第22話 これは、わたしが信じるわたしの正義

83荒野本文22


     22.これは、わたしが信じるわたしの正義



 入り口付近までやってくると、馬に乗って暴れ回っているバカどもが見えた。


「死にたくなけりゃ食いモンと酒ッ! 金目のモンを持ってこいッ!」

「あと女だッ! いい女であればあるほど、お前らの寿命が延びるぜッ!」


 姿格好も、装備も、言動も――

 いかにも悪党アウトローですと、全力で主張しているような連中だ。 


 それが五人ほど。

 身につけているものがそれなりの品であることを思うと、悪党の集団としては稼ぎが良いのかもしれない。


 まぁでも、連中がどういう輩かなんてどうでもいい。


「さぁ行こう。マリーシルバー」


 ホルスターから白いの相棒を引き抜き、口づけをする。

 己の欲望の為だけに、恐怖と暴力を振りかざして行う、正道に生きる人が過ごす罪なき町への略奪行為。それをわたしは許さないッ!


 パン――と、マリーシルバーが声を上げる。


 まず狙うは馬に乗っている男の一人。

 マリーシルバーの銃声うたごえは、馬の足下で銃弾を弾けさせた。


 それに驚き、馬が前足を高くあげる。


「なッ、どうした……ッ!?」


 直立するような馬の上で、必死を体勢を整える男。

 それによって、狙い通りに射線が通った。


 瞬間――二発目の弾丸をわたしは放つ。


「あ……」


 銃弾は馬の上に乗っていた男の額を打ち抜き、そのまま落馬。

 状況が分からず困惑する男たちの前に、わたしはマリーシルバーを構えたまま姿を見せた。


「あなたたち、当然覚悟はあったのよね?

 他者から略奪するというコトは、自分たちもいつか略奪されるかもしれないという覚悟が」

「何だァ、テメェ?

