第35話 激しい雨のあと
吹き
乾いた大地と赤茶けた岩ばかりが増えていっているこの時代――大地だけでなく空も乾いているというのに、これだけの雷雨というのは珍しい。
もちろん、珍しいだけで降らないというワケじゃないんだけど。
昼過ぎから降り出した雨は、夜になってなお一層の激しさをまして降り続いていた。
「シャリアちゃんは……平気なのぉ……?」
わたしが窓を叩く激しい雨風を眺めていると、ベッドの上で枕を頭に乗せて震えているナージャンさんが声を掛けてくる。
「むしろ雷が怖いっていう感じが良く分からないんですけど。
二人の場合、自分で雷を起こせるじゃないですか」
「それとこれとはぁ……」
「ワケが違いますので……」
息ぴったりに首を振る二人。
常にクールな感じナーディアさんまで、お姉さんと似たようなポーズでベッドの上にうずくまっている。
二人とも何とも可愛い感じの姿である。
「これは一晩中降り続きそうだなぁ……。
朝には上がっててくれるといいんだけど」
ピシャゴロと雷が光って唸るたび小さく悲鳴を上げる二人を見ながら、ビリーはどうしているんだろう――と、何ともなしに思った。
それはどうやら、生まれたての子鹿のように震えている姉妹も同じだったらしい。
「ビ、ビリーは雷怖がってぇ、ないのかしらぁ……?」
「たぶん……怖がってはいないと思うわ、姉さん……」
「え?」
「だって、ほら……ビリーさんの口笛、聞こえてきません?」
そうなんだよねぇ……。
壁が薄いのか、隣の部屋からビリーの口笛の音色が聞こえてくる。
「二人が余裕なの腹が立ちますね」
「ナーデちゃんの気持ちぃ、よくわかるわぁ……」
「それは流石に理不尽な怒りでは?」
そんなこと言われても気にならないモノは気にならないんだから、仕方ないじゃないかッ!
夜もだいぶ更けた頃――
ひときわ大きい雷鳴と閃光。
それに驚いたひときわ大きいラタス姉妹の悲鳴。
直後に、雷とは異なる轟音が聞こえ、地響きが鳴った。
最後の音が何だったのか二人に聞きたかったけど、それどころじゃなさそうね……。
明日の朝、晴れてたなら確認しにいくべきかな?
そうして騒がしい夜が明けて見れば、窓の外は晴れ間が広がっていた。
軽く窓を開けると、雨上がり特有の湿った冷たい空気が入ってくる。
外のまぶしさと、その風の心地よさに目を細めていると、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「三人とも起きてる?」
そのドアをノックする音とともに、ビリーが声を掛けてくる。
チラリとラタス姉妹を見ると、二人で抱き合うように眠っていた。
雷が怖くてちゃんと寝れてなかったみたいだし、もう少し寝かしておいてあげた方がいいか。
わたしは音を立てないように起きあがると、そーっとドアの方へと移動した。
「わたしだけ起きてるわ。
二人は雷が怖くて寝れなかったみたいだから、もう少し寝かしてあげたいかな」
「わかった。
俺はこれから昨日の轟音の原因を確かめに行くけど、シャリアはどうする?」
「行くわ。すぐに準備するからちょっと待ってて」
わたしは、ビリーと一緒に宿を出て、音がしたらしき方角へと歩き――すぐに、昨夜の轟音の原因に気が付いた。
「先史文明の
「雨風だけが原因じゃないね。たぶん、あれに雷が落ちたんだ」
近づいていくと、当然その周辺は大きな騒ぎになっている。
ビルの折れた部分のみならず、その破片なども降り注いだようで、それによって倒壊したり潰れたりした建物も少なくなさそうだ。
全体的に野次馬たちがゴロツキっぽいのはこの町の特徴ってことだと思うけど……。
そのせいか、瓦礫の片づけや救助作業をしている人たちが、黒服だったり明らかに荒くれ者っぽかったりと、どうにもカタギっぽくないのが何ともいえない風景。
ともあれ、人的被害は少ないといいなぁ……などと思いつつ、周囲のざわめきに耳を傾ける。
「こりゃあ、ひどいな」
「この辺りのアジトやナワバリは壊滅か?」
「こんなアッサリとデカイ組織が崩壊するとはなぁ……」
どうやらこの辺りを根城にしていたのは、結構大きな組織だったようだ。
「でも、ボスや幹部の一部は不在だったんだろ?」
「そういや仕事でキャシディに顔を出しにいってるんだっけか」
「不幸中の幸いってヤツだよなぁ」
確かに野次馬たちの言うとおりだとは思うけどねぇ……。
いくら不幸中の幸いとは言え、一仕事終えて帰ってきた時、
わたしなら間違いなく寝込むわね。あるいはふてくされるか。
「しかし天下のゴールドスピーカーもこれで終わりか?」
「ボスが健在なら解散はねぇだろうけどよー……」
……え。
「ねぇシャリア。今、この辺りがゴールドスピーカーのナワバリって聞こえたんだけど」
「奇遇ね。わたしも似たような話が聞こえたわ」
参ったわね。
アースレピオスや、ラタス姉妹のお金があの瓦礫の下敷きになってたら、厄介どころの話じゃないんだけど……。
「おいおい。雨で足止めくってようやっと帰ってきたと思ったら、何だよこれは……」
そこへ、聞き覚えのある声がして、わたしとビリーは振り返った。
「あら奇遇ねジェイズ。あなたが今帰って来たところだっていうなら安心だわ」
「全くだ。しかも、いい場所で会えた」
その男とはジェイズ。
列車の中でわたしたちからアースレピオスを奪っていた連中だ。
わたしが太股を撃ったからだろう。
キッチリ手当てした上で松葉杖をついている。
「げ。嬢ちゃんに、ビリー……ッ!」
「ココで会ったが百年目ってねッ!」
笑みを浮かべるわたしとビリーとは正反対に、ジェイズは思い切り顔をしかめた。
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