしている暇もない。
「ナーデちゃんッ、気をつけてぇ! 銀行の前、マトモじゃなさそうなのがいるわぁ……!」
「あいつは……」
見覚えあるあの義手の男――
それを見、わたしはためらい無くマリーシルバーを抜いて、口づける。
「ビリーは二人をお願いッ!」
「分かったッ!」
義手の男――
「甘いッ!」
飛んでくるナイフへ向けてマリーシルバーを撃って弾く。
突如始まった戦闘に、町の人たちが悲鳴をあげる。
だけど、わたしたちはそれを気にせずに、駆けていく。
わたしがナイフを弾いた直後、ビリーは馬の背に立ち、大きく飛んだッ!
「サソリの相手をしている暇はないんだッ!」
白刃一閃ッ!
常人では捕らえきれない速度で繰り出された刃による早撃ちを、ハーディンは躱してみせる。
そこへ、わたしは馬ごとぶつかっていく。
ハーディンはそれも何とか躱すけれど、これでわたしは姉妹とハーディンの間に入ったッ!
「小娘ぇッ!」
その際、チラリとビリーを見れば、彼は真顔でうなずき、馬から下りたラタス姉妹を伴って銀行の中へと駆け込んでいった。
どうしてハーディンがここで待ちかまえていたかなんて考えるのは後回しだ。
こいつは明らかにわたしたちを標的にしている。
ならば――迎撃するだけだッ!
馬による体当たりは躱されちゃったけど、問題ないッ!
ビリーのマネじゃないけれど、わたしも馬の背に立ち――
「急いでるのよッ、
眼下のハーディンに向けて一発
「ぬかせッ!」
それは義手で防がれるけど――わたしは即座に馬の背を蹴って飛び上がり、空中からハーディンの旋毛を狙うように
「くそッ!」
毒づきながらもハーディンはそれを躱す。
同時に、彼の義手が淡く輝く。
それは、
つまるところ、あの腕はSAIシステムを搭載しているのだろう。
わたしは警戒しながら、地平線に沈みゆく赤い太陽を背にして着地する。
この時点でマリーシルバーに僅かな
空中で銃撃してから着地までに込められる量なんてたかがしれているけれど、今はそれで充分だ。
ハーディンは義手を掲げて何かしようとするものの、太陽の光を受けて目を眇めた。その瞬間、致命的なまでの隙が生まれる。
即座にシルバーマリーを構えた。
いや、構えると同時に
「
ためらわず、もう一発。
こちらは
だけど、それで充分。
初段の狙いは喉。
それに気づいたハーディンは、義手に込めた
「ぐッ!?」
マリーシルバーの放った弾が義手の掌を貫通しそうなことに気づいたのか、首を動かした。
――わたしの、狙い通りに。
彼は自分の掌を貫通した
そこは、二発目の弾の通り道だ。
「……ッ!!」
ハーディンの目が驚愕に見開かれるが、即座にそれも躱そうと動く。
だけど、まだわたしが構えているのを見て、ハーディンは判断に迷った素振りを見せる。
二発目も避けようと想えば避けられる。だが、避けた先をまた狙われるのではないか――と、きっとそんな風に考えたんだと思う。
でも、その迷いは致命的だ。
ダメージ覚悟でも、思いついた動きをするべきだった。
「が……ッ!」
結果――シルバーマリーの歌は、彼の額に穴をあけた。
指名手配されるくらい殺人を重ねてきた男の幕切れにしてはあっけなかったかもね……。
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