 俺たちがゴールドスピーカー一家だって分かってんのかッ!?」


 凄んでくる金髪の男に対して一発。

 これも眉間に撃ち込んだ。


 そのまま倒れ込む金髪に、残った三人は顔を青ざめさせる。


 この手の輩は中途半端にケガをさせると逆恨みして付きまとってくるし、そうでなくても腹いせという名目で罪のない集落を襲いかねない。

 タチの悪い仕返しもしてくる可能性がある以上、とっとと殺してしまうに限る。


 中途半端に情けを掛けて生かす方が、無抵抗で略奪されるよりも被害が大きくなる可能性があるっていうのは最悪にタチが悪いと思う。


 だからまぁ――そういう意味では列車の時の警備と連んでいるチンピラ相手と違い、見敵必殺の勢いでやらないとね。


「貴方たちがどこの誰なのかなんて知らないわ。

 この場で全員を殺して荒野の狡猾獣ワイルディ・コヨーテの餌にしちゃえば、その何とかって一味の耳にも入らないでしょうし」


 殺気を込めて睨みながら告げるも、向こうは意には介さないようだ。


「女一匹で調子乗りやがって……ッ!!」


 あるいは、殺気や実力差を理解できていないのか。

 どちらであっても、彼らの結末は変わらないけれど。


 残った三人が武器を構える。

 だけど、その瞬間にわたしはマリーシルバーの弾鉄ひきがねを引いている。


 それにより、ショットガン型のデバイスを構えようとしていた男の喉を撃ち抜いた。


「クソッタレがッ!」


 次にわたしと同じリボルバー型のデバイス使いが構えるけれど、あまりにも遅い。


 リボルバーを握る指を撃ち、続けてその男の額を撃ち抜く。


 これで四人。

 敵はあと一人。こちらの弾もあと一発。


「このアマァァァァァァッ!!」


 駆け寄ってくる男が握る武器は剣だ。

 刀身の形状は分からない。だけど、鞘に納めたまま構えていることから、瞬抜刃の使い手なのかもしれない。


 でも遅い。

 比べてしまうのは失礼かもしれないけれど、ビリーのそれと比べたら雲泥の差だ。


 男の剣が鞘走る。

 だけど、その刀身は鞘の半ばで勢いを止めた。


 七発目。

 目の前の剣士が剣を抜くよりも先に、その胸を射抜いた。


 マリーシルバーの煙る銃口に息を吹きかけ、わたしはホルスターに戻す。


「恨んでくれていいわよ。

 でも、立場だけならともかく、その性根まで悪党アウトローになり下がった悪党鼠アウトラッツの略奪は、許さないコトにしているから」


 暴力による略奪と逆恨みによる復讐。

 折り重なり、悲劇の連鎖を作り出しかねない。

 国と民を守る貴族として、見過ごすわけにはいかないから。


「ふぅ」


 一息付くと同時に、周囲から歓声が聞こえてくる。


「あ。まず……。

 どっかの悪党集団の一味みたいだから、この盛り上がりは……」


 住民が調子に乗ってしまうと、見せしめとして逆襲されかねないのよね。


「うあ。追いついたと思ったらもう終わってるし」

「ビリー」

「略奪集団に容赦はない……か。

 ベル領の生き方の一つってところかな?」

「ええ。この手の連中って、中途半端に傷つけた方があとあと厄介だから。ヘタな魔獣より怖いモノ」

「実感が籠もってるね」


 ビリーは軽く肩を竦めてから、告げる。


「この町がこいつらの仲間に目を付けられるのは面倒だ。号砲を一発、空へ向けてお願いしても?」

「ええ」


 わたしは弾を装填すると、言われた通りに天へ向けて弾鉄を引く。

 少しだけ霊力を込めることで、その銃声うたごえを増幅させながら。


 瞬間、歓声が止まる。

 その隙に、ビリーが高らかに声を上げた。


「お前たち、調子に乗るなッ!

 変に調子に乗って騒げばこいつらの仲間の反感を買うッ!

 オレたちはすぐに町を出て行くから、この件は知らぬ存ぜぬで通せッ!

 夜の羽ばたき陸貝リクガイのように、堅く口を閉ざし続けるコトこそがッ、この町の平和を守る行いだッ!」


 ビリーの言葉は正しい。

 だけど、民衆の全員がそれを正しいと理解できるかは分からない。

 お礼ぐらいはしたいと騒ぎ出す人だっていることだろう。


「それでも、彼女に礼をしたいと思うなら、馬車だッ!

 四人で乗れて、この死体も運べるような馬車を用意してくれッ! もちろん馬も一緒にだッ!

 こいつらの仲間に嗅ぎつかれる前に町を出たいッ! 大至急だッ!!」


 次の瞬間、動ける町の住民たちがすぐに動き出した。


 すごいな。

 ただ騒ぎを制するだけじゃなくて、ちゃんと感情の処理ができるように誘導してる。


「みんなッ、重ねて頼むッ! 変に調子に乗らないでくれッ!

 それによってこの町が復讐という略奪の被害に遭ってしまったのなら、彼女の奮闘が無駄になるッ!

 お礼をしたいと思うなら、この町が悲しい目に合わないように、みんなで協力して欲しいッ!」


 その上で、命令口調ではなくお願いするような口調で再度の言葉を告げた。

 これでこちらの意図と思惑が通じてくれればいいのだけれど。


「ビリー、シャリアちゃん!」

「二人とも何をしているんですか?」

「説明は後でする。

 町の人たちが馬車を用意し終わったら、馬鹿の死体を乗せてすぐに出発するぞ」


 ビリーの言葉に二人は顔を見合わせつつも、すぐさまうなずいた。


「準備は終わってるわぁ」

「私も問題ありません」


 よし――とビリーは一つうなずくと、わたしのほうへと向き直った。


「シャリア。君がカナリー貴族として略奪から町を守ろうとする意志は理解しているつもりだ。

 だけど、今は逃亡の旅の途中。もう少し後先を考えて行動してくれると、助かる」


 苦笑混じりにそう告げるビリーに――


「申し訳ございませんでした」


 ――落ち度しかないわたしは、素直に頭を下げるのだった。



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【用語補足】

『羽ばたき陸貝/はばたきりくがい』

 カナリー王国内の砂漠に生息する貝で、昼は羽ばたくようにその貝殻をカチカチとやかましく打ち付けながら移動する、騒がしい二枚貝。

 日が暮れて、気温が下がるとその貝殻を堅く閉じて静かに動かなくなることから、口を噤んで黙ること……転じて秘密を守ることを意味する言葉に使われている。

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