第19話 魔蜂の包囲網を突破せよ
「多いわねッ、ダガービーッ!?」
「撃ち漏らしは気にせずとにかく落とすんだッ! 近づいてくるのは、俺が斬るッ!!」
歩き始めてしばらく。
距離にしては半分ほど歩いたところで、わたしたちは何故かダガービーの群れに襲われていた。
「どうなってるんだこれ……」
ダガービーを斬り散らしながら、うめくビリー。
何となく心当たりはなくもない。
「
ビリーが切り落とせなかった奴を打ち落としながら、わたしが心当たりを口にする。
「ダガービーにもそんな習性があるのかしらぁ……ダガービーと戦ったのは初めてじゃないけれどぉ、こんな状況初めてよぉ……」
「でも、ダガービーの行動範囲が広いってコトを考えると、シャリアさんの言うコトも間違ってないのかもしれないわ」
炎を踊らせながら、ラタス姉妹も会話に加わった。
「匂いを放っても近くに仲間がいないんじゃやってこない……か。
逆に言えば、近くにいれば急行して襲ってくると」
「今回の場合、近くに巣でもあるんじゃない?」
「なるほど。それはありそうだ」
うなずきながら剣を振るうビリー。
わたしもマリーシルバーの弾鉄を引く。
装填されている弾はこれでラスト。
補充したいところだけど――正直、いつ終わるか分からない群れを相手にしていると思うと、ためらいがある。
「あんまり好きじゃないんだけど……ッ!」
ダガービーに限らず相手の数が多いと、どうしても弾切れになってしまうのよね。
なにせマリーシルバーは七発しか装填できないしッ!
だけどSAIデバイスで撃てるのは銃弾だけじゃない。
霊力の利用を補佐する機能があるということは、実弾を使わずともそれを利用できる。
なのでわたしは弾を装填せず、物理モードから霊力モードに切り替えた。
「
そして、弾切れのマリーシルバーに霊力を込めて
マリーシルバーは実弾を撃った時よりも高い
発射されたのは、金属の弾丸ではなく白い光の塊。
実弾ではなく、霊力の塊を撃ち出す特殊モード。
わたしの霊力がある限り弾切れ知らずな上に反動が小さいという利点がある。反面で、威力も速度も実弾と比べると今一歩というのが欠点だ。
でも、こういう数で圧してくる相手には有効だ。
ましてや、一匹一匹はそこまで頑丈ではない。むしろ脆いダガービーなら尚更だ。
わたしは銃口の先に小さな星霊陣が常時展開しているマリーシルバーをダガービーたちへと向ける。
――とはいえ。
「キリがないわよッ!」
「
わたしがぼやいた直後、ナーディアさんが熱衝撃波を放つ。
魔蜂をまとめて焼き払ったその瞬間、この大量の蜂の流れが見えた。
「ビリーッ! あそこッ!」
わたしが指差す先。
そこには、大きめな古木と一体化したような蜂の巣がある。
「あそこ? 何もないぞ?」
「え? あっちの方向! だいぶ先の方の木に、蜂の巣っぽいのがあるじゃないッ!」
「何となく向こうから来てる気はするけど、分かんないってッ!」
まずい。ビリーには見えてないらしい。
どうしよう……そう思った矢先、ナージャンさんが叫ぶ。
「みんなぁッ、シャリアちゃんが言った方向へ向かうわよぉッ!
この場で対応し続けても限界があるんだからぁッ!!」
ビリーもナーディアさんも異は唱えない。
それどころか、わたしの背中を押すように二人が告げた。
「シャリアッ! 蜂の巣までの案内を頼むッ!!」
「お願いしますシャリアさんッ! このままではジリ貧になりますのでッ!!」
「りょーかいッ!」
そしてわたしは走り出す。
三人もその後ろを付いてくる。
わたしもビリーも駆け抜けながらも、落とせるダガービーを確実に倒していき――
「私にも見えたッ! 姉さんッ!」
「うんッ! 見えてるわぁッ!!」
二人が何かをしようとしている。
わたしとビリーは視線を巡らせ、うなずきあった。
そしてビリーが先行して踏み込んでいく。
「斬り散らすッ!
鞘走りとともに抜き放たれたビリーの刃から、桜色した無数の霊力刃が舞い踊る。
迫り来るダガービーは刃の壁に阻まれて動きを止めた。
それを見据えながら、わたしは腰のポーチから銃弾を一発だけ取り出して素早く詰める。
これから放つのは、わたしの手持ちにある数少ない必殺技らしい必殺技。
実弾と霊力弾を同時に放つ一撃だ。
込めた霊力が多ければ多いほど貫通力と速度が上がる。
とはいえあまり時間は掛けられない。
少し強めの霊力でチャージを切り上げ、弾鉄に指を掛けた。
「
普段より大きい反動に耐えながら、光を纏った弾丸を放つ。
射線上の蜂を蹴散らし、近くにいた蜂は余波でよろめかせながら、正面の蜂の巣へと突き進む。
「ビリーさんッ、シャリアさんッ! ありがとうございますッ!」
ナーディアさんはお礼を口にしながら水晶を真っ直ぐに掲げた。
「
その言葉とともに、水晶を中心に展開する星霊陣から宙を駆ける雷が放射状に広がって、広範囲の蜂を落としていく。
全てを倒せるワケじゃないけれど、道は完全に開いたッ!
そこをナージャンさんが霊力を込めたムチを構えて駆け抜けていくッ!
バチバチとスパークするそのムチを振りかぶり、小さく飛び上がりながら振り下ろすッ!
「
ムチから放たれた落雷が、古木ごと蜂の巣を飲み込んだ。
焦げた蜂蜜の良い香りが漂う中、周囲のダガービーたちが一斉にナージャンさんに向くけれど、数はもうだいぶ減っている。
「よし、あとは残りを片づけるだけねッ!」
「ナーデぇッ、お姉ちゃんが守るからぁ、ガンガン
「了解よ、姉さんッ!」
あとはもう、とんとん拍子で蜂の数を減らしていける。
先が見えなかった時と違って、巣を燃やした以上いつか終わるワケで、精神的にラクになったからね。
そんな魔蜂の残党との戦いの途中――
「ビリー?」
「いや……シャリア、視線を感じないか?」
「視線?」
障害物の少ない荒野を見渡してみるも、わたしはそれを感じない。
「気のせいなんかじゃないと思うんだけど……いや、今はもう感じないか」
「ビリー、その視線に関してはとりあえず片づけてから考えましょう」
「そうだね。シャリアの言う通りだ。とっとと終わらせるとしよう」
そうして、周辺のダガービーを全て倒したあとで、ビリーが視線を感じた方向を少し調べる。
「人がいた形跡はあるな……。
やっぱり、誰かが俺たちを見てたみたいだ」
「それが誰なのかは分からないけど、町へ行っても油断は出来ないかもしれないわね……」
「旧ハニーランドでもぉ、あんまりゆっくり出来ないかもねぇ……」
「オジサマが背後にいるコトを思えば元々ゆっくり出来なかったのでは、姉さん?」
何はともあれ、わたしたちは歩き出す。
旧ハニーランドへの残りの道程はトラブルなく、到着出来たのだった。
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