第23話 その道行きの分岐点
旧ハニーランドと新ハニーランドは線路で繋がっている。
今は使われていない線路ではあるけれど、道標として役に立っているというわけだ。
でも、わたしたちは今、その線路から大きく離れた場所で馬車を走らせている。
「なるほどねぇ……。
ベル辺境領は、危険地帯の魔獣だけでなく、略奪者とも戦い続けてきた家柄なのねぇ……」
「うちの領地は、人種に対する偏見は薄いんだけど、よその土地はそうでもないでしょう?
ああいう人たちは、相手がカナリー人だろうと、岩肌人だろうと関係ない。
家畜か玩具のように人を扱い、その土地から食料やお金を奪い、ただ自分たちが楽しむ為だけに女を奪う。
痛い目に遭わせて追い返せば、逆恨みして虐殺行為を平気で行ってくる。
だからこそ、わたしは略奪者は初動で殺すという手段を身につけた。
わたしに限らず、ベル辺境領で主に働く騎士や
「シャリアさんの顔を見る限り、そうとう陰惨な状況だったのでしょうね」
ラタス姉妹もまた岩肌人の血が混じっている。
だからこそ、差別的な視線と、そこからくる扱いなど多少は想像できるのだろう。
「次の死体はこの辺でいいか。
適当に投げ捨ててくれ」
御者をしているビリーが声を掛けてくる。
それにうなずいて、わたしたちは死体の一つを荒野に投げ捨てた。
一カ所に固めて捨てると、魔獣が食い残す可能性があるし、遺留品が固まって発見されてしまう可能性もある。
万が一にでも彼らを探す者がいた場合、それらの捜査を混乱させる為にい、離れた場所に点在させるように捨てていくんだそうだ。
町から離れた場所で捨てるのも、彼らが勝手に荒野で野垂れ死んだのを装う為らしい。
「そうだ、シャリア。
死体を全部捨て終わったら、いよいよ
「どうするって?」
ビリーの質問の意図が分からず、わたしは首を傾げた。
「
……君の故郷であるベル領グランベル駅に止まる列車に乗れるんだ」
あ。
そうか。
ビリーたちはあくまで、わたしの護衛みたいなものだ。
あの時の列車の中で、警備兵からも狙われていたからこそ、ビリーはわたしに手を差し伸べてくれた。
その手を取った時から、ビリーはわたしを巻き込んだお詫びとして安全な場所まで送り届けてくる為に動いていてくれたんだ……。
つまり、旅はここまで。
新ハニーランドにたどり着いたなら、ビリーたちとはお別れだ。
お別れ――その言葉に、想定以上のショックを受けている自分がいる。
この短い旅の中で、わたしはすっかり四人でいるのが当たり前に感じるようになってしまっていたらしい。
ビリーにも、ラタス姉妹にも目的がある。
わたしにも無いワケじゃない。
家に帰り、両親に謝罪し、婚約者と女王陛下に謝罪し、関係を元鞘に戻す。
あのクソみたいな性格の婚約者も、調教してまともにしてやる――そう息巻いていたのは自分のはずだ。
「シャリアちゃんッ!?」
「え? なに? ナージャンさん?」
「いやだってぇ、シャリアちゃんってば急に泣き出すからぁ!」
「泣く? え? わたしが……?」
言われて目元に触れると、確かにわたしは涙を流していた。
「ほん……とだ……」
「別れるのが嫌なのねぇ……。
あたしも嫌よぉ、こんな良い子のシャリアちゃんと別れるのぉ……」
「ですが姉さん。シャリアさんが良い子だからこそ、別れなければならないんです」
ビリーも、ナージャンさんも、ナーディアさんも、手配書が出回っている。
今はわたしも出回っているけれど、だけどそれは政治的なニュアンスが強いものだろう。
政敵の関係者に手配を掛けるという嫌がらせは、王国の政治では当たり前に行われているものだから。
いや、手配書とかはどうでもいいんだ……。
根本的なところで、三人は世間的に
立場的に、状況的に、そうならざるを得なかった
性根から行いまでもが完全に落ちきった
世間的には
そこに、生粋の貴族である自分が関わる余地なんて、本当はないんだ。
「悩んでいるところ申し訳ないんだけど、そろそろ次の死体を捨ててくれ」
死体を捨てる行為が、まるでカウントダウンだ。
すべての死体を捨て終わる前に、答えを出さなければならない……。
だけど、答えは出せるんだろうか……。
わたしの中にある天秤。
そこには、ビリーと婚約者がそれぞれ乗っていて……。
逃亡当初は、政略や常識を乗せることで婚約者の方に傾いていたはずなのに……。
そこへ、さらに立場や責任など様々なものを乗せても、今はもうビリーの方へと傾いたままになっている。
別れる間際になって気づいた。気づいてしまった。
わたしは自分で思っていた以上に、ビリーと別れ難いと思っている。
婚約者や、色んな立場や責任の
そして、それがどうあっても認めてもらえるものではないと、理解している……。
何より、全てを捨ててビリーを選択するというのは、これまでの自分が行ってきたことへの裏切りだ。
犯罪者を、略奪者を――正義と信念を貫く為に、必要とあらば責任を背負って殺してきたわたしが、それを選択するなんて許されるわけがない。
そんなもの、わたし自身が許せない……。
でも、わたしは……ビリーのことを好きになってしまっている。
わたしは……
わたしは……
わた、し、は……
